06,チーム結成
三太郎は元気なサンタたちを引き連れて墜落した宇宙戦艦ダイワの乗組員の救助に向かいました。
乗組員たちは全員コンピューター制御で自動的にふくらむエアバッグ宇宙服を着ていて無事でした。ふくらむと全身雪だるま状態になって面白いです。
技術者たちはさっそく船の修理に取りかかりました。宇宙に飛び立つのは無理ですが、空を飛ぶのはなんとかなりそうです。
三太郎は八九車十次(やくしゃじゅうじ)艦長と会見しました。
三太郎と八九車艦長は連れだってグランドサンタクロース…一番最初のオリジナルのサンタクロースに報告に向かいました。クーシと三人のおじさんサンタも合流してついていきました。
グランドサンタはトナカイの引くそりハウスに避難していましたが、大クラゲが去っていったので元々住んでいたレンガの小さな家に戻って休んでいました。
グランドサンタは1600歳のおじいさんです。真っ白なひげにうもれた丸顔のかわいいおじいさんでしたが、さすがにこの事態に心を痛めて元気がありませんでした。
「三太郎。艦長。クーシ。それに日本のサンタの皆さん。おつかれさまです」
ねぎらってくれるグランドサンタにクーシが心苦しい顔で報告しなければなりませんでした。
「サンタの工場は壊滅(かいめつ)です。完全に氷の下にうもれてしまって、準備していた今年の子どもたちのオモチャも全て埋まってしまいました。掘り出すのは難しく、おそらく、ほとんどのオモチャは壊れてしまって、子どもたちのプレゼントには使えないかと思われます」
「そうか…」
グランドサンタはしょぼくれたまぶたをしばたたかせてうなずきました。
「悲しいことだ」
「はい……」
クーシも残念そうに、悔しそうに、うなずきました。工場でオモチャを作る担当のサンタたちはみんな泣いていました。
八九車艦長も残念な報告をしなければなりませんでした。
「グランドサンタクロース。…………放射能除去装置トテモクリンナーBは、手に入れることが出来ませんでした」
艦長は責任を感じ、無念そうに頭を下げました。その結果に日本のおじさんサンタたちはがっかりした顔をしてうなだれました。グランドサンタが聞きました。
「それはいったいどうことなのかな? 惑星イズクンダーリにはたどり着けなかったのかな?」
惑星イズクンダーリははるか遠いかなた、銀河の外れにあるのです、トラブルでたどり着けなくても決して責められることではありませんが。
「いえ」
八九車艦長はますます無念そうに顔を険しくして言いました。
「イズクンダーリにはたどり着けました。惑星まで行かずとも、太陽系の外に出張所があったのです。
グランドサンタクロース。
イズクンダーリは惑星の名前ではなかったのです、宇宙の通信販売会社の名前だったのです。
我々が受け取ったメッセージは、日本のSOSに答えた物ではなく、ダイレクトメールだったのです。
トテモクリンナーBは商品だったのです。しかも、対応した販売員の説明によると、トテモクリンナーBはせいぜい工場の中の放射能汚染を除去する程度の性能で、大規模な災害には対応していないそうです。高性能のトテモクリンナーGでなければ駄目だそうです。しかし、しかし……、トテモクリンナーGは、とても高価で、地球の経済レベルでは、月を丸ごと売らなければ買えないのです…………」
八九車艦長はそれを知らされたときの悔しさを思い出して握った手をブルブル震わせました。
「月……か……」
思いがけない事実にグランドサンタもため息をつきました。
「地球がウサギたちに無断で月を売り渡すことは出来ないな。これは……手に入れるのをあきらめるしかないか」
グランドサンタは気の毒そうな目を三太郎と日本のサンタたちに向けました。
「仕方ありませんや」
三太郎が腰に手を当て、胸を張って言いました。
「地球人の問題は地球人が解決するのが筋ってもんでさあ。頑張るしかありませんのさ。それより」
三太郎は口をへの字にして宙をにらみました。
「今はイブの魔法の鐘だ。あれだけはなんとしても取り返さないわけにはいきませんや」
クーシがひどく不満そうに三太郎をにらみました。
「なに威張ってんのよ? せっかく怪獣をやっつけられるところだったのに、あんたが連れてきた子どものせいで鐘を奪われちゃったんじゃない?」
三太郎は口笛でも吹きそうな顔で目をそらしました。
グランドサンタが聞きました。
「三太郎や。その子は、悪い子なのかい?」
「へい」
三太郎はグランドサンタを見て答えました。
「今年の、すんげえ悪い子でさあ」
グランドサンタはうなずき、
「それは、仕方ないのう」
と、
「ホウホウホウホウホウ」
と笑いました。まじめな顔になって、じいっと三太郎の細い目をのぞき込んで言いました。
「では、おまえが黒サンタとして責任を持って面倒見るんだね?」
三太郎はニイッと白い歯を見せました。
「もちろんでさあ」
グランドサンタは満足そうにうなずき、クーシたちを見ました。
「クーシ。艦長。日本のサンタたち。三太郎を手助けしてやってください。今回ばかりは、この悪たれにも荷が重すぎるようじゃからのう」
「余計なお世話です」
三太郎はフンとふんぞり返りましたが、
「黒岩君。ぜひ手伝わせてくれたまえ。日本の子どもたち、いや、世界中の子どもたちのために!」
八九車艦長が力強く言い、
「仕方ないわね、これ以上事態を悪化させないように見張っていなくちゃ」
とクーシがチャーミングに目を細めて言い、
「とりあえず何か活躍させてください」
とおじさんサンタたちは頼みました。
「別に助けなんていらねえんだがなあー」
と言いつつ三太郎も本音では嬉しそうにニタニタ笑いました。
「ま、よろしく頼むぜ」
素直じゃない三太郎にクーシがパンチするふりをしました。
「じゃあ、これでイブの鐘奪還(だっかん)チーム結成ね!」