第六章
「・・・おい? 」
横からかかった低い声に、はっとして上を向いたルナは、不思議そうな顔でこっちを見ていたティムと目が合った。いつの間にか立ち止まっていたらしい。
「大丈夫か?」
もう一度かけられた声に、小さくうなずいて、「はい・・・」と、答えた。自分の出した声の小ささに驚いたルナは、
(“蚊の鳴くような声”って、こういうのをいうのかな・・・?)
と思った。「そう。」といって、また歩き出したティムの歩調に合わせて歩きながら、静かに言った。
「あまり、変わらないであげてくださいね。」
「・・・ん?なんか言った?」
「いいえ!何でもありません!」
ニコッとなつっこい笑顔を見せて、ちょっと頬を紅く染めたルナは、広場の先を見て言った。
「あれ・・・?誰でしょう?」
目線の先にはあの女がいた。
どこか気品の漂う雰囲気で、静かに“そこにいる”それでもなんだか目を引かれる。ルナとティムはその女に近づいていった。だんだん女の顔がはっきりしてきて、ティムは足を止めた。
「アレイ!?アレイじゃないか!?」
いつもなら考えられないティムの大声にびっくりしたルナは、さっきまできつく自分の肩を締め付けていた手からの望まぬ開放とともに、そこにいるのは自分が変えてしまったティムではないことがわかった。
「キールさま!!!」
アレイと呼ばれた女は呼んだ。『キール』と。ティムに向かって。
「キール・・・・?」
何が起こったのかわからずに、ルナはただ立ち尽くすことしかできなかった。
「アレイ!!どうしたんだ?・・・それに、どうやって・・・」
よく見れば、彼女の服は、ところどころ汚れていた。
「そんなことより、だっ、旦那さまが!!」
その瞬間、ティム―――キールは凍りついたように動かなくなってしまった。
「旦那さまが・・・『また』・・・今度は、今日中に。と・・・」
・・・・・・・・・
長い沈黙の時が流れた。
「ティム・・・?」
その小さな声に、キールはびくっとして振り向いた。
「誰・・・なんですか?その方。それに、『キール』って・・・?」
キールは何も言えなかった。
(・・・誰?キールって。そこにいるのは、ティムでしょう?)
ルナはただ戸惑っていた。
ルナが悪者みたいだね(殴