32―大会議室1
遅くなりました。
ヒルダが大会議室の扉を無造作に開く。
ショーマとソラがレオンと朝の挨拶を交わしていると、ヒルダがナルアルトの不在に気付いた。
「おや?ナルはどうしたのじゃ?」
「ナルは今茶の用意をしている。ジーク、今の内に挨拶をしておけ」
「ァア!?」
レオンは奥の長椅子でグッタリとしている人物に話し掛けた。その人物は全身を黒い西洋式の甲冑で覆っている。レオンに悪態をついた低い声から中身は成人男性の様だ。
「挨拶をしろ」
レオンは声を抑えて甲冑男に再度命令をした。
甲冑男はガシャンガシャンとこちらに移動するとソラに向かって名前を呟いた。
「──ジークフリード23世」
名前を発しただけにも関わらず、不機嫌が滲み出ている。
「はは。ソラです。久し振りだね。レオンさん、ジークは相変わらず尖ってますね」
「まったく困ったものだよ」
ソラとレオンはほのぼのと会話を交わす。ショーマは甲冑男をソラの隣に立ってじっと見上げている。
うわぁ。全身鎧とか、めっちゃ重そう。脱がないのかな?
甲冑男は目元を覆うバイザーを押し上げた。吊り上がった目に納まる金色の瞳がギラリと光る。
「ソラ?」
「ああ、人型は初めましてだったね。ドラゴンのソラだよ。で、この子は僕の息子のショーマ」
「あ、ショーマです!俺もジークさんって呼んで良い?」
「ガキが。馴れ馴れしくすンじゃネェよ」
おおぅ!威勢が良いなぁ。中身は不良少年かな?
ショーマは拒絶されたにも関わらず何故かウキウキとしている。自分の今の歳を棚に上げてなかなか失礼な事を考えているらしい。
「これジーク。ショーマは魔王じゃぞ」
「ァア?魔王だァ?」
ヒルダの言葉にジークはショーマを睨み付けた。ショーマはそれを受けて殊更ニッコリ笑いかける。
「──魔王にしちゃ随分と可愛いじゃネェか」
ジークの呟きに部屋の時間が一瞬止まった。
レオン、ヒルダ、ソラが堪えきれずにくつくつと笑い出す。ショーマは少しムッとして言い返した。
「先に言っておくけど!俺は男だからね!!そこんとこ間違えないでよ!?」
「ンなこたわァってるよ。さっきソラさんが息子って言ってたじゃネェか」
「・・・え?ジークさんってそっちの人?」
やば。俺が男って解ってて可愛いとか言ってんの?
ショーマはサッとソラの後ろに隠れた。
「ハァ?」
「ほほほ。ショーマはジークが男色だと思うたのかの?」
「大丈夫だ。こいつは嫁さんが大好きなだけのただの子供好きだから。ジークもそろそろ兜を脱いだらどうだ?」
レオンに言われ、ジークはチッと舌打ちをしながら兜を脱ぐ。
真っ黒い兜の下からは鮮やかなレモン色の髪が現れた。彼はへたった短髪をバサバサと掻き上げ、ショーマに向かい合う。目の下にはうっすらと隈があり疲れた様子だが、ニヤッと不敵に笑った。
「オレはジークフリード23世だ。ジークでいい。見た目通りの獅子人だ。こんなデカイ息子が居ンだナァ」
ジークが差し出した右手をショーマは恐る恐る握り返した。レオンの言葉を全く信じていないらしい。何かあれば直ぐにソラの後ろに隠れられる様に腰を落としている。そして、ヒルダを振り仰いで質問を投げた。
「えっと、見た目通りの獅子人って何?」
「魔族で金目は獅子人なのじゃ。言ってなかったかの?しかし、ショーマは随分とへっぴり腰じゃの。そんなにジークが恐いか?」
「聞いて無い!それにこれくらいは慣れてるし恐くない!」
でも、俺はいたってノーマルだから!ハジメテは可愛い女の子が希望だから!!
揶揄うヒルダにショーマは反論するも、腰が引けて説得力が無い。
「わりィわりィ。オレの息子の子供時代を思い出しただけだ」
ジークはショーマの頭を撫でようとしたが、ショーマは咄嗟に両手で頭を隠す。撫でるのに失敗したジークは嫌われちまったなと笑いながらショーマから離れた。
「皆様、お待たせ致しました」
ナルアルトがカートを押して部屋に入ってきた。ショーマ達は中央の大きな机に移動する。その机にはショーマの持つ地図よりも大きな地図が既に広げられていた。
机の側面には取っ手が等間隔についており、引き出すとカップホルダーの様になっていた。ナルアルトはそれをソラとショーマに教え、皆にお茶を配っていく。
「さて、そろそろ本題に入ろう。ショーマ、女神様から貰ったリストを出してくれ」
ショーマは女神から貰った一覧表を取り出す。それを皆で覗き込む。
・メルバザン王国
・ガルメイナ王国
・ザンティス王国
・トキヨナ国
・ラナノワ国
・サートミーラ王国
・カンテーリー国
・・ミスリノート聖国
・・ディラント国
「上三国が直ぐそこのトロープ大陸だな。メルバザンがガルメイナ、ザンティスにちょっかいを出している。その二国は一応同盟国だ」
レオンがメルバザン周辺の事情を話していく。
「それなんだがよ、最近ガジルランも同盟に加わった。後で報告書を渡すから見てくれ。人員の手配もしネェとな」
ショーマは今のレオンとジークの話を聞いて、ガジルランの名前をリストに追記する。
ガジルランに寄り道しておいて良かったね。とのソラの囁きにショーマは頷き返した。
「ガルメイナとザンティスの二国は王都と港町にそれぞれ魔族の拠点があるのじゃ。ガジルランは追々拠点を設置する事になるの」
ヒルダが地図を指差し場所を伝えて行く。ソラはその指の先をしっかり記憶している様だ。ショーマも自分の地図にマークする。
「メルバザンは広いから王都メルベイと港町ラクテイ以外にも拠点があるのじゃが。ナル、我らが拠点に活動しておる街はどこだったかの?」
「ハームサライの監視の為、フィーサの村に数名。それからマルセイの街、あとはカディレイの街ですね。あくまで拠点ですから同胞はその周辺に散らばっていますが」
ナルアルトは地図を次々に示す。
ショーマはその街や村に行けばいいねと言いながら、これまた地図にマークしていく。
「そうだ。フィーサの村にはまだジェフリーさんとマーサさんはいらっしゃいますか?」
「まだ交代しておりませんので在駐している筈です」
ソラの質問にナルアルトが答えた。ショーマが不思議そうな顔をする。
「ジェフリーさんとマーサさんって?」
「ショーマを助けるのを手伝ってくれた人だよ。生まれたばかりで捨てられたショーマはかなり弱っていたから、直ぐに洞窟には連れて帰れなかったんだ」
ソラがショーマにあの時の事を説明する。
ハームサライから赤ん坊のショーマをどうにか回収したソラは魔族を頼ってフィーサの村に駆け込んだ。ディラントから女神の伝言を受けていた熊人のジェフリーと鳥人のマーサ夫妻がミルクなどの世話をショーマの容態が安定するまでしてくれた。
「その二人も俺の命の恩人なんだね」
ソラはショーマの頭を撫でながらそうだよと懐かしさに目を細めた。
「そう言えば、ショーマはメルバザンの出身だったの。生家にはよらぬのか?」
「いやいや、黒だからって俺の事ぽいっと捨てた家なんか行かないよ」
「そういや今の魔王は黒っつー話じゃネェか。んでショーマが魔王なんだろ?なんで紫なんだァ?」
「うわ出た、黒崇拝者」
「ぁあん?ナル、テメェやンのかコラァ」
ヒルダが思い出した様にショーマに話を振るも、ショーマは嫌そうに返す。それを聞いていたジークがショーマの色に疑問を持つ。すかさずナルアルトがジークに突っ込み、ジークがナルアルトに詰め寄ると言う何故か一触即発の事態に陥った。
ショーマはこの急転回について行けていない。今にもジークに掴み掛かられそうなナルアルトからそっと距離を取った。
「止めんか!」
レオンのドスの利いた声でジークはピクリと止まり罰が悪そうにそっぽを向いた。ナルアルトは申し訳ありませんとレオンに頭を下げる。
ジークはレオンに部屋の端へ連れて行かれ、お前がしっかりしてくれないといつまでも引退出来ないと説教されている。
「ほほほ。ジークは相変わらず黒が好きじゃな。
あぁ、すまんの。ジークの黒崇拝はレオンのせいなのじゃ。黒系統の獅子人は本当に稀での。その強さも相まってジークの憧れなのじゃよ」
説明を求めるショーマとソラの視線に気付いたヒルダがさっくりと教える。
「そう言えば、リーナさんが黒好きの魔族が居るって言ってたけどジークさんの事だったんだね」
ショーマは変装魔法を解いて黒に戻ってやってくれと言われ、自身の変装魔法を解いた。戻ってきたジークから非常に羨ましがられたのは言うまでもない。
朝木 「ジーク可哀想」(ー_ー;)
ショーマ「え!?なんで!?」
朝木 「ただの子供好きヤンキーじゃん」
ショーマ「男って判ってて可愛いっつったんだよ!?」
朝木 「はぁ。ショーマは今の自分の容姿を忘れたの?10歳の可愛い男の子だよ」
ショーマ「ぬあ!?そうだった!!」Σ(゜Д゜)
ジークフリードは元ヤン子持ちの子供好き。
チンピラと言うよりヤンキーです。
彼が不機嫌だった理由は、ヒルダからの呼び出しで南部の村から駆け続けて疲れていたからです。
ちなみにジークとナルアルトとリーナは幼馴染みです。
☆獅子人の名付け
獅子人はその色によって名前が決まっています。
レオンハルト5世は黒系統5人目の獅子人。
同じ様にジークフリード23世は黄色系統23人目の獅子人です。
次回、他の国は?です。
そろそろディラント終わるな!
フラグ!?(; ゜Д゜)笑
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