3―ちょっと練習1
たいっへん遅くなりました。
ショーマは夕飯を食べながら女神様からの依頼を皆に話した。
「──・・・って訳で、ミスリノートにみんなで行かない?」
「みんなで行くのは良い考えだな。わしらもそろそろ帰らないととは思っていたんだ」
「いつまでもカイ様とユキに留守を任せる訳にもいかないものね」
リンドとツバキは自宅に帰るだけなので賛成だ。
「アンズはカイおじいちゃんとユキおばあちゃんは分かるかなっ?」
「うーん。わかんない」
アンズはカエデの質問に必至に思い出そうとすれども該当者が居ない様でしゅんと項垂れた。シドがアンズの頭を撫でながらフォローする。
「アンズの記憶に無いのも無理は無いよ。生まれて直ぐの一度きりしか会ってないんだから。父さんはその後すぐに事故に遭ったし、アンズが海を越えたのは今回が初めてだからね。ソラ、私たちも一緒に行って良いかな?」
「ああもちろん。と言うか、たまにはシドも顔を出さないと。この前会った時も母さんが元気にやってるか気にしてたよ」
「学校の先生って一年中ずっと忙しくてさ。長期の休みが取れなかったから行けなかったんだよ。年末年始の休暇なんて、カエデとアンズに会うのが精一杯だったし。私はソラ程早く飛べないから時間の余裕が無くて他の場所なんて寄れないんだよ」
シドは渋い顔で愚痴る。
「ふむ。人間の生活はそんなに忙しいものなのか」
「リンドさん、人間は私たちの想像以上に生き急いでいる生き物なんですよ。彼らはあっという間に老いてしまいますから」
「確かに、寿命と時の流れには逆らえんからな」
シドの言葉にリンドは遠くを見つめた。
「じゃあ、みんなで行くって事で!で、ミスリノートってどれくらい遠いの?」
ショーマは話を元に戻す。
「わしらがここに来るまでには二日掛かったな。陸地で一泊してから来たんだ」
「ミスリノートは絶海の孤島だから陸地まで半日以上飛び続けないといけないのよ。休む様な場所も無いからそれだけでかなりヘトヘトになってしまうのよ」
リンドとツバキが行程と掛かった時間を教える。ショーマはその遠さに驚いた。
「うわぁ、かなり遠いんだね。父さん、ヒスイは大丈夫かな?」
「ヒスイはまだドラゴンになれないからショーマと一緒に僕の背かな。シド、アンズちゃんはどう?」
「はっきり言って、アンズにもあの距離の飛行は厳しいからカエデと一緒に私の背だね。ショーマ君はヒスイ君を半日以上押さえてられるかな?」
シドの疑問にサクラが答えた。
「それだとショーマが大変だから、私がヒスイと一緒にソラに乗るわ。お父さん、ショーマを乗せてあげてくれないかしら」
「それは構わんよ。でも、子供達の事を考えると一泊では辛くないか?」
大人達はうーんと悩む。と、シドが何やら思い付く。
「そうだ、ソラとショーマ君が先に陸地のギリギリ端まで飛んで、後日みんなでそこから飛ぶのはどうだろう」
「なるほど。それなら半分以下の行程で着くし、何より仕事の練習にもなるね。ショーマ、どう思う?」
ソラはその案に賛同しつつショーマに聞いた。
「俺はみんなで一緒に行ける方法なら何でもいいよ!初めての家族旅行だからヒスイも、もちろんアンズねえちゃんも楽しみだよね?」
「「うん!」」
ウキウキとしているショーマ達を見て大人は皆ほっこりした。
最終的にショーマとソラが先行して一番ミスリノートに近い陸地に行き、次の日に皆でそこへ転移してミスリノートに向かう事になった。
海上を飛ぶのは万全を期してソラ、シド、リンドの三人。ショーマはツバキとリンドの背に、ヒスイはサクラとソラの背に、アンズはカエデとシドの背に乗って海を越える事になった。
◇◇◇
「じゃあ行ってきます!」
『行ってくるよ。夕飯までには戻るから』
「二人とも気を付けてね」
ショーマとソラはサクラの見送りで大空へ舞い上がった。
上空では意思伝達魔法で会話をする。
―――先ずはソローシャンを目指すよ。
―――はーい!行き先は首都の“シープレン”だよね?
―――そう。海に面した堅牢な街だよ。
―――へぇー。アルカンみたいな港町なのかな?
―――それは着いてのお楽しみ。
ソラは洞窟から真っ直ぐ南下して行った。
ショーマはソラの解説を聞きながらソローシャンの地理を勉強していく。
―――父さん、あの川大きいね。
―――あの川は“サイルーン川”って言うんだよ。今は冬だから分からないけど、両岸は麦畑が広がっていて麦の稲穂が金色になる時期には黄金色の絨毯が広がっている様に見えるんだ。
―――それは凄そう。ここはソローシャンの穀倉地帯なんだね。
―――そうだね。この川の河口には“リバリース”と言う大きな街があって、そこが交易の拠点になっているよ。
―――首都が拠点のシャインレイとは違うんだね。
―――サイルーン川に沿って街が点在しているから、河口が拠点の方が理に適っているんだよ。
―――なるほどー。
二人はサイルーン川の上空を通過した。
―――うわぁ、でっかい湖!レイカーの湖の3倍くらいあるんじゃない!?
―――それぐらいあるかもね。あの湖は“レンカーム湖”って言って、さっきのサイルーン川の水源でもあるんだ。
―――へぇー。
―――あの湖が見えたら西に進路を変えるとシープレンに着くよ。
―――シープレンに行く為の目印なんだね。
―――ドラゴンにとってはね。他にこんな移動の仕方をする者はいないから。
―――確かに!渡り鳥だってこんな直角に進路を変えないもんね!
ソラは進路を西へ向けた。
―――ショーマ、あれがシープレンだよ。
―――あの島全部が街なの!?
まるでモンサンミッシェルの様に島全体に建物がひしめき合い、外周には堅牢な城壁が廻らされ要塞の様になっている。全体的に石造りの建物が多い様だ。小さな島にしては大きな高低差があるらしく、一番高い位置にある城はとても目立っていた。
西側には大陸から橋が一本架かり、北側には港があるのか船の出入りが窺える。
―――そうだよ。あの島に上陸するには船で渡るかあそこの橋を渡るしかないんだけど、今回は空から直接降りようか。
―――え?俺、シドさんみたいに飛べないよ!?
―――ショーマの身体能力なら大丈夫。何事も経験だよ。合図をしたら思いっきり上に跳んでね。下で受け止めるから、目は閉じちゃ駄目だよ。
―――う、うん。わかった。
二人はシープレンの上空に到達する。
―――ショーマ、覚悟は決まった?
ソラが少し揶揄う様に言う。
―――ふー、はぁー、うん、大丈夫。
ショーマはソラの首に手を付き背に立った。一度手綱をギュッと握り締めると腹を括り手を離す。
―――よし、じゃあ跳ぼうか!
ショーマはソラの合図で彼の背を思いっきり蹴り、大空へと飛び出した。
「ふわぁあぁぁー!!!」
ショーマは何とも間抜けな悲鳴を上げる。その間にソラは人化し、ショーマの下へ潜り込むと両手を広げた。
―――ショーマ、ほら、こっちだ。
「ひゃわぁー!!」
ぼすんと音を立て、ショーマはソラの腕に受け止められた。
「怖かったよぉ・・・」
「男の子なんだからこれぐらいで泣かない。それに大して落下してないよ?」
「高度が、高度だからぁ」
ショーマは余程怖かったのかグスグスと泣いている。ソラはそんなショーマの背中をポンポンと叩いてあやした。
「ほら、元気だして。シープレンに行ったら美味しいご飯を食べよう?」
「・・・うん」
ソラはショーマを抱え、人気の無い裏通りに降り立った。
◇◇◇
二人はシープレンの港に面したレストランに居る。白い三角帆の小型帆船が行き交い、青い海とのコントラストが美しい。かなり南下してきただけあり、冬にしてはコートの前を締めなくても耐えられる程の寒さだ。
二人の前にはハマグリに似た貝と魚のアラの入ったスープとイカやエビと魚の身を解したものをトマトと和えたパスタ。シープレン近海で獲れた海の幸がふんだんに使われている。
「それにしても、ショーマがあそこまで怖がるとはね」
「うぅ。皆には内緒にしてよ?」
「はは。わかってるよ。でも、今回の仕事で必要になるだろうから慣れるまで練習するからね?」
「はーい・・・」
ソラの有無を言わせない言葉にショーマは逃げられないと項垂れた。
二人は食事を取ると、次の目的地に向けて橋を渡るべく歩き出した。
朝木 「プププ。ヘタレめ」
ショーマ「なんだと!?朝木もやってみなよ!紐無しバンジーどころか、パラシュート無しスカイダイビングだよ!?」
朝木 「でも、ソラが受け止めてくれるじゃん?」
ショーマ「そうだけど、そう言う事じゃない!!」
ショーマは空から落とされるんですねー。
崖から落とされるより滞空時間は長いよ!
頑張れ!笑
それぞれの飛行速度(目安)
ソラ(単独)→リニアモーターカー
ソラ(on女神)→新幹線
ソラ(onその他)→新幹線
シド、リンド→新幹線
ツバキ、サクラ、カエデ→特急
アンズ→快速
ソラ(人)、シド(人)→各駅停車
こんな感じです(ノ´∀`*)
次回、今度こそミスリノート入り!です。
彼らの人物像を練り練り…
( ; ̄▽ ̄)
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只今ゾロ目!!
今までは約10回毎だったけど、次は遠いなー…
これからもよろしくお願いします!