第七章
第七章
「夏。とても暑い日でした。狭い一室で、新しい命が初めて呼吸をしました。
たくさんの人々が彼の誕生を心待ちにしておりました。無事に産まれた赤子は、彼の祖父の名をとって、『キール』と名づけられました。
彼は奥様と旦那様にたいへん可愛がられ、幸せに育っていきました。
しかしあるとき、奥様はご病気になられて・・・まだ幼い彼の面倒をみる者が必要とされました。
そこで候補にあがったのが、兄のディラヴィスと姉のミラフィ、そして叔母のマーシル奥様でした。
しかし、お兄様とお姉さまはそのころ勉学に励んでおり、お父様がお許しにならなかったため、最終的に、マーシル奥様が引き取ることになりました。
奥様は彼に本当の子のように接しましたが、旦那様・・・・レーシー様は、彼を完全によそ者扱いしました。幼い彼の心は傷つき、誰にも心を開かなくなりました。
・・・わたくしは、例外、と言うのでしょうか。わたくしは、キール様がお生まれになってからずっと、マーシル様とレーシー様のところに越された時でさえ、ずっと一緒にいましたから。
彼は本当に不幸な子供でした。やっと奥様に―――極稀でしたが―――笑顔を見せられるようになったころでした。
旦那さまがその様子が気に入らなかったのか、マーシル様を家から追い出し、新しい奥様をお迎えになりました。
その奥様は、いくら優しくしても心を開いてくれない彼の様子に苛立ちを覚え、ついには暴力を振るい始めました。さらに柱につるして3日間食事を取らせない、一週間、部屋から出てはいけない。などの仕打ちまで始められました。
私は、それを見かねて、彼を・・・キール様を、お屋敷から連れ出しました・・・
・・しかし、奥様と旦那様は・・・それを、待っていたかのように・・・・・・それから、毎晩・・・客人を招いて晩餐会を開きました・・・
そして、私を、きつくお叱りになられました。「なんで、もっと早く追い出さなかったんだ」と。
私は知り合いの宿主に頼んで、彼をそこに住まわせました・・・彼は、文句を言いませんでした。
私には、あの時彼が本当は何を言いたかったのか、わかりませんでした・・・
解って、差し上げられませんでした・・・・・・
私は、旦那様の命令でお屋敷から出ることを禁じられました。」
アレイはそこまで喋って、いったん黙ると、瞳から溢れる涙を拭いながら続けた。
「こうして『移動』のお知らせをするときを除いて。」
キールの顔がかすかにうつむいた。
「・・・・・・い・・・どう・・・・?」
声が震えた。涙を抑えることは、すぐに諦めた。
「・・・・・・・・・・ノアには・・・言ってないん・・・だね・・・?」
「ああ。」ここまできてキールが始めて口を開いた。
「ほら、俺、“入り者”…だったろう?・・・・・・・そうやって、いくつも街を移って・・・いや・・・移らされて・・・・・・此処は、結構長かった・・・な。」
キールは下唇を噛んで続けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・でも」
続くはずのない言葉に2人が顔を上げると、口元に笑みをうかべて言った。
「あのころは無力なガキだった。今の…俺には、アイツらに抗う力だって、ある。」
「しかし!キール様!!」
間髪いれずアレイが叫んだ。
「ティムだ。」
「……ッ…それでは、私は、旦那様に、なんと言えば・・・!」
アレイの方をチラっと見てから、あからさまに、忘れていた。という風に大げさな身振りをして
「ああ〜忘れてた。・・・アレイ。もうアイツのところにお前が戻るなんて俺が許さないし、俺も此処を出て行く気はない。」
宣言した。
アレイはもちろん反対するだろうと思ったが意外にあっさりと承諾した。
「…キール様は、それで幸せになるのですか?」
「ああ。」
「・・・それでは、キール様のお好きなように。」
そういうと、あの気品のある、しかしちょっと困ったような笑顔を2人に向けた。
まとまらない…(汗
きなこさん、もういいよ。頑張ったよ…
弱者なりに頑張ったよ…帰って良いよ…(ェ
つーわけで頑張ります(矛盾…