27―セシルの話8
ほんの少し長めです。
俺達は荷を全て運びだし、ガランとした倉庫にいた。床に車座になり、今後の予定を話している。
「セシル、こっちはそろそろ始まる頃じゃないか?」
俺はオズに聞かれ、飛ばしてある影鳥と視覚を繋ぐ。
「あら、ちょうど始まるわねん」
ロクサンドの屋敷の正面の門と裏門、更に屋敷周辺に自警団の団員が配置されていた。
ビルに勝手に預けていた風鳥に集中すると、団員達の静かな息遣いが聞こえてくる。
少しして裏門から、ロクサンドの配下(昔俺を尾行してた奴)が団員を招き入れた。
「今、屋敷に突入したわよ」
「セシルのそれ、ホント便利だよなぁ」
「あらトビー、羨ましいのぉん?」
「いや、俺はいらねぇよ」
「そぉ?」
まぁ、教えた所で使えなきゃ意味ねーもんな。
お?もうみんな捕えたのか。ほら、ぞろぞろとロクサンドの配下の奴らが手に縄を括られて出てきた。悪いがやった事の落とし前はつけて貰わねーとな。
「今、屋敷にいた配下達が連行されてるわよん」
あ、ビルがすんなりジョナサンと対峙したみてーだな。
まぁ、忠誠心からお前を守る奴なんて端から居なかったし?昨日の夕方ちょっと脅したら綺麗さっぱり逃げ出したもんな。
《領主の私を捕らえてどうするつもりだ!私が居なくなったら誰がここを治める事が出来るのだぞ!!》
《町の誰もお前を領主と認めて無いんだよ!》
《いい加減な事を言うな!》
《お前に何か功績があるのか?ただソルマンティ様の領地を喰らい尽くしていくだけの穀潰しが!!》バシン
《痛い!何をする!!》
《何をって、お前が今までやってくれた事だよ!》バシン
《うわぁ!止めろ!》
《お前は止めてくれと言った相手に何をした!》バシン
《あうっ》
《まだまだこんなものじゃ足りないんだよ!》バシン
プツッ──ふぅ・・・アイツも結構鬱憤が溜まってたんだなー。まぁ、牢屋でかなり痛め付けられたっつってたもんな。
ビルは普段パッとしねー癖に、仕返しは笑いながら倍返しが基本だからな。たとえ相手がその辺の破落戸だろうと。いや、パッとしないからすぐ絡まれんのか。
しかもあれだよ。騎士団唯一の治癒使いが尋問官なんてやっちゃダメだと思うんだ。
俺はざっと屋敷周辺を見回して影鳥からも接続を切った。うー。やっぱこの魔法は使うと頭が痛てー。負荷がデカ過ぎなんだよな。
「ビルの方は無事にジョナサンを捕らえたみたいよぉん。後はジョッシュ、じゃなかった、アイザック達を捕まえれば作戦終了ねん♪」
「そうだな。ちなみに、ジョナサンは無事なのか?」
「アハハハ・・・」
オズ、お前の懸念はわかるぞ。でも、いやたぶん?まぁ、大丈夫だろ。いざとなったら声を掛けるさ。ただ、今はちょっと勘弁して。
「まぁ、ビルがやり過ぎてジョナサンが精神的に壊れても大丈夫ですよ。身体さえ無事なら聞き出す手段は幾らでもありますから」
おい、ニック!そのつり目を細めてニヤリと嗤うは止めろ!めっちゃこえー!!
「ニック、顔が恐ぇよ。それよりセシル、向こうはどうなってんだよ」
「──んんっ。ちょっと待ってねぇ」
俺はもう一体の影鳥と視覚を繋いだ。
「向こうはまだ航行中ねぇ。そろそろ着く頃かしらん?」
「そうか」
ジエン様とブラウン様は船橋の屋根の上か。確かにそこなら海流を操作したり海を凍らせるのがやり易そうだな。スカイ様は何処だ?・・・は?
「飛んでる?」
「何がだ?」
「え?あ、なんでも無いわよぉん!」
人の姿で飛んでる!?どうなってんだよ!仕事しろよ常識!!俺ら鳥人ならともかく、人化した魔物が空飛べるなんて聞いた事ねーよ!!
「まだ動き出しそうに無いから、ちょっとお花摘みに行ってくるわねぇ」
「ああ、早く帰って来いよ」
俺は倉庫から抜け出し、裏通りの端でスカイ様の肩にいる風鳥に話し掛けた。
「スカイ様すいません!」
《その声はセシルさんだね。そんなに慌ててどうしたの。何かあったのかな?》
「あ、その、すいません。作戦とは関係の無い質問がありまして・・・」
《質問?なんだろう》
マジで?聞いてくれる?ええい!訊いてしまえ!!
「スカイ様は何故人の姿で飛んでるんですか!?」
《え?何故って言われても、ドラゴンだから?》
「なるほど。ドラゴンは規格外なんですね」
《あ、いや、僕とブラウンだけかな。他のドラゴンはこんな事出来ないらしいから》
「そう、なんですか?」
《そんな事より、こちらはそろそろだと思うよ?》
「え?あ、すいません!よろしくお願いします!!」
《うん。じゃあまたね》
俺は慌てて風鳥の状態を“相互”から“聞く”に戻し、倉庫へ戻った。
「そんなに慌ててどうしましたか?」
「これから作戦が始まるわよ」
ニックに尋ねられ、ふうっと息を吐いてから皆に伝えた。空気がピリッと引き締まる。
俺が皆に伝えて一拍後、船がゆっくりと停まった。ブラウン様が何やら呟くと周囲の海が凍りつきギシギシと船を締め付ける。
「今、海が凍ったわ」
船橋から手下の兄貴って方が慌てて前方確認に行く。
その間に、ジエン様とブラウン様が屋根から船橋前にある階段の踊り場に降り立つ。
船内の状況は解らないが、なんだか浮き足立っている雰囲気に見えた。
《さっびぃな。うん?海が凍ってる?まさかっ!?》
兄貴が船首に駆け寄り、船の縁から下を覗き込んだ。おい、そこは、あ、スカイ様と目があったみてーだな。
《へ?浮いてる?》
《あーあ、見つかってしまったか》
《バ、バケモノ!!》
あー可哀想に。アイツ、手も足も出てねーじゃん。てか、スカイ様の笑顔の圧が恐ろしい・・・。
「手下の兄貴って方が今スカイ様に拘束されたわぁ」
「アイツらの名前覚えてねぇのかよ」
「そうよん。覚える必要性が感じられなかったものぉ」
《さてと、セシルさん聞いてるよね?これから僕は船倉の方に行くから》
あははー。盗み聞きバレてらー。
「アイザックは?」
「ちょっと分からないわねぇ。ただ、先に女の子達の状況が分かるかもよん」
「マジで!?レベッカは!?」
「ちょっと待ちなさいよぉ」
なんだかガヤガヤしてるな。着いたのか?
《ウィス、無事かい?》
《あ、父さん。お疲れー。こっちは自警団の人のお陰でなんにも無かったよー》
《それは良かった》
うん。無事に合流できたみてーだな。
「女の子達は自警団の連中と合流したみたいよん」
「トビー、良かったな」
「あぁ。ほんっとうに良かったぁ」
《そうだ。ウィス、レベッカさんはどの子?》
《ちょっと待ってて。すぐ連れてくる!》
「今スカイ様がレベッカを呼んでもらってるわねぇ」
「本当か!?」
《父さん、連れてきたよ。この人がレベッカさん》
《は、はは、はじめまして!レベッカと申します!!お宅のお嬢様には大変お世話になりました!!!》
《ご丁寧にどうも。僕はウィスの父のスカイです。頭を上げてください》
《え?ウィス?》
《ねぇウィス、お嬢様ってどういう事?》
あー、ウィス君はレベッカに自分が男だって言ってねーのな。
《あ、なるほど・・・。ウィス、言わなくていいのかい?》
《──はぁ、そうだよね。レベッカさん、あのね、って・・・ねぇ、俺の父さんのこと見つめてぼけっとしないでよ》
はは。スカイ様イケメンだもんな。つい見惚れちまうよな。
《あ、ごめん、って、え?ティアちゃん、今、俺って・・・?》
《ごめんね。俺、男なの。ウィステリア。これが俺の名前。ティアじゃなくてウィスって呼んで》
《あ、え?おとこのこ?へ?あっはは・・・うそよ!そんなの信じられない!!》
《嘘じゃないよ。うーん。脱ぐ?》
《こら、女性相手にそれは止めなさい。レベッカさんが落ち着くまで少し待とう》
「うん。レベッカはいつも通りよん」
「そっかぁ・・・」
急に船橋の前の扉が開き、アイザックが飛び出してきた。
「あっ!アイザック!」
そこにいるジエン様とブラウン様を見ると、なんの躊躇いもなく懐からナイフを出してブラウン様に投げつけた。ブラウン様はそのナイフを華麗に叩き落とし、アイザックを甲板へ投げ落とす。
「ぅわお!」
「何があったんだ!?」
「ブラウン様、意外と武闘派かもぉ?」
「なんだそりゃ」
ブラウン様の感情が抜け落ちた顔も恐ろしいな。にしても、呆気ねーよ。
「──はっははは。アイザックが今ねぇ、ジエン様とブラウン様に拘束されたわよん」
「セシル、何かあったのですか?」
「あまりにも呆気なく終わったから脱力しちゃったわぁ」
「そうだな。とりあえず、作戦はこれで終了だ」
ホント、漸く終わりだな。
俺は船の上に飛ばした影鳥を消した。
あとはエドとレベッカがここに間に合うかだな。後5分で約束の8時か。なんだかんだギリギリじゃね?大丈夫か?
ショーマ「もうすぐセシルさんの話が完結だね!」
朝木 「うん。結構長かった。てか、途中で何度か挫折しかけた」
ショーマ「え?なんで?」
朝木 「途中の話が暗くてさー。なかなか手が進まなかったんだよ」
ショーマ「そっかぁ。お疲れ」
なんか終わったみたいな話してるけど!?
セシルの話はまだ終わってないですよ!!
次回、セシルの話9。です。
長かったセシル語りもこれで終わりです!
応援して頂けると嬉しいです(^^)
訪問だけでも大感謝(^^)/
ブックマークの追加ありがとうございます!
嬉しいです♪
(/ω\*)キャッ
前回投稿時に書きましたが、あの後すぐに総アクセス数が40,000を達成しました!
いつもありがとうございます!
40,000人目は2/22の10時台にいらっしゃったアナタです!
これからも頑張ります!
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