1―ガジルラン王国1
ショーマとソラは先日立ち寄ったガジルラン王国の深い森の中に転移してきた。現地時間は太陽の高さからだいたい午後3時頃。
ショーマはソラの背によじ登り、荷物を固定する。出発の合図で舞い上がり、二人は首都ガンラのある北東へ向かった。
飛行姿勢が安定すると、二人は会話を始める。
―――さっきはビックリしたね。あんなにヒスイが泣くと思わなかったよ。
―――僕も驚いた。よっぽど寂しかったんだなぁ。
・・・。
さっきの出来事を思い出しながら二人は押し黙った。
───お風呂に入った後───
ショーマはソファに深く体育座りの様に膝を曲げて座り、足の間にヒスイを座らせた。ショーマの右手にはソラが作った猪の剛毛製のブラシ。それと送風魔法を駆使してヒスイの地肌を傷付けない様、ゆっくり丁寧に髪を乾かしつつとかしていく。
狭いソファにぎゅっと二人で座る様は微笑ましく、ソラとサクラは優しげな眼差しを向けていた。
「よし、終わり!」
サラサラになったよとショーマに言われて、ヒスイは自分の髪をにこにこしながら触る。
「さてと。父さん、そろそろ行こっか」
ショーマの言葉にヒスイがぴくりと反応した。
「にーちゃん、いっちゃうの?おとーさんも?」
ヒスイが目をうるうるとさせながらショーマを振り返り、それから隣に座るソラを見上げる。
ソラはヒスイの頭に手を乗せた。
「ごめんな。お仕事だから行かないと。ヒスイはいい子で待っててね」
頭を撫でながら言うソラの言葉にヒスイの目にはみるみる涙が溜まる。
「いっちゃ、やー、うっくっ、ひっくっ、やぁーあ!!」
泣き声と共に涙が溢れた。ヒスイはソラの前に回るとソラの足に掴まり離れない。あまりにも必死なその姿にソラは困った顔でサクラを見た。
「あらあら、我慢の限界なのかしら」
「我慢?」
「ヒスイは急に私と二人きりになって寂しくなったみたいなの。この前までアンズちゃんがずっと一緒にいたから余計にだと思うわ。昨日もまだ帰って来ないの?って何度も聞いていたし、4日も離れていたのは初めてじゃない?」
ソラはヒスイの背をトントンとあやしながら考えを巡らせる。
「──そう言われたらそうかもしれない」
「でしょう?ほらヒスイ、お父さんが困ってるから離れてあげて?またすぐに帰ってくるから」
サクラがヒスイを剥がしにかかる。それでも嫌だとヒスイはソラの足を離さない。
ショーマは終始おろおろと手を上げたり下げたり忙しない。
ソラは無理に離そうとしなくて良いよと二人を止めた。
結果、ヒスイが泣き疲れて寝入ってしまうまで、ソラは立ち上がる事が出来なかった。
─────
―――ねぇ父さん、提案なんだけど。
―――うん?なんだい?
―――明日の朝起きたら一度洞窟に帰らない?たぶん向こうは丁度お昼だと思うから。
―――そうだね。少しの時間だけど帰ろうか。
ショーマとソラは明日の朝、洞窟へと戻ることにした。
◇◇◇
太陽の光がオレンジに変わる頃、二人はガジルラン王国の首都ガンラ上空へやってきた。
―――ショーマ、そろそろ準備して。
―――うん!自分で飛べるっていいねー!!
そうだねと笑うソラの背からショーマは荷物を外し立ち上がる。そして自前の翼を出現させた。
―――じゃあ飛ぶね!
ショーマはそう言うと自分の翼を動かす。バサッと羽ばたきソラの背から浮き上がった。
ソラはショーマが完全に離れたのを感じると人化する。そして、その場で服をバサバサとはためかせながら滞空するショーマに近付き、荷物を受け取った。
―――ショーマ、その翼は透明にならない?
―――うーん。無理かも?どうして黒いのかも解らないから。色を変える事なら変装魔法で出来るけど。
―――そうか・・・ちょっと目立つからおいで。
ソラは少し悩んでショーマを抱き寄せた。ショーマは素直にソラの腕の中に納まると翼を消す。二人は街へと降りていった。
ある程度高度が下がると、ショーマは周囲をぐるりと見た。視線が一際大きな城に固定される。
街の中央にある城の敷地は崖の上にあり、その中央に巨大な城が建っている。敷地の周囲には豊かな森があり、森の外側には高い城壁が聳えている。その城壁の外側には南側を中心に大きな屋敷が集まり、更に外に向けて家々が軒を連ねる。まるで森で城を、街で森を取り囲んでいる様な状態だ。
道はシャインレイのラアイテの様に中央へ向かって整備されている訳ではなく、内へ内へと螺旋状に延びている。その道を辿ると、城の敷地は南側のみが街と地続きの様だ。そして道の代わりに水路が中央から外へ放射状に流れていた。
へぇー。ソローシャンやシャインレイよりお城が豪華だな。尖塔がたくさんあって、テーマパークのお城みたい。ソローシャンは要塞っぽくて、シャインレイは迎賓館っぽい感じだったからな。国によってだいぶ趣きが違うものだね。
てか、あんな森が街の中にあって大丈夫なのか?魔物とかめっちゃ棲んでそう。
二人は街の外縁に割と近い、建物の隙間に着地した。
数歩で路地に出る。路地の両側には三階建てのアパートの様な建物が建っているが、人気があまり無い。各戸の庇から下がる洗濯物を見るに、出稼ぎの単身者が多く住むのだろう。どうやらここは昼間は留守が多いエリアの様だ。
まだ夕方とは言い難い時間帯なので煙突から煙の上っている家が少ない事も、人気の無さに拍車を掛ける。
この辺は下町の昭和レトロなアパートみたいな感じかな。四畳半一間で風呂トイレ共同な、古き良きシェアハウス?若しくは若手漫画家の集う〇〇荘?
個人的にはあのお城に合わせてロンドンとかローマ辺りのアパートっぽい見た目の方が良かったかな。まぁ、基本が平屋で江戸の長屋風のライオネルに比べたらまだマシか。
「ガンラはかなり栄えてるね。上から見た感じお城の敷地も広かったし、この辺の庶民的な建物もずいぶんと立派だよ」
ショーマはキョロキョロと周りを見つつ、感想を述べた。
「街の規模はシャインレイのラアイテより少し小さいくらいかな?」
「そうなんだ。そう言えばラアイテを上から見たこと無いや」
二人は取り留めもない話をしながら路地を抜け、人通りの多い表通りへ出た。
「今日は宿に泊まろう」
ソラの言葉にショーマは驚く。
「え?一日目はもっと移動するって言ってなかった?」
「その予定だったけど、思いの外ここに来るまでに時間が掛かっただろう?今から街をぐるっと見て、外に出てとやっていたら、野営予定地に着く頃には夜中になるんじゃないかな」
「・・・うん。確かに。街中を見て(転移スポットを探して)回って、外に出て(ドラゴンになれる様な)場所を探してってやってたら夜中だね。そこから野営の準備なんて無理!」
ショーマは想像だけで顔をげんなりとさせた。ソラはそれを見て苦笑う。
二人は通りを歩き、先ずは宿を探すことにした。
「ねぇねぇ、あの緑の看板の建物は宿屋じゃない?」
「本当だ。部屋が空いているか聞いてみよう」
二人は通り沿いに見つけた宿屋へ行ってみることにした。
宿屋の受付は一階の飲食店の奥にあった。カウンターの中には小綺麗な格好をした男性従業員が居る。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
「ええ。二人部屋を一泊でお願いします」
「二人部屋ですと一泊銅貨80枚になります。朝食はいかがしましょう。こちらのレストランでの食事になりますが」
「朝食はいりません」
ソラは銀貨を一枚渡し、おつりの内から適当に半分くらいをチップとして渡す。
「ではこちらの鍵をどうぞ。部屋は2階の3号室です」
ソラはほくほく顔の従業員から鍵を受け取り、ショーマを伴って部屋へ向かった。
「ここはチップが必要な国なんだ!」
ショーマは部屋に入るなりアメリカみたい!と感動していた。
「国によっては渡しておかないと、寝ている間に盗みに入られたりするからね」
ソラはディラントで貰った資料に書いてあったよと何でも無い様に答える。
「げっ。あれ?ラアイテに泊まった時はチップを渡して無かったよね?」
「シャインレイは逆にチップを渡すと接客の質が落ちる。馬鹿にするなってね」
「へぇー。国が変われば国民性が全く違うものなんだね」
「他の国に行く時は気をつけないとね」
二人は適当に街を散策した後、一階のレストランで夕食を食べ、寝る前にサクラ宛の手紙を洞窟まで転送した。
朝木 「ショーマんちはヒスイを中心に回ってる?」
ショーマ「当たり前じゃん。今さら?」
朝木 「ショーマが溺愛してるから仕方ないのか」
ショーマ「フフッ。ヒスイを可愛くないって言う奴が居たら八つ裂きだな」
朝木 「ちょっと!悪い顔してるよーっ!!」
ヒスイは皆のアイドル!
ショーマはヒスイの為なら悪魔にもなれる様で…!?
いやいや、キミは魔王だからね!!
次回、サフーラ大陸初上陸!です。
あの危険思想の国に入る前にやる事があるんです!
応援して頂けると嬉しいです(^^)
訪問だけでも大感謝(^^)/
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ゴシゴシ (p_q;)
(ええ!?>(゜ロ゜;)
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150,000人目のお客様は11/4(月)12:00台にいらっしゃったアタナです!
日々のご愛顧(?)に感謝です♪ヽ(´▽`)/
※次回更新は11/11(月)です。よろしくお願いします。