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03,怪獣出現!?

「なにい?」

 さすがの黒岩三太郎も驚いて定規で引っ張ったような細くて鋭い目を大きく開きました。外国人女サンタの冗談の通じなさそうな顔を見て、

「おめえはもういい」

 と肩をつかんでいた男の子を放すと、

「おおーい! 島村ーっ!」

 と大声を出しました。

「はいっ! 店長代理!」

 3DEESのお試しコーナーで大人のくせにみっともないところを見せてしまったサンタ店員が慌ててやってきました。

「荒木と矢木沢を呼んできてくれ」

 三太郎はそう命じると、来いよ?と外国人女サンタに首で合図して従業員通用口に入っていきました。

 従業員通用口は短い通路の先にズラリと予備のオモチャの並ぶ倉庫があり、さらにその奥にあるドアを、カメラをのぞき込んで目の中の毛細血管(もうさいけっかん)を読み込んで人を識別(しきべつ)する「虹彩認証式(こうさいにんしょうしき)ロック」を解除して開け、入りました。町のオモチャ屋のくせにすごいセキュリティーですが、その部屋にはなんと、壁に大型スクリーンがあり何台もの高性能コンピュータが並び、NASAの司令室を小型にしたようです。

 スクリーンにはすでに若い女サンタのオペレーターによって「サンタの国」の守衛隊長が呼び出されていました。白いモコモコのコートを着たおじさんです。

「おお、三太郎。キルシマルヤに会ったな」

 守衛隊長はこちらにあるカメラで三太郎と、難しい顔で腕を組む女サンタを見て、少しだけ安心した顔で言いました。

「隊長。そっちに怪獣が現れたって? そいつは……でかいのか?」

 三太郎の問いに隊長は重々しくうなずきました。

「うむ。でかい。今、守衛隊が応戦しているが、工場がやられるのは時間の問題だろう」

「工場のサンタたちやグランドサンタは避難してるんだろうな?」

「それはだいじょうぶだ。みな逃げ出してけが人もいない。守衛隊だけではどうにもならんので世界中の腕っぷしの強そうなサンタに応援を要請しているところだ。三太郎、おまえもすぐ来てくれ!」

「了解。で、どんな奴なんだ?……ってのはまあいいや。よし、すぐ行く」

「頼むぞ!」

 守衛隊長は忙しそうに通話を切ってスクリーンから消えました。他にも応援を頼むのでしょう。

 コンコンとドアがノックされました。

「おっと、あいつらはこの部屋には入れねえんだった。キルシマルヤ、行くぞ」

 二人が部屋を出ると、3人のサンタ店員が待っていました。

「ご苦労。緊急事態だ。サンタの国に飛ぶ。諸君らも来てくれたまえ」

 三太郎に重々しく改まった口調で言われて三人は「はいっ!」と緊張して気をつけして返事をしました。


 二人と三人はぞろぞろと通用口から店内に出てきました。そこには自前の鼻ひげを生やした見るからに立派なサンタ執事が待っていました。

「霧山部長。後のことは頼む」

「かしこまりました」

 サンタ執事の霧山部長はていねいなお辞儀で三太郎たちを見送りました。3DEESの子どもたちも物々しい様子にまた目を丸くして注目しました。

「うん?」

 三太郎はふと足を止めました。

 ゲーム売り場の入り口で、あの男の子がつまらなそうな顔で立っていました。あれだけやって、まだゲームがし足りないのでしょうか? 男の子はつまらなそうな顔で三太郎を見上げました。三太郎はニヤリと笑い、

「おい、悪い子・オブ・ザ・イヤー。褒美(ほうび)だ、おまえも来やがれ」

 三太郎はドカドカ歩き出し、男の子もつまらなそうな顔のまま一番後ろからついてきました。


 三太郎とサンタ一行はショッピングモールを出て、道向こうの駐車場に向かいました、スクランブル信号が青になるのを待つ一行はかなり目立って買い物客たちの注目を集めました。季節がらサンタクロースのかっこうをした人も珍しくはありませんが、これだけサンタの衣装が似合わないごつい大男も珍しいですし、いっしょにいる外国人の女サンタはすごく綺麗ですし、……お供の三人はふつうの日本人のおじさんたちで、これまた真っ赤なサンタの衣装が似合っているとはお世辞にも言えません。

 信号が青になって一行は歩き出しました。従業員の車は広い駐車場の一番奥に止めてあります。歩きながらキルシマルヤは後ろの三人に視線を投げかけ、三太郎に聞きました。

「この人たちは? 使えるの?」

「うちの3DS(でぃーえす)さ」

「3DS?」

「スリー・ダメ・サンタズ。店に置いといてもどうせ役に立たねえから連れてきた」

 悪戯っぽく笑う三太郎にキルシマルヤは

「あらまあ」

 とあきれ、冴えない三人に向かって、

「フィンランドのサンタ事務局長キルシマルヤよ。よろしく」

 ときびきびした口調で挨拶しました。

「フィンランドのサンタ事務局長!」

 フィンランドには「サンタの家」があります。本場のサンタの国の事務局長といえば本物サンタクロースの中でもトップクラスの大物サンタのはずです。

「よ、よろしくお願いします、キリシミマスヨ様」

 舌を噛みそうに名前を間違えるおじさんサンタに

「クーシって呼んで。ま、こういう事態じゃ怪獣の親戚みたいで肩身が狭いけど」

 と、クーシはフレンドリーに肩をすくめて見せました。三人の駄目サンタたちは『それはクッシーだ』と心の中で思いながら愛想笑いを浮かべました。

 もう一人。

「この子は? 連れていく気?」

「ああ」

 三太郎は後ろからついてくる男の子を振り返って言いました。

「今年の俺のお気に入りだからな。今年は赤サンタが大忙しで俺の出番は無しかと腐っていたんだがな、大事件のついでだ、本業の黒サンタも勤めさせてもらうぜ」

「のんきなものね」

 三太郎の相変わらずぶりにクーシがあきれていると、

「俺の車だ。みんな、乗れ」

 一番奥に、周りに他の車を寄せ付けないように、大きな真っ黒なリムジンがでーんと駐車されているのを指さし、三太郎は命じました。

 おじさんサンタたちが後ろに乗り、クーシが助手席に座り、三太郎はリモコンキーでエンジンをかけ、突っ立つ男の子に向かい合って尋ねました。

「おまえの名前は? 俺はサンタの国所属の黒サンタ、黒岩三太郎だ」

 男の子はボソッと、

「おばま」

 と名乗りました。

「小浜 りく」

「よおし、リク。よろしく頼むぜ」

 三太郎は大きな手でがっしりリク少年と握手しました。

「おめえは後ろでおじさんたちと乗ってろ」

 リムジンの後部座席はバスのように長椅子が向かい合っていました。リク少年は2人対1人で向かい合っている1人のサンタ、島村サンタと隣り合って座りました。

「よろしく」

 3DEESで手こずらされた島村サンタは優しく挨拶しましたが、リク少年はちょっと頭を動かしただけでした。

「ぶっ飛ばすからな、シートベルトしっかりしめろよ」

 三太郎は楽しそうに言って、操作パネルの「変型」ボタンを押しました。

 黒塗りのリムジンの下に三角形の翼が生え、後ろのトランクが開いて二つのジェットエンジンが現れました。

 いっぱいに止まった駐車場の買い物客が目を丸くして見ています。

「見られているわよ?」

 クーシが三太郎の不注意を注意しました。

「おっといけねえ」

 三太郎は「光学迷彩(こうがくめいさい)」ボタンを押しました。するとリムジンの表面に反対側の景色が映し出され、リムジンは透明になりました。

「見られたわよ?」

 クーシは助手席の窓ガラスからびっくりした顔でこちらを見ている買い物客たちを見て言いました。

「仕方ねえ、緊急事態だ」

 ニヤニヤして言う三太郎に、わざとね?とクーシはあきれて横目でにらみました。

「行くぜ!」

 底のバーナーをふかして車体が浮き上がり、安全な高度を確保すると、後ろのジェットを爆発させて

「ギュワアアーーン!」

 とリムジンジェット機は空高く飛び立ちました。後ろの四人は急加速に思わず揃って万歳して横へのけぞりました。


 ゴオオオーーッ、と風を切り裂いて音速飛行していると、後方にもう1機、同じ速度で飛ぶ赤いスポーツカーのジェット機が現れました。クーシが乗ってきて、どこかに待機させていた空陸両用車です。

 空のドライブを楽しみながら三太郎が聞きました。

「で? なんでおまえさんが呼びに来た?」

「『サンタの家』から『本物のサンタクロース』が来日するのにお供してね、たまたまこっちにいたのよ」

「そうか。そいつは災難だったな?」

「ええ、まったくだわ」

 お互い憎まれ口をたたき合う二人は長いつき合いのようです。

「怪獣ってのはどんな奴なんだ?」

「あんたみたいな奴よ?」

「ああん?」

「でかくて真っ黒くて……、そうね、日本の和菓子に似たようなのを知ってるわ。あんこをプルプルのゼリーでつつんだおまんじゅう」

「くずまんじゅうか」

 こしあんを葛(くず)の粉で作った皮でくるんだお菓子です。水まんじゅうとも言います。

「ありゃあ夏のお菓子だろうが。季節外れな奴め」

「南半球なら喜ばれたでしょうにね?」

 最初怖い顔をしていたクーシもだいぶリラックスしてきたようです。なんだかんだ言いながら三太郎を頼りにしているのでしょう。

「一つ気になる情報があるのよ。どうやらその怪獣、日本からやってきたみたいなのよ」

「ほう? そいつあ気づかなかった俺の失敗だ。せいぜい挽回(ばんかい)するように頑張らせてもらうぜ」

 リムジンジェット機はツンドラの大地を越え氷の海を渡り、早くも北極の氷の大陸に到達しました。

「あれか」

 真っ白な景色の中に、黒い、大きな、ずんぐり丸い「怪獣」が見えてきました。

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