その5「不条理」
「行くのか」
「ああ」
町はずれで、ハミルトンは頷いた。医者には一カ月の療養が必要だと言われているにも拘らず、その勧告を振り切る形での、一週間弱の旅立ちとなった。おかげで、左腕は吊ったままだ。
「しかし、よかったな。腕は治るみたいだな」
「そうだな。正直、もう腕が上がらないかと覚悟していた。もっとも、ガンマンは右腕があればそれで事足りる。それでも問題はないさ」
「かもな」
そうやって笑う俺の顔を、今度はハミルトンが覗き込む。
「しかし、大変なのはむしろお前の方だろう」
「かもな」
町長・カーペンタージュニアはあの一件をきっかけに失脚した。元々カーペンターを快く思っていなかった町の名士たちがこの件をくさびに使い、カーペンタージュニアの切り崩しにかかったのだった。その過程で、彼がアウトローを用い前町長を暗殺した事件が明るみに出た。それを受け、カーペンタージュニアは収監され、カーペンターズファミリーも解散させられた。
だが、一度アウトローたちに牛耳られた町だ。そう上手く事は運ばないだろう。事実、小競り合いや喧嘩、決闘の類は毎日のように起こっているし、アウトローたちの無法行為を完全に締め出すまでには至っていない。それにまだ、町長さえも決まっていないこの状況では、アウトローたちとどう対決していくかさえ決まっていないのだ。
しかし、やらなくてはならない。
「それは、お前が心配することじゃない」
「ま、そういうことだな」
ハミルトンは笑い、風が吹き抜ける方――西を見遣った。
「やっぱり、お前はあの男を追うのかい、ハミルトン」
「ああ。俺の目を奪ったあいつを殺す。でなくば、俺は死ねない」
「そうか」
ああ、と頷いたハミルトンは、ややあって、行く、とだけ呟いて踵を返した。俺は止めなかった。そもそも、もうこの期に及んで止める理由なんてありはしなかった。
というより、俺は気付いていた。
多分、こいつは、復讐で己を支えているのだろう。
復讐だけが、この男の心を安んずる揺り籠なのだろう、と。
なら、その揺り籠の中で眠れ、哀れなガンマン。
どんどん小さくなっていくハミルトンの背中を眺めながら、俺は心の中で、そう呟いた。
さて。
砂塵にハミルトンの姿が霞んで見えなくなったのを踏ん切りにして、俺も踵を返した。
これからやるべきことがたくさんある。この町を、以前のような街に戻す。そのためには、一日二十四時間では足りない。
胸に光る保安官バッジが太陽の光を反射する。
そうだ、これからだ。
ようやく俺は本当の意味で保安官になれそうな、そんな気がした。
と――。
乾いた音が二発、辺りに響いた。
なんだ?
辺りを見渡す。が、何かの拍子で膝から力が抜け、地面に膝をついてしまった。おかしいな、そう思って膝に力を入れても体勢が直らない。それどころか、地面に仰向けに倒れてしまった。
おかしいぞ、どうしたんだ、俺は。
じたばたしても、一向に立ち上がることが出来ないでいた。そうやって地面にのたうつ俺は、町の方角の物影から走り去っていく二人組に気づいた。
あ、そういうことか。
胸の保安官バッジを外し、自分の目の前に掲げた。赤黒い血で汚れた星型のバッジは、それでもきらきらと太陽の光を反射して、ひどく綺麗だった。




