8―逃走者の正体1
大変遅くなりました!
ギリギリセーフ…
レイカーの湖の畔でショーマとシドは魔族のリーナに事情を確認している。
ユカリは橋で警戒中。追加の騎士が現れたらここまで報せる手筈になっている。
ちなみに、川の上流でシドが無力化した騎士達は三人のすぐ側に運ばれ伸びていた。
「何故、騎士に追われていたのですか?何となく想像はつきますが」
シドがリーナに質問した。
「わたしが追われていたのはこの格好を見られてしまったからだ。恥ずかしながら失敗してしまってな。身元はバレていない筈だがどうしたものか」
リーナは黒装束に身を包み、出ているのは顔だけだった。今は話をする為に顔を出しているだけで、実際は顔も首もとに巻いてある布で目以外は隠すのだろう。
リーナさんの格好って忍者だよね。足袋履いてるし。脇差しがショートソードってあべこべなのがまたなんとも言えないけど。この世界に日本刀は無いのかね?
なまじ忍者を知っている分、ショーマはリーナの格好に違和感が拭えない。
「確かに、黒を纏っていたらそれだけで追いかけられる理由になりますね」
「え?黒って服もダメなの?」
ショーマはそれだけの理由で?とシドを見た。
「ショーマ君、人間にとって黒は魔族の象徴なんだ。それこそ何千年と時を重ねてね。黒を纏う者は基本的に魔族と疑われるんだ」
「そうなんだ。黒って人間にとことん嫌われてるんだね」
「我らの陛下が黒髪の持ち主である事も、魔族は黒と思い込んでいる要因ではある。魔族でも黒の者はほんの一握りなのだがな。
加えて、メルバザン相手の小競り合いで黒い鎧をカッコいいだろう?と着ているバカが目立っているせいもあるのだろう。まったく、国からの支給品は普通に銀色なのにあのバカは何を考えているのだか」
「そもそも黒が嫌われてるなら、リーナさんもわざわざ黒を着なきゃいいのに」
「これがわたしの戦闘服だから着ないと言う選択肢は無いな」
「そ、そうなんだ。そう言えばエドが黒目は珍しいって言ってたなー。
──うん!?今陛下って言った!?魔族は国作ってんの!?」
ショーマは思わぬ事実に気付いた。
「女神様から聞いてない?魔族はディラントと言う国を作って暮らしているんだよ。トロープ大陸の南東にあるローズリー諸島が国土の島国だね」
「へぇー、知らなかった。てっきり辺境の地に隠れ住んでる少数民族だと思ってたよ。場所は学校で習ったから覚えてたけどね。でも、実際に行ったこと無いし」
「なかなか行く機会も無いよね。
さて、リーナさんはラアイテに戻りますか?それともここで少し様子を見ますか?」
シドはリーナに向き直り、これからどうするつもりなのかを訊ねた。
「それなのだが。シド殿に一つ頼みがある。引き受けてはくれないか?」
リーナはそのクリッとした目でシドを見上げた。二人はどんどん話を進めていく。
「なんでしょうか?内容に依っては応えることができかねるかもしれませんが」
「わたしをさっきの魔法でラアイテの魔法学校まで送って貰いたいのだが。頼めないか?」
「私の知っている場所なら可能です。どこへ送りましょうか」
「行先は平民寮でお願いしたい」
「私は寮の門前までしか送れませんね。中に入った事が無いので。そこに急に現れると生徒に目撃されるかもしれませんよね?」
「あそこならナタリーが居るからわたしの服も用意出来るかと思ったのだが。やはり難しいか」
「はい!なんで行先が魔法学校なんですか?」
ショーマは二人の会話に手を上げ質問した。
「リーナさんはね、ソローシャンから亡命してきているメリーシャス殿下の侍女であり護衛でもあるんだよ。殿下は今学校に在籍していて、寮住まいなんだ。だからリーナさんが帰る場所は学校の貴族寮なんだよ」
「あ、そういえば。キャシーが異国のお姫様が学校に来たってはしゃいでたっけ」
ショーマはぽんっと掌を拳で叩いた。
「政変の折りに姫を逃がすべく、ソローシャンよりディラントに救援要請があった。その要請でわたしが派遣されたのだ。まぁ、姫はわたしが魔族であるとは知らないがな。蛇人は魔を操るから護衛にちょうど良いのだろう」
「魔を操るってどう言うことなんですか?」
「そのままだ。魔物を操れる魔法が使えるのだ。使役魔法とも言う」
「なるほど。だからさっき魔物が集まってるってユカリが言ってたのか」
「それなんだけど、使役されている魔物の中にショーマ君が既に隷属魔法を掛けているものが居たよ」
「おおう。俺の魔法が負けたって事?」
「いや、精神的に隷属させていないから使役魔法が掛かってしまったんだと思う」
「なるほどね。あ、そうだ。リーナさんは俺が送って行くよ。ナタリーさんから寮の物置を自由に使っていいって言われてるし」
「そう?なら私はここでこの騎士が目を醒まさない様に見張っているよ。ユカリ君もその内ここへ来るだろうからね」
「うん。そっちはお願いします!じゃあリーナさん、俺と一緒に行きましょ」
「ショーマ殿もあの複雑怪奇で摩訶不思議な魔法が使えるのか?」
「そもそもあの魔法はショーマ君が考えた魔法なので問題はありませんよ。寧ろ私が使うより高精度だと思います」
「なんと!?人は見掛けに依らないものだ。こんなに幼いのに頭脳はかなり優秀なのだな」
「あっははー。はぁ」
ショーマはリーナの言葉に肩を落とした。彼女には全く悪気が無いし、見た目その通りの為反論も出来ない様だ。自身の前世が云々は言わない方が良いと判断した為でもある。
「シドさん後は宜しくね。リーナさんを送ったら、とりあえずここに戻って来るから」
「わかったよ。居なかったらユカリ君に呼ばれたと思ってね。ショーマ君気を付けてね。ナタリーさんによろしくね」
「シド殿、助かった。ショーマ殿、宜しく頼む」
ショーマはリーナと共に学校の平民寮の物置へ跳んだ。
◇◇◇
「リーナさん、着きましたよ」
「助かった。礼を言う」
「お互い様です。さて、俺もナタリーさんに挨拶してから帰ろうかな。この時間なら生徒はみんな部屋に居ると思うけど、念のため静かにしてくださいね」
ショーマはそう言って物置の扉を開いた。廊下を忍び足で歩き、玄関ホールを越え、ナタリーの居る管理人室の扉をノックする。
「こんな時間にどなた?」
ナタリーはまだ起きていた様だ。
「リーナだ。開けてくれ」
「え!?今開けます!」
ナタリーは慌てて扉を開けた。
「どうぞ。ってその格好で出歩いて居たの?え?ウィステリア君と一緒?とりあえず二人とも中へ入って」
二人は扉を押さえるナタリーの脇をすり抜け、管理人室へ入っていった。
ショーマ「ソローシャンの姫ねぇ」
朝木 「何か?」
ショーマ「急に出てきたなーと」
朝木 「リーナとセットで出そうと思ってたのに、いらないって言ったのはショーマじゃん!」
ショーマ「はいはい。すいませんでしたね」
朝木 「また心にも思って無い事を」
お姫様、その内ちゃんと出してあげる予定です。
次回、リーナの秘密?です。
ほぼリーナとナタリーの話になります。
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