?人間
“人間”の声。フルムハクは慌てて海に潜ろうとした。
だが、声の主がフルムハクの右腕を掴んだのが先だった。
声をかけたのは、14歳のフルムハクとあまり変わらない歳の少年。瞳は澄んだ黄緑色。髪は同色で、耳にかかる程度だ。
「い…やっ!離してぇぇ!!」
フルムハクが大声で悲鳴を上げる。だが、少年が腕にかける力は弱まらない。
「はっ、離して!いやあ!!」
全力で逃れようとするが、相手は仮にも男。力では適わない。
少年はフルムハクの腕を掴んだまま、彼女の一点を凝視していた。
“人間”の彼にはある筈もない、海と同じ色の彼女の“足”。
それは同時に、目の前の少女が“人間”ではない事を意味している。
「…あ、…あの…、私――」
「…お前、人魚なのか…?」
少年の質問には答えず、フルムハクは一目散に海に飛び込んだ。
後には、ただ呆然と突っ立っている少年と、フルムハクが起こした波紋が残った。
フルムハクは獲物として追われる兎のごとく、とにかく海底を目指した。
思わず時々背後を振り返る。続いて握られた右手首。
まだ、触れられた感触が残っている。
「最悪…!」
海の外に出た私が馬鹿だった。危うく“人間”に捕まってしまう所だった。
「…行くんじゃなかった…」
友達・メロタに言われた通りだった。
―人界なんて、行くもんじゃねー!!―
少しだけ、期待していた。
いつまでも“人魚”と“人間”は仲違いしているものではないと思うから。
けれど、その淡い“ユメ”は腕を捕まれた瞬間に壊れてしまった。
“人魚”と“人間”は、永遠に「関わってはいけない」「互いが互いに嫌う」相手なのだ――…。




