第167話 聖なる万年平和の王国へと(中編)
「……見違えたぞ、ガイエル・ケスナー」
魔獣人間ゴブリート……大聖人アゼル・ガフナーが、微かに息を呑んだようだ。
「レボルト・ハイマンに、いいようにあしらわれていた時の貴様とは別人のようだ。万全の状態を……本来の力を、取り戻したようだな」
「晴れやかな気分で戦いたい。貴様は、そう言っていた」
豪奢な肩当の付いたマントを、ガイエルは脱ぎ捨てた。
露わになったのは、筋肉が美しく引き締まり力強く隆起した裸身。
「どうだアゼル・ガフナー。貴様の心は今、晴れやかなのか?」
「とも言えん……かな。俺の中には今、嵐の日の曇天の如く渦巻いているものがある。貴様も、そのようだが」
「……まあ、な」
ガイエルが、秀麗な口元で牙を剥く。
ティアンナは思う。ガイエル・ケスナーとアゼル・ガフナー、この両名の心の中で嵐の日の曇天のように渦巻いて雷鳴を発しているもの。
それは、死せる者への思いだ。
両者とも、かけがえのない相手を失っている。
アゼルは、300年前の盟友の思いを遂げるべく戦っている。
ガイエルはどうか。
彼は、対等の立場で低次元な殴り合い罵り合いの出来た唯一の相手を、失ってしまった。
自分ティアンナ・エルベットの手によって、だ。
「貴方は……私を、許せないのでしょう。ガイエル様」
込み上げる吐血の味を噛み締めながら、ティアンナは呻いた。
「なのに形としては、私を守って下さる……ように見えてしまいます。何故なのですか」
「同じ事を何度も言わせるとは、貴女らしくもない」
ティアンナを背後に庇い、その力強い尻の引き締まりようを見せつけながら、ガイエルは言った。
「見届けさせてもらう、それまで命は預けておくと俺は言ったはずだ。勝手に死ぬ事は許さん」
「私は……己の生き死ににまで、貴方に許可をいただかなければならないのですか」
言いつつ、ティアンナは思った。これ以上の愚問はない、と。
ガイエルが今その気になれば、ティアンナは死ぬ。
自分は、生殺与奪の権を完全に握られているのだ。己の生き死にを決める権利すら、今のティアンナにはない。
その状況を変えるには、即この場で舌でも噛むしかないのだ。
「自殺などしてみろ。俺は、ヴァスケリアもバルムガルドも滅ぼすぞ」
己の顔面に右手を当てながら、ガイエルは言った。
「おかしな考えは持たず、黙って見ているがいい……悪竜転身」
赤い大蛇のような尻尾が、ティアンナの眼前で荒々しくうねる。
炎の如く揺らめく闘気を全身にまとう赤き魔人が、そこに出現していた。
倒れたまま見つめるティアンナの身体が突然、ふわりと抱き上げられた。青い金属質の細腕によってだ。
体内で、折れた肋骨がどこかを擦る。痛みが疼いた。
「痛いだろうけど、ここからは離れた方がいいわ」
シェファ・ランティだった。魔法の鎧で強化された少女の腕力が、ティアンナの負傷した細身を優しく抱き運ぶ。
少女2人が離れて行く、のを確認したかのようにガイエルは動いた。アゼルも動いた。
両者、ほぼ同時に踏み込んでいた。
紅蓮の闘気をまとい渦巻かせる魔人と、炎の体毛を燃え上がらせる魔獣人間。
2つの太陽がぶつかり合った。ティアンナには、そう見えた。
激突の結果、アゼルの小柄な肉体が高々と宙を待った。やはり体格の違いは圧倒的だ。正面からのぶつかり合いで、彼がガイエルに勝てるはずはない。
そうティアンナが思った、その時。
吹っ飛んだゴブリートの小柄な身体が、空中で燃え上がり、隕石と化した。
宙を断ち切るかのような急降下が、ガイエルを直撃する。
「うぬ……ッ!」
先程ラウデン・ゼビルを粉砕した、その一撃を、ガイエルは両腕で受けていた。刃のヒレを赤熱させる左右の前腕が、防御の形に交差している。そこに炎の隕石が激突したところである。
ガイエルの足元で地面が凹み、広範囲に渡って抉れ、大量の土が飛散した。
襲い来る大地の破片をシェファが、ティアンナを庇って全身で受けてくれた。
隕石孔の如く巨大な凹みの中で、ガイエルが防御の姿勢のまま、よろめいている。
アゼルはすでに、彼の傍に着地していた。そして踏み込んでいた。
燃え盛る掌が、ガイエルの脇腹の辺りに叩き込まれる。
炎、と言うより超高熱そのものが、赤き魔人の体内に激しく流入する。
ギルベルト・レインは先程、この一撃で火葬された。だがガイエルは。
「俺の……はらわたはな、貴様の炎よりも熱く……煮えくり返っているのよ……」
苦しげに、そんな声を発しながら、ゴブリートの小柄な身体を捕獲していた。
真紅の甲殻と鱗とヒレを備えた剛腕が、燃え盛る魔獣人間の肉体をバキッ、めきめきっ! と抱き潰しにかかる。
「ぐっ! …………が…………ッッ!」
死の抱擁の中で、アゼルは血を吐いた。小柄な身体が、赤き魔人の剛力に圧迫されて歪み、へし曲がりながら、炎の体毛を荒れ狂わせる。
紅炎にも似た猛火の渦に包まれ灼かれながら、ガイエルは牙を剥いていた。
美しいほどに白く鋭い牙の列が、顔面甲殻を粉砕しながら露わになり、そしてアゼルの太く短い頸部に突き刺さる。
脛骨も気管も一緒くたに砕け裂けてゆく、凄惨な音が響いた。
そんな状態でありながらアゼル・ガフナーは、最後の声を発していた。
「た……頼む、ガイエル・ケスナー……この地に住まう、唯一神教徒を……神に祈る事しか出来ぬ、哀れな者どもを……守って……どうか、守ってくれ……」
「……良かろう」
請け負いながらガイエルは、アゼルの頸部を、胸板を、顔面を、バリバリと咀嚼した。
岩窟魔宮でブレン・バイアスを食い殺した時のように。
「アゼル・ガフナー……貴様もまた、守るべき信ずるべき何かのために、戦う男だったのだな……そして俺のような、ただ残虐なだけの怪物に……こうして殺され、喰われてゆく……」
炎の塊のような魔獣人間の肉体を、がつがつと美味そうに喰らいながら、ガイエルは笑っているようでも泣いているようでもあった。
「貴様の生命が、力が、俺の身体に漲ってゆく……俺の、焼けただれた臓物を癒してゆく……」
赤き魔人が、アゼルの肉を食いちぎり、骨を噛み砕き、臓物を貪り、体液をすすり、炎を吸引する。小さな太陽のようだった魔獣人間を、平らげてゆく。
全て終わったのだ、とティアンナは思った。ここヴァスケリア北部における動乱は、終わりを告げた。
この地で独立国家の体を成していた唯一神教ローエン派の勢力は、滅び去ったのだ。聖女アマリア・カストゥールも、ラウデン・ゼビル侯爵も、もはやこの世にはいない。聖なる戦士の軍団も壊滅した。
それら大殺戮を成し遂げた大聖人アゼル・ガフナーは、今や喰い尽くされて皮の1枚も残ってはいない。
残ったのは、全身で闘気を燃え上がらせる赤き魔人の、禍々しく猛々しい姿である。
その姿が、ゆらりと歩み寄って来る。
自分に近付いて来ている、のではないとティアンナは悟った。
ガイエルは、自分の傍を通り過ぎて行こうとしているだけだ。
通り過ぎながら、彼は言った。
「己が信ずるもののために、人である事を捨ててまで戦い抜いた男の……命と、血肉。この世に、これほど美味いものはあるまい。貴女にはわからんだろうな、ティアンナ」
「……わかりたくも、ありません」
シェファに抱き上げられたまま、ティアンナは応えた。応えながら、訊いた。
「アゼル・ガフナーの遺言通り……この地の人々を守るのですか、ガイエル様。貴方を、天下った唯一神の化身であると信ずる人々を」
「仕方があるまい。つい引き受けてしまったからな」
死にゆく者に託され、つい引き受けてしまった事を、徹底的にやり遂げる。妨害者を殺戮しながら。
それが、このガイエル・ケスナーという男だ。
義侠心の塊なのだ、と改めて思いながらティアンナは言った。
「ガルネア、エヴァリア、バスク、レドン、レネリア……この5つの地方は今この時をもって、ヴァスケリア王政の下へ帰属いたしました。貴方のような一個人が、国王ディン・ザナード4世陛下を差し置いて民衆を守る。それは叛乱にも等しい行為であると、おわかりですかガイエル様」
「叛乱と思うならば、鎮圧してみるがいい。リムレオン・エルベットを使ってな」
言葉と共に、翼ある赤き魔人の背中が遠ざかって行く。
その背中に、シェファが声を投げつける。
「ちょっと……何で、そこでリム様が出て来んのよっ!」
「お前たちも1度や2度、心が折れたくらいで奴を見放してやるな」
ガイエルは、立ち止まらず振り向きもせずに言った。
「あれはな、お前たちを守るためならば十倍も百倍も強くなれる男だ……そして、俺が喰らう」
結局、逃げてしまった。
もちろん、あの場にいたところで自分に何かが出来たとは思えない。
ならば、逃げた先で何か出来る事はあるのか。
己に対し、そんな問いかけを繰り返しながら、イリーナ・ジェンキムは森の中をとぼとぼと歩いていた。先程までは走っていた。
ラウデン・ゼビル侯爵を戦場に残し、逃げて来たのだ。
「どこへ逃げればいいの……私、これからどこへ行けば……何をすれば……」
教えてくれる者などいない。わかっていながら、イリーナは懇願していた。
「教えて……お父様……」
父ゾルカ・ジェンキムの遺した技術が、唯一神教ローエン派に……聖女アマリア・カストゥールに利用された結果、この世に一体何がもたらされてしまったのか。
あの聖なる戦士という者たちを、父は一体いかなる思いで見るのだろうか。
利用された。それは間違いない。だが喜んで利用されていたのは自分である。
そう思いながら、イリーナは立ち止まった。
森の中に、村があった。
村人たちが逃げ惑っている。鈍色の兵士たちに、追い回されてだ。
中身のない、動く甲冑の群れ。
イリーナが、父ゾルカの技術を実に浅はかな形で具現化してしまった、その結果である。
「な、何故……このような無体をなさるのですか、司祭様」
空っぽの鎧歩兵に掴まれ捕えられたまま、村人たちが困惑している。
「私どもは聖女様の御教えを守り、心正しく穏やかに日々を過ごしております。このように囚われるような罪など」
「聖女アマリアに身を捧げよ! それが唯一神教徒の悦びであろうが!」
司祭様、と呼ばれた男が、尊大な声を発している。
その右手、中指に巻き付いた蛇の指輪が、神聖なるものであるはずなのに禍々しい光を放つ。
この指輪が、鈍色の鎧歩兵たちを操っているのだ。
「唯一神を、大聖人ローエン・フェルナスの教えを、そして聖女アマリアを! 守るための力となるのだ、お前たちは。これほどの誉れが、今この腐りきった世界に存在すると思うのか!」
喚きながら、その司祭は右手を振りかざす。
中身のない鈍色の甲冑たちが、村人たちを容赦なく捕え引きずり、集めにかかる。
「お願いです司祭様、子供は! 子供だけは!」
1人の女性が、鎧歩兵に捕えられたまま泣き叫ぶ。
彼女の息子なのであろう小さな男の子が、同じく鎧歩兵に物の如く担ぎ上げられ、じたばたと暴れている。
傲然と笑いながら、司祭は言った。
「唯一神は差別をなさらぬ。聖なる栄光は、女子供にも等しく与えられるものである」
「当然、貴方のような愚か者にも……というわけね。クオル・デーヴィ司祭」
イリーナは進み出て、声を投げた。
「強化魔獣人間たちを引き連れてサン・ローデルへと出向いたはずの貴方が、一体こんな所で何をしているのかしら」
「イリーナ・ジェンキム……聖女アマリアの身辺に巣食う魔女! 貴様こそ何故ここに」
「私は逃げて来たのよ。貴方も、そうでしょう?」
イリーナは微笑みかけて見せた。
「言わなくてもわかるわ。強化魔獣人間3匹を無様に死なせて、おめおめと聖女アマリアのもとへ帰る事も出来ず、せめてもの手土産と言うか失敗のごまかしとして、こんなふうに魔獣人間や聖なる戦士の材料を大量に狩り集めて聖女様に献上しようと……まあ、貴方らしいとは言えるわね。クオル司祭」
「貴様……貴様は……!」
クオル司祭の顔面が、硬直しながら痙攣する。魔獣人間にでも変わってしまいそうなほどに。
イリーナは、なおも言った。
「貴方たちのおかげでね、今のところ……考えうる最良の状態で、事が進んでいるわ。後はリムレオン・エルベット次第、赤き魔人の血の洗礼に耐え抜いてくれるかどうか。何にしてもクオル司祭、貴方は用済みよ。御苦労様とだけ言っておくわ」
「やはり……貴様と、あのラウデン・ゼビルを! やはり生かしておくべきではなかったのだ!」
クオル司祭が喚きながら、蛇の指輪を禍々しく発光させる。
鈍色の鎧歩兵たちが、捕えた村人たちをとりあえず解放し、一斉にこちらを向く。
イリーナ1人に向かって、長剣を構え、槍を構え、戦鎚や戦斧を振りかざす。
「行け、我が下僕たち! おぞましき魔女に、聖なる神罰を下すのだ!」
「貴方……誰に向かって何をしようとしているか、わかっているの」
冷ややかに問いかけながら、イリーナは軽く右手を掲げた。
繊細な中指に巻き付いた蛇の指輪が、光を発する。
その光が空中に投影され、白い窓枠を成した。
ジェンキム家の人間以外には解読不能な、謎めいた文字列を内包した、光の窓枠。
同じものが、鎧歩兵たちの頭上にも生じている。
「この動く魔法の鎧たちが、貴方がたローエン派に……誰によって、もたらされたのか。まさか忘れたわけではないでしょうね?」
言いつつイリーナは、光の窓枠の中で両手の五指を躍らせ、文字列を操作した。
鎧歩兵たちの頭上に開いた窓枠の中でも、同じように光の文字が書き換わってゆく。
必要な情報を全て書き換えたところで、イリーナは蛇の指輪に左手を触れ、光の窓枠を消した。
鈍色の鎧歩兵たちが、ことごとくイリーナに背を向けた。
「な……何だ、お前たち……」
蛇の指輪を虚しく輝かせながら、クオル司祭が後退りをする。
そこへ、鈍色の甲冑たちがガシャ、ガシャッと歩み迫る。先程まではイリーナに向けていた得物で、クオルを切り刻もうとしている。
「魔女め……! 邪悪な黒魔術を!」
「……まあ、そういう事にしておきましょうか」
「ならば……こちらは、聖なる白き奇跡をもって応ずるしかあるまい」
怯え狼狽していたクオルの表情が、おかしな感じに据わった。
狂信者の顔つきだ、とイリーナが思った瞬間、異変は起こった。
クオルの右手で、蛇の指輪が、本物の蛇に変わった。イリーナには、そう見えた。
「これぞ……聖女アマリアの、大いなる愛がもたらしたる奇跡……」
金属製の蛇が、指輪の大きさから一気に膨張・巨大化しつつ、クオルの脇腹に突き刺さる。
血まみれになった法衣が、ちぎれ飛んだ。
露わになったのは、金属化を遂げた皮膚である。
今度は、イリーナの方が後退りをしていた。
蛇の指輪に、このような力を付与した覚えはない。恐らくはアマリア・カストゥールの手によるものであろう。
魔法の鎧の出来損ない、とでも言うべきものを、クオルは身にまといつつあった。それはしかし外から装着したものではない。
異形の金属甲冑が、彼の体内より生じているのだ。
脇腹から突き刺さり潜り込んだ蛇が、司祭を金属製の怪物に変化させている。
体内より際限なく鈍色の金属を隆起させながら、クオルは巨大な怪物と化しつつあった。
金属の巨人。言うなれば、そうなる。
イリーナも、聞いた事はあった。
大司教クラバー・ルマンが、かつて国王ディン・ザナード4世の面前で、これと同じ怪物に変わったのだという。そしてブレン・バイアスに討ち取られた。
「邪悪なる魔女の技など、愛の神罰の前には無力!」
狂信者の形相のまま金属化し、固まった顔面で、クオルは眼光を燃やした。
そして右腕を振るう。
腕の先端は五指ではなく、蟷螂を思わせる巨大な刃であった。
その斬撃が、鎧歩兵を3体いや4体まとめて斬り砕く。鈍色の金属片が、血飛沫のように飛散する。
村人たちが悲鳴を上げ、逃げ去って行く。
彼ら彼女らを守る形に、鎧歩兵たちが金属の巨人に群がり、武器を叩きつける。
長剣が、槍が、戦鎚と戦斧が、しかし装甲の怪物と化したクオル司祭を殴打しつつも跳ね返る。
よろめいた量産甲冑たちを、巨大な蟷螂の斬撃が薙ぎ払う。
「これは……こんな……」
イリーナが呆然と声を発した、その時には、もはや原形をとどめた鎧歩兵はいなくなっていた。
「魔法の鎧が……こんな、おぞましいものに……」
「自分のせいだ、などと思ってしまうのだろうな。君は」
声が聞こえた。
空耳だ、とイリーナは思った。あの男が、こんな所にいるはずはない。
自分を、助けてくれるはずがない。
足音も聞こえた。そして、姿も見えた。
「だからと言って、勝手に罰を受けて死んでしまうような事は……しないで欲しい。死の罰を受けるくらいなら、生きて償いをするべきだと思う。ローエン派の教義さ」
姿を現した男が、イリーナを背後に庇って立つ。
「君も、形だけとは言え1度はローエン派に入信した身だ。従ってみてはどうかな」
粗末な、下級聖職者の装束をまとった若い男。顔も体格も、普通であるとしか言いようがない。
そんな特徴に乏しい男が、金属の巨人と対峙している。
イリーナは、息を呑みながら声を発した。
「マディック・ラザン……何をしているの、こんな所で……」
「君を助けようとしている、わけではないよ。クオル・デーヴィは、俺が止めなければならない」
「背教者……お前までもが姿を現すとは都合が良い」
かつてはマディックと長旅を共にした間柄であるクオルが、しかし憎しみの眼光と言葉を放つ。
「魔女共々、唯一神の罰をくれてやろう。聖女アマリア・カストゥールの御名において!」
「レイニーそれにアレンと一緒に、旅をしていた頃から……お前は夢見がちな男だったな、クオル」
マディックは、己の眼前に右拳を掲げた。
拳の中指で、竜の指輪が緑色に輝いている。
「今、お前が見ているのは覚めない悪夢だ。もはや夢も見ない、深く安らかな眠りにつけ。俺がお前にしてやれる、それが唯一の事だ……武装、転身」