第三章
ノーガの家は、広場の端にある小道を通って、奥にある扉を3回ノックしてから開けなくてはいけない。しかし、ノアは勢いよく蹴り開けるのが常だった。・・・そのせいで、ドアは何度か外れている。小道は一本道なので、ノーガの家に行くには、必然的に広場を通らなければいけなかった。
ノアが広場に着くと、広場は驚くほどに静かだった。いつもなら数人の子供がその場の風景のように走り回っているのに、今日に限っては人といえば噴水を挟んで反対側にいる女ひとりぐらいだった。
(誰だろ。)
気になったので声をかけてみることにした。ゆっくりと噴水の周りを歩きながら女を観察していると、老女は壁にかかっている紙を見ているらしく、宿屋の壁を、時間が止まってしまったように見つめていた。そして、近づくうちに、女はそれほど年をとっておらず、40〜50歳くらいの女だということがわかった。そして、女の頬に、昼間の明るい太陽に照らされて、一筋の涙が光っている事にも気づいた。それを見た瞬間、焦りからか、驚きからか、つい足が止まった。しばらく女を見つめていたノアは、はっとして女に駆け寄った。
「どうしたんだ?・・・大丈夫か?」
女はびくっとして振り向き、慌てて自分の涙を拭った。ハンカチは、青と赤のストライプ模様で、どこにあるのかもノアは知らない遠くの国、マハディアの国旗を示していた。
「…あんた、マハディアの…?」
女はうなずいた。そして、
「この方…いえ、この人は、どこにいらっしゃる…いるのですか?」
しゃべり方が多少気になったが,女が指を指している人物を見て,そんなことはどうでもいい。と、思った。
「ティム・・・?」
思いっきり怪訝そうな顔をすると,女は少し微笑んだ。その笑顔はどこか気品が漂っており、さっきまで泣いていたのが嘘のように思えるくらい、明るかった。
「そう・・・ここではティムと・・・」
首を少しかしげた。ひっかかるものがある。
『ここではティムと・・・』
“ここでは”・・・?
他の場所では違うというのだろうか。いや、そもそもティムは“入り者”(町に途中から引越してきた人のこと)だったから、町に来る前の名前が違ったのかもしれない。だとすると、この女は街に来る前のティムを知っていることになる。
幼いころの記憶が、鮮明に、今この場で起きていることのように蘇ってきた。
謎の女。(笑
次回はノアが妙に乙女で素直です。
あれ?なんか設定が12月から夏っぽくなって来てる(汗
「え?冬なのに?」って思ったら知らせてください;;