6―魔法の杖
ソラとショーマは一軒の工房の前へやってきた。
「あ、あの看板に杖のポンプシンって書いてあるね」
「鞄屋のお婆さんが言ってた通りだね」
二人は早速、店内へ入る。
「ごめんください」
「こんにちは。ってあれ?誰もいない?すいませーん!誰かいませんかー!」
ショーマは店の奥に向かって大声で呼び掛ける。すると、奥から声が聞こえてきた。
「ちょっと待っててくれー」
「あ、人居たね。作業中かな?」
「そうかもな。ウィス、杖にはいろんな種類があるみたいだよ」
ソラは壁に並べて飾ってある杖を見ている。
「ほんとだ。用途によって使い分けるのかな?1本だけ買えば良いと思ってたけど」
「それは、お店の人に聞けば良いと思うよ」
暫くすると店の奥から、店主の男性が出てきた。
「お待たせしましたー。作業が途中だったものでね。で、今日はどの様なものをお探しで?」
「この子が今度魔法学校へ通うので、杖を探しに来ました」
店主はショーマを上から下まで眺める。
「ふんふん。ちなみに、杖についての知識はあるかい?」
「すいません。何分素人なもので、そこからこの子に教えてあげて頂けませんか?」
「わかった。ちょっとこっちにおいで」
「ウィス、聞いておいで」
「うん」
店主はショーマを商品の並ぶ壁側へ誘導する。
「杖は見ての通り、大まかに2種類ある。魔法陣を使う事に特化した錫杖型、呪文を使う事に特化した指揮棒型。でもまぁ、錫杖型でも呪文を使えるし、その逆もまたしかり」
「成る程。どちらか一つを持っていればとりあえずは大丈夫なんだね」
「そう言うこと。それから、材質は木、石、金属、魔物の素材で出来ている。高級な物になると、魔石を組み込んだ物もある」
「あの、魔石って何ですか?」
ショーマは手を挙げ、質問する。
「嬢ちゃんはそんなことも知らないのか」
「ごめんなさい。俺男です」
ショーマは即座に訂正する。最早手慣れたものだ。
「それは悪かった。坊っちゃん、魔物は見たことあるかい?」
「一応、山で会った事が有ります」
「そうか。その魔物の体内には魔石が有るんだ。魔石は魔力を作っている器官だと言われている。そして、人が使うと魔法の増幅装置の役割をするんだ」
「へぇ。そうなんだ」
ショーマは今まで従えてきた魔物達を思い浮かべる。
「最高級の魔石はドラゴンの魔石だと言われているよ。まだ誰も手に入れた事は無いがね」
「へ、へぇー」
ショーマは思わずソラを見る。ソラは特に気にしていない。
「さて、杖についてはこんな感じだ。お父さん、予算はどれくらいだね」
「木製の物でいくらからですか?」
「そうだな。全部木製の指揮棒型で銅貨30枚から、錫杖型で銅貨50枚からだね。坊っちゃんは指揮棒型の方が良い気がするな」
「では、指揮棒型で銅貨50枚くらいの物を見繕ってもらえますか?」
「はいよ。坊っちゃん、ちょっと相性を見るからこっちにおいで」
店主はショーマをカウンターへ招く。そしてカウンターの引き出しから、いろいろな木材で作られた杖を取り出した。
「今ここにあるのが全部銅貨50枚で買えるものだ。一つ一つ手に取ってみて」
ショーマは言われた通りに右端から手に持っていく。
「うーん。次。これもダメだな。次。・・・はぁ。全部ダメだ」
店主は頭を抱えてしまった。
「あのー、なんでダメって判るんですか?」
「ダメだと持つ瞬間に少し魔力が弾けて見えるんだよ。杖が拒否してるって事だな。ほとんどの木材から拒否されるなんて滅多にない事だよ」
「そんな。どうしよう。明後日から学校なのに」
「お父さん、何か坊っちゃんと相性の良さそうな素材を持ってないかな?材料を提供して貰えれば銅貨50枚ですぐに作るよ」
「そうですね。ちょっと宿に置いてある荷物を確認してきて良いですか?」
「あぁ、頼むよ。この街で杖を作っているのは俺だけだから、この子が杖無しで学校に入ると俺の信用が落ちちまう」
「わかりました。ウィス、ちょっとここで待っててくれる?」
「うん。わかった。早く戻って来てね!」
ソラは店から出ていった。
「さて、金属の方の相性も見よう。これをまた端から持ってみてくれ」
店主はカウンターの上にさっきと違い金属の塊を並べた。ショーマは言われた通りに端から持っていく。
「金属はどれもいけるのか。すると、素材との兼ね合いが重要かな。主材の木はさっきの感じだとヒノキがまだましか。ヒノキと相性の良い金属は銀と・・・」
店主はショーマそっちのけでぶつぶつと呟いている。
「あの木の杖はダメなんですか?」
ショーマは壁に飾ってある木製の杖を指差す。
「うん?あぁ、あの杖に使っている木は滅多に出なくてな。指揮棒型でも値段が高いんだよ。まぁ、試しに持ってみるかい?」
店主は壁から杖を取り外し、ショーマに持たせてみた。
「この杖とは相性が良いんだな。はぁ」
店主は項垂れてしまう。
「おじさん、この杖はいくらなんですか?」
「うん?あぁ、銀貨10枚だよ。予算の20倍だな」
「そりゃ無理だ。学校の入学金と同じだもん」
ショーマも一緒に項垂れる。
「戻りました。って、どうしたんだ?」
ソラが宿から戻ってきた。
「あー、父さん。この木の杖をね、試しに持ってみたんだ。相性は良かったんだけど、値段が銀貨10枚だったんだよ」
「それはさすがに買えないね。店主、素材を持ってきたのですが見て貰えますか?」
ソラは鞄から長さ20cmくらいの木の枝と5cm四方くらいの空色のキラキラした板を取り出した。
「お前さん、これは!本気か!?」
店主はビックリし過ぎて目が落ちそうになっている。
「おじさん、大丈夫?」
「大丈夫な訳があるかい!さっきの杖と同じだよこの枝は!しかもこの板は小さく加工されてるがドラゴンの鱗じゃないか!なんでこんな物を持ってるんだい!」
「学校の入学金が足りなかったら売ろうと思って持ってきたものなんですよ」
「はは。なんてこった。坊っちゃん、貴族連中の杖よりも良いものが出来るよ。期待してな」
店主はこのとんでも素材を前に早速杖の構成を考え始める。
「ホントに!?お願いします!」
「いつ頃取りに伺えばよろしいですか?」
「そうだな。明日のこの時間には出来るよ」
「わかりました。ではまた来ます」
「おじさん、任せたー!」
「おぅ!任せておけ!」
ショーマとソラは店を出て宿へ帰る。
◇◇◇
宿に着き、部屋へ入ると、ショーマはソラにさっきから聞きたかった事を質問する。
「ねぇ父さん。鱗は父さんのって判ったけど、あの枝って何の木?」
「あぁ。ウィスが小さい頃によく登ってた大樹の枝だよ。あの木は世界樹って言うんだ。この世界には確か2本しか無いんじゃないかな?」
「世界樹だって!?普通の木とは違うって思ってたけど。俺、とんでもない木に登ってたんだ」
世界樹って言うと、あれでしょ?よくエルフが守ってる木でしょ?RPGとかで出てくるヤツだよね?
「こっちの木はドラゴンが守ってるから大丈夫だよ。それで、もう1本の方は魔族が守ってる」
「へぇ。じゃあもう1本の世界樹の所に魔族が居るんだね」
「そう。でも、その世界樹がどこにあるか分からないんだよね。女神様なら知ってると思うけど」
「成る程ねー。だから前魔族の事を聞いたときにどこに居るか分からないって言ってたのか」
「そう言うことだ。さ、ご飯を食べに行こうか」
「うん!今日は何を食べようかなー♪」
二人は荷物を部屋へ置き、食堂へ向かった。
◇◇◇◇◇
魔王は世界樹の杖を手にするのか。
まぁ、偶然が偶然を呼んでいる様だが。
いやはや、なんとも規格外なものだ。
◇◇◇◇◇
魔法の呪文なんて、まるで考えてなかった…
学校始まるまでに考えよう。