05,援軍到着
「ええーい、もう許せん!」
三人の恐いサンタは凶悪な顔になって刀みたいに長くて大きい中華包丁やノコギリを取り出しました。
「細切れに切り裂いてバラバラにしてくれる!」
うおーーっ!!と巨大クラゲに突進する三人にならって、他のサンタ防衛隊も剣を振りかざして突進していきました。
三太郎は腕を組んで渋い顔でながめていました。
「相手はクラゲだからなあ……」
三太郎の危ぶんだとおり、斬りつけようと接近したサンタたちは、
「ぎゃっ」
と叫んで倒れてしまい、ブルブルガチガチと震えだしました。
「くそ、やっぱりか」
クラゲは針を持っていて獲物や敵を刺します。中には猛毒を持っている物もいて、非常に危険な生き物なのです。
「三太郎ーー!!」
クーシがいてもたってもいられない様子で三人のおじさんサンタを引き連れて走ってきました。
「あの化け物はどうにもならねえ。よし、おまえら、倒れたサンタたちを収容するんだ。行くぞ!」
三太郎は他のサンタたちにも呼びかけて倒れたサンタたちの救助に向かいました。
「ううむ、無念……」
極悪な赤黒茶のサンタも毒にやられて痺れて動けなくなっていました。三太郎は彼らの足をつかんでひょいひょい氷に滑られて遠くへ投げ捨てていきました。
「退避ーーっ!!」
サンタたちは再び撤退(てったい)し、むなしく巨大クラゲをながめました。
ああ、このまま巨大クラゲのなすままにされて、大事な鐘まで奪われて、今年の子どもたちのクリスマスはなくなってしまうのでしょうか?
ゴオオオオオオ……………
と、
はるか上空から飛行機が下りてくるような音が響いてきましたが、その音はどんどん大きくなり、耳が痛いほど響き渡り、雲の上に、音の主が姿を現しました。
巨大な鋼鉄の飛行船が浮かんでいます。いえ、あれは!・・・・
「三太郎、あれはもしかして?」
「うむ」
三太郎は重々しくうなずきました。
「宇宙戦艦大和(ダイワ)だ」
おお! これが伝説の宇宙戦艦………ダイワ?
事情を知らないおじさんサンタが、思わず、聞きました。
「なんでダイワ?………
宇宙戦艦ヤ○トなんじゃないんですか?」
三太郎はきらびやかな船影を頼もしく見つめながら答えました。
「スポンサーが住宅建設会社なのだ」
・・・・・・・
大人のギャグなので良い子は笑えなくてもいいです。
宇宙戦艦ダイワは昔の戦艦の形をした、全身白くペイントされた全長90メートルのかっこいい船です……予算の関係上大きさは本物?の3分の1スケールですが、どうどうとしたものです。
「すごいですねえ、サンタの国には宇宙戦艦まであるんですか?」
感心するおじさんサンタに三太郎は答えました。
「まあな。だがあれは戦うための宇宙船じゃない、危険な隕石群をよけるために大砲がついているだけで、彼らは重大な任務のために遠く外宇宙へ旅立ったのだ。……予定よりだいぶ早い帰還だな? 上手く目的の物が手に入ったのならいいのだが」
「なんです?」
「銀河の外れの惑星イズクンダーリから通信を受けて、放射能除去装置トテモクリンナーBを受け取りに行ったのだ」
「おお、それはすごい!」
一番年長の矢木沢サンタは男のロマンに感動して言いました。
「やや! ではもしや、その放射能除去装置トテモクリンナーBを使えば、放射能で巨大化したクラゲを元に戻せるのでは!?」
「うーむ」
三太郎は腕を組んで考えました。
「やってみる価値はあるか。よし、艦長に連絡してみよう」
三太郎はキャタピラー車に走り、無線でダイワのコックピットに呼びかけました。
「こちら地上の黒岩三太郎。ダイワ、応答されたし」
『こちら(ガガガ…)宇宙戦艦(ギュウイ〜〜ン)ダイワ』
ガーガーピーピーとノイズまじりに応答がありました。ノイズが入るのはダイワが遠い宇宙から帰還したためではなく運転席の無線機が巨大ドライヤーの熱でいかれているからです。
「任務ご苦労様。さっそくで悪いんだが、見ての通り、今サンタの国は巨大放射能モンスターに襲われている。持ち帰ったトテモクリンナーBで奴の放射能を掃除できないか? オーバー」
カチッとマイクを切り、向こうからの応答を待ちます。ガガッと向こうのマイクが入って返答されます。
『それは不可能だ。トテモクリンナーBの使用は出来ない。オーバー』
三太郎はチラッと眉をひそめましたが、すぐに返信しました。
「了解。では、そちらから攻撃して奴を鐘楼から追い払えないか? オーバー」
『了解した。こちらから攻撃をくわえる。地上の諸君は退避するように。通信終わり』
「了解」
三太郎はマイクを戻し、皆に呼びかけました。
「ダイワが奴を攻撃する! 全員さらに退避ーーっ!!」
地上のサンタたちが十分離れると、ダイワの下腹についている一門砲筒が動いてモンスターに照準を合わせました。砲筒は3本あるとかっこいいのですが、全体が縮小サイズなのでこれも仕方ありません。
バキュルルルルルルーー
砲筒から青いレーザー弾が発射され、巨大クラゲの外側の皮膚をつらぬきました。中心を外したのはもちろん中の鐘楼を傷つけないためです。
レーザーの貫通(かんつう)した穴から煙が上がり、これは効果ありです。
見守るサンタたちは歓声を上げ、拍手し、腕を振り上げました。
「やれやれー! やっつけちまえーー!」
ダイワの砲筒は反対の端を狙い、もう1発レーザー弾を撃ち込みました。命中。煙を上げる大クラゲは、いっしょに足を数本失い、苦しげに残りの足を踊らせました。強いぞ!宇宙戦艦ダイワ! もう一押しで勝利は確実だ!
バキュルルルルルーー
3つ目の穴が開き、残り4分の1にもう1発撃ち込まれれば大クラゲはバランスを失って鐘楼から転げ落ちるでしょう。
いつの間にかとなりに来ていた小浜リク君が三太郎に聞きました。
「その鐘ってそんなに大事な物なの?」
ダイワの戦果に満足している三太郎は上機嫌で答えました。
「鐘楼の魔法の鐘か? そうだ。あれがなくちゃ世界中からクリスマスイブが消えて、良い子もクリスマスプレゼントをもらえなくなっちまう」
それを聞いたリク君は何を考えてか突然鐘楼向かって走り出しました。
「こおらっ、馬鹿野郎! なんのつもりだ!?」
三太郎は怒ってリク君を捕まえようとしましたが、ひょろひょろのくせに案外足が速く、逃げられてしまい、リク君は鐘楼向かって、お化けクラゲ向かって、どんどん走っていってしまいます。
「ええい、くそっ」
三太郎は大慌てでキャタピラー車に走り、無線で再びダイワに呼びかけました。
「おい!ダイワ! 攻撃一時中止! 子どもが鐘楼に向かっている。連れ戻すまで待て!」
『了解』の声を聞き、三太郎は鬼のように怒ってリク君を追いかけて鐘楼に向かいました。
鐘楼にたどり着いたリク君は、体を4分の3近く失ってすっかり弱っている大クラゲ向かって叫びました。
「おい!こら! しっかりしろ怪獣! クリスマスなんてぶち壊してしまえ!」
まあっ! なんて悪い子でしょう? 子どものくせにクリスマスを壊してしまえだなんて!?
「こらあっ、このクソガキいっ!! 許さんぞおーーっ!!」
鬼のように怒って三太郎が走ってきます。リク君はそのおっかない顔にすっかりビビってしまいました。ジタバタして、大クラゲの足がどいた鐘楼の入り口にドアを開けて駆け込んでいきました。
「こおらあっ!!」
三太郎が走ってきましたが、のそりとクラゲの足が動き、三太郎をけんせいするように先に針の尖る足を向けました。これではさすがの三太郎も慌てて立ち止まるしかありません。仕方なくその場で大声で呼びかけました。
「おおーーい!こらあーーっ!! 怒らないから出てこおーーい!!」
中からリク君が言い返しました。
「嘘つけーー!! すっげー怒ってるじゃないかあー!?」
三太郎はクラゲの足に忌々(いまいま)しく顔を真っ赤にして
「そうだーー!! 怒ってるぞおーー!! だが出てこなければもっと、もーーっと!、怒るぞおーーっ!!!!」
と怒鳴りつけました。すると、
「あっかんべー! 出ていかねえよーーだっ!!!!」
と、リク君は憎ったらしく言い返しました。
「うむむむむむむ」
三太郎の怒りは爆発寸前です。ところが。
大クラゲに開いた穴に、むくむく内側から透明の肉が盛り上がってきて、ちぎれた足の先に新しい足が生えてきて、見る間に大クラゲは元通りに戻っていきます。
「ちっくしょう、さすが放射能のモンスターだ、息の根を止めなけりゃ際限(さいげん)なく再生しやがる」
新しい足が元気に暴れ出し、三太郎は逃げ帰るしかありませんでした。
うわああっ・・
悲鳴が聞こえた気がして三太郎は振り返りました。
「リク!」
大クラゲが足をまっすぐにしてぐんと高く立ち上がりました。その下に鐘楼が現れましたが、その上の方、大事な鐘のぶら下がる最上階の部屋は、すっかり消えていました。大クラゲに食べられてしまったのです! もちろん魔法の鐘も消えています。……リク君の姿も。
ビュン!とクラゲの足が長く長く伸び、上空で待機しているダイワにパンチしました。
ドッカーン!
船首を殴られたダイワはくるくる回って飛んでいき、氷の山に激突して墜落してしまいました。
「ダイワーーっ!!」
中には多くの乗組員がいて、大事な放射能除去装置トテモクリンナーBが載せられているはずです。
ダイワは爆発はまぬがれたようですが、ぶすぶす黒い煙を吐いて、飛び立つのは不可能なようです。
一方、大クラゲは。
大クラゲは真っ黒だった中が青く光り、全身もピカピカ青い光が点滅し、開いた足がぐるぐる扇風機みたいに回ると、ものすごい風を巻き起こし、ふわりと浮かび上がると、まるで空飛ぶ円盤のように南の空に飛び去ってしまいました。
「くっそおーーーー………」
大事な鐘を奪われ、リク君を人質に取られ、飛行能力まで身につけて、
サンタの国対お化けクラゲの第2ラウンドも、お化けクラゲの大勝利に終わり、勝利者は笑い声のように甲高い回転音をさせて飛び去ってしまったのでした。