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第108話 竜と姫君

 開いた口が塞がらない、とはまさにこの事だった。

「馬鹿か! 馬鹿なのか、貴公はっ!」

 魔族の帝王に向かって、レボルト・ハイマンはついそんな口をきいてしまった。

「バルムガルドの民のためにも、貴殿には磐石の支配者でいてもらわねばならんと言うのに! 何という、何というくだらぬ負傷を!」

「そう言うなレボルト将軍よ。仕方がないではないか」

 デーモンロードが、呑気な事を言っている。

「この女が、あまりにも美しいゆえ……ふふふ、一世一代の油断をしてしまったのよ」

「…………」

 美しい、と言われた女が何も言わず、独房の中で寝台に腰掛けている。

 光の当たり方によっては白髪にも見えてしまう銀髪。少なくとも外見は若々しい、冷たい美貌。しなやかな裸身に、今は毛布が巻き付いている。

 確かに、美しい女ではある。美しい人間の皮を、被っている。

 ゴズム岩窟魔宮内部。岩を大規模にくりぬいて造られた、独房にしてはいくらか広い牢獄である。

 寝台の他に浴槽、それに壁付きの便所も備え付けられており、外出以外は不自由のない生活が出来るようになっている。

 が、牢獄である事に違いはない。鉄格子の代わりに炎が燃えている牢獄である。何本もの火柱が、床から天井へと向かって伸びつつ燃え盛り、鉄格子の形を成しているのである。

 デーモンロードの鞭や剣と、同質の炎。いくらこの女でも、脱獄など不可能であろう。

 それにしても恐るべき女だ、とレボルトは認めざるを得ない。デーモンロードにここまでの重傷を負わせる事など、少なくとも自分には出来なかった。

 筋骨隆々たる、青黒い巨体。その下半身にデーモンロードは、穿き物のように包帯を巻いていた。この女を相手に、いかなる状況で傷を負ったのか、一目瞭然とも言える有り様である。

 粗末な歩兵の軍装をまとった人間の姿で、レボルトは、その端正に若返った顔を腹立たしげに歪めていた。

「まさか、まさか女が弱点だなどと……貴公に叛意を抱く魔物どもに知られたら、どのような事になると思っているのだ」

「案ずるな将軍。私を惑わせ、私を油断させ、私の弱点となり得る女など、そうはおらん……こやつだけだ」

 言いながらデーモンロードは、炎の格子の向こうにいる女に視線を投げた。

 美しい、銀髪の娘。彼女の美貌そのものには、しかしデーモンロードは、さして興味を抱いていないようである。

「そのような人間の皮など脱いでしまえ、メイフェム・グリムよ。おぞましくも美しい、あの魔獣人間の本性を見せてみろ」

「……気安く話しかけないで。私は今、貴方の正気を疑っているところなのよ」

 メイフェム・グリムが、ようやく口を開いた。

 冷たく鋭い、敵意に満ちた眼差しが、炎の格子の向こう側からデーモンロードを突き刺した。レボルトにも、向けられた。

「そのレボルト将軍と言い、私と言い……敵にしか成り得ない相手を近くに置いて、寝首を掻けと言わんばかりの体制を作るなんて。支配者としてやってゆく気が、デーモンロード殿には本当にあるのかしら?」

「寝首を掻かれるようなら、とうの昔に掻かれておるさ。そうであろう? レボルト将軍殿」

 デーモンロードの力強い手が、馴れ馴れしくレボルトの肩を叩く。

「こやつはなあ、バルムガルド王国の民を守るために己の意思を殺し、私に臣従しておる。涙ぐましい話ではないか」

「私もそうなる、なぁんて言うつもりじゃないでしょうねデーモンロード」

 メイフェムの両眼で、敵意が燃え上がった。

「私が、バルムガルド人を守るために貴方の思い通りになる……とでも?」

「さあ、どうであろうなあ」

 肉食獣にも猛禽にも怪魚にも見える顔に、デーモンロードは好色な笑みを浮かべた。

「ただ1つ言えるのはメイフェムよ、お前は明らかに我らの側にいる、という事だ。これまでに1体どれほどの人間どもを、虫ケラの如く殺めてきた?」

「レボルト将軍よりは大勢……下手をすると、貴方よりもね」

「そうであろう、そうであろうよ」

 デーモンロードは嬉しそうだ。

「そなたは、まさに魔族の皇妃となるべく生まれてきた女なのだよ。我が妻メイフェム・グリム」

「なあデーモンロード殿……今は婚礼どころではないという事くらいは、わかっていただけような」

 レボルトは口を挟んだ。

「竜の御子が、貴殿の命を狙っておる。あの怪物が、今日明日にでも岩窟魔宮に殴り込んで来るかも知れんのだぞ。貴公、その身体で戦えるのか」

「無論、来たら戦うしかあるまいが……そこはレボルト将軍が、何かしら手を打ってくれたのであろう?」

「……手を打つ、というほどのものではないがな」

 魔獣人間ドッペルマミーを、タジミ村に残し、潜ませておいた。無論ガイエル・ケスナーやゼノス・ブレギアスといった怪物どもを相手に何ほどの事が出来るか、あまり期待してはなるまいが。

「貴公のその無様な傷が癒えるまで、少しでも時間を稼いでもらうしかあるまい。その間、出来る限り岩窟魔宮の防備を固める。このような輩が、また入り込んで来ぬとも限らんからな」

 ちらりとメイフェムを見据えながら、レボルトは言った。

「魔人兵だけでは手が足りん。貴公の直属たるデーモン族の部隊にも、今少し協力的になってもらわねばならんぞ」

「まあ好きにするがいい。あやつらには、レボルト将軍の命令には従うよう言ってある……それにしても、だ。魔族の軍事司令官が、すっかり板についてしまったものよなあレボルト・ハイマン殿」

 デーモンロードが笑った。

 魔族のためではない、この国の民のためにしている事だ。レボルトはそう叫んでしまいそうになったが、その時にはデーモンロードは背を向け、歩み去り始めていた。

「おぬしが魔人兵たちを鍛え上げているように、私も直属のデーモンどもに少し活を入れてやらねばなるまい……そなたらは魔獣人間同士、積もる話もあろう。いかにして私の寝首を掻くか、好きなだけ悪だくみをすると良い」

 悠然と歩み去りつつデーモンロードは、1度だけ顔を振り向かせた。

「ただしレボルトよ……その女に手を出したら、いかに貴様とて許してはおかぬぞ?」

「……出さんよ。貴公のような目に遭うのは御免だ」

 豪快な笑い声を岩窟魔宮に響かせながら、デーモンロードが去って行く。

 その巨大な後ろ姿を睨みつつレボルトは、独房の中に声をかけた。

「災難であったなメイフェム・グリム……よもや、あの怪物に求婚されるとは」

「昔……1人の王女が、今の私と同じような境遇に置かれたわ」

 メイフェムは、岩の天井を見つめた。

「王国の民を守るために、怪物の求婚を受け入れた……まあ、立派な姫君だったわね。そこだけは、私と大違い」

「そうかな。このままでは結局貴様も、タジミ村を守るべく、デーモンロードに身を捧げる事になりそうではないか」

 この女魔獣人間はかつて、シーリン・カルナヴァート元王女の身柄を守るためにレボルトと戦い、命を落としかけた。

 誰かを守る。口で何を言おうと結局それが、メイフェム・グリムの行動の基幹となっているのだ。

「貴方はどうなのかしらね、レボルト将軍」

 炎の格子の向こうから、メイフェムがちらりと視線を投げてきた。

「貴方がこんな所で魔族のために働いているのは、本当に……この国の民を、守るため?」

「単なる保身と、思いたければ思うがいい」

「保身よりも、たちが悪いわ。ねえレボルト将軍、貴方デーモンロードの事が好きなんでしょう?」

「何だと……」

「やり取りを見ていると、そうとしか思えないところがあるのよね……あの愚かな怪物を、放っておけなくて仕方がない。そんな感じよ、貴方」

 世迷い言を吐くメイフェムに背を向け、レボルトは大股に歩き出した。

「……ふざけた事を言っている暇があったら、デーモンロードをどのように籠絡するのかを考えておけ。あの怪物を制御するため、私は貴様を大いに利用させてもらうぞ」

 メイフェムは何も言わない。ただ、冷たく笑っている。振り向かずとも、それはわかる。

「好き、だと……放っておけなくて仕方がない、だと……」

 メイフェムに言われた事を、レボルトは自身の口で呟いてみた。

 まさしく世迷い言、としか思えない。

「くだらん……何をくだらぬ事を!」

 度の過ぎた世迷い言だから、笑い飛ばしてやる気にもなれず、自分はこうして苛立っている。

 レボルトは強く、そう思い込んだ。



 ゼノス・ブレギアスと同じく、いつ破けてもいいような粗末な服を着ていてもらうしかなかった。四六時中、裸でいさせるわけにはいかない。もっとも本人は一向に気にしないであろうが。

「まったく、貴方という方は……お会いする度に、血まみれか全裸のどちらかなのですね」

 ティアンナは、苦笑するしかなかった。

「相変わらず、穏やかに生きるという事が出来ない御方……」

「貴女に言われたくはないな」

 ガイエルも苦笑している。炎のような赤毛で飾られた、精悍な美貌。

 あの赤き魔人の異形と比べ、どちらがこのガイエル・ケスナーという若者の本性に近いものであるのか、ティアンナにはわからない。

 タジミ村のはずれの、山林である。村落と森林地帯の、境界といった辺りであろうか。

 大木にもたれたまま、ガイエルはなおも言った。

「ヴァスケリアの王宮とて決して穏やかな環境ではないが、それでも魔族に支配された王国よりは遥かにましだ。なのに貴女は……何をトチ狂って、このような国に」

 バルムガルドから魔獣人間という戦力を奪うため。最初は、そのつもりだった。

 今ではこうして、バルムガルドという王国そのものの再建に力を貸す事となってしまった。

「成り行きで……状況に流されて、私は今ここにおります」

 ティアンナとしては、そう答えるしかない。

「成り行きで、とは言え1度始めてしまった事だ。途中で投げ出そうという気はないのだろうな、貴女には」

 ちらり、とガイエルがこちらを見た。

「投げ出さざるを得ないような状況を、俺が作って差し上げようか」

「……どのような?」

「俺が、このまま無理矢理に貴女を連れてヴァスケリアへ帰る。貴女自身を含め、止められる者など誰もいない。誰にも、文句は言わせんよ」

「竜は姫君をさらうもの。そう、おっしゃってましたね」

 この若者ならば、本気でやりかねない。そう思いつつも、ティアンナは微笑んだ。

「ですが私、そこまで状況に流されるつもりはありません。まずは、ここバルムガルドを魔物たちの支配から解放する事。それを成し遂げない限り、ヴァスケリア王国の平和も有り得ません。私が平穏に暮らす事も、出来ないのです」

「貴女1人の平穏と安全ならば、俺が守ってみせる」

 ガイエルの両眼で、真摯な光が燃え上がった。

「俺はなぁティアンナ。貴女1人だけが幸せに暮らせれば、他の事などどうでもいいのだよ。バルムガルドもヴァスケリアも、勝手に魔物どもとやり合って滅びてしまえばいい。俺や貴女の、知った事ではない……俺の力では、ティアンナ1人を守るのが精一杯だからな」

「ガイエル様は、それで私が幸せに暮らせると……本当に、お思いですか?」

 燃え上がる眼光を、ティアンナは正面から見据えた。

「大勢の人々が苦しみ死んでゆく中、自分1人だけが強大な力に守られ、身の安全と平穏を保つ……そのような状況に、ガイエル様は耐えられますか? 幸せを感じる事が、出来るのですか?」

「出来るとも。俺は、残虐だからな」

「嘘」

 ティアンナは、躊躇なく断定した。

「相変わらず、ガイエル様の残虐は口ばかり。周囲の人々が苦しんでいるという状況に、貴方は耐えられません。絶対に」

「な、何を根拠にそのような……」

「ダルーハ卿との戦の間、私はずっと貴方を見ていたのですよ?」

 根拠など、口で語って示すものではない。自身で目の当たりにした物事、それが全てなのだ。

「ガイエル様は、御自身の手で人を殺す苦しみには耐えられるでしょう。御自身が殺される苦しみにも、耐えてしまうのでしょうね。ですが他の人々が暴虐の嵐の中で死んでゆく……その苦しみには、繰り返しますが貴方は絶対に耐えられません。御自分で耐えられない事を、他人に押し付けてはいけませんよ」

「…………本当に、貴女は何も変わってはいないな」

 ガイエルは目を逸らせ、溜め息をついた。

「その頑固なまでの信念と言うか何と言うか……うちの糞親父が、持て余すわけだ」

「ダルーハ卿が、私を……持て余す?」

「そうだったのではないかと俺は思っている。まあ、それはいい。とにかく要は、この国が平和になりさえすれば、貴女はヴァスケリアに帰って来てくれるのだな」

「……御力を、貸して下さいますか?」

 言いながら、ティアンナは思う。結局はこうなってしまうのか、と。

 自分は結局、ガイエル・ケスナーがいなければ何も出来ないのか。

 だが今は、そのような自尊心にこだわっていられる状況ではない。

「兄に教わった事があります。有るものは、利用しなければならないと……私は結局、またしてもガイエル様を利用する事になってしまうのですか?」

「モートン王子の言いそうな事だな」

 ガイエルは、屈託なく笑った。あの兄とこの若者は、どういうわけか妙に仲が良いのである。

「まあ俺の事は、利用でも何でもすればいい。俺はただ、暴れるだけだ」

 そんな言葉と共にガイエルは、ティアンナに背を向けていた。どこかへ、歩み去ろうとしている。

「……どちらへ行かれるのですか?」

「言ったはずだ、ただ暴れるだけだとな」

「てめえコラ、かっこつけてんじゃねえぞう」

 ガサガサッと茂みを鳴らし、何者かが姿を現した。

 ティアンナの予想通りと言うか、ゼノス・ブレギアスだった。今は人間の姿で、ガイエルと同じく、いつ破けても良い服を身にまとっている。

「黙って聞いてりゃカッコつけ台詞ばっか吐きやがって。てめえ、1人で岩窟魔宮に殴り込もうってんだろうがあ?」

「だ、駄目ですよゼノス王子!」

 マチュアもいた。法衣姿の小さな身体で、ゼノスの片脚にしがみついている。

 ガイエルが、微笑みかけた。

「マチュア殿には世話になってしまったな。本当に助かった、ありがとう」

「えっ……い、いえ……そんな」

 マチュアの可愛らしい顔に、初々しい赤みが昇ってゆく。

 自分の顔に、いささか引きつった笑みが浮かんでしまうのを、ティアンナは止められなかった。

(あらあら、こんな小さな子まで舞い上がらせてしまって……この方はまったく、もう)

「てめえ! ティアンナ姫だけじゃなく、こんな小さな嬢ちゃんにまで色目使いやがるたあ!」

 ゼノスがガイエルの髪を、ガイエルがゼノスの胸ぐらを掴んだ。そして互いに、荒々しく揺さぶった。

「わざわざカッコつけるためだけに、ティアンナ姫の前に出てきやがったんか、この野郎」

「貴様は何だ。俺に叩きのめされた無様な姿を晒すためだけに、ティアンナの前に出て来たのか?」

「はっはっは、だから呼び捨てにしてんじゃねえよ人の嫁さんをおおおおおおお!」

 喚くゼノスの腹に、ガイエルの片膝がズン……ッと叩き込まれた。マチュアが悲鳴を上げた。

 身を折って呻くゼノスを、胸ぐらを掴んで引きずり起こしながら、ガイエルは言う。

「いけないなティアンナ。このような野良犬、どこで拾って来たのだ。少し頭を撫でてやっただけで家にまで上がり込んで来る、たちの悪い捨て犬だ。俺が、元の場所に返して来てやる……」

 その言葉が終わらぬうちに、ガイエルの顔面から微量の鮮血が飛び散った。ゼノスの拳が、叩き込まれていた。

「おめえよォ、この村にいてもいいけどよ、ティアンナ姫に話しかけんのぁ俺の許可取ってからにしろや! な?」

「……貴様こそ、ティアンナの近くにいたければ首輪と鎖を付けて来い! 俺が躾をしてやる!」

 人間ではない若者2人が、牙を剥きながら互いの髪と胸ぐらを掴み、額をぶつけ合う。

 形良い顎に綺麗な指を当て、ティアンナはじっと見入った。この2人、やはり力は互角か。

「や、やめて下さぁい……」

 マチュアが、おたおたと仲裁に入った。ティアンナも、とりあえず止めてやる事にした。

「そこまでにしておきなさい。貴方たちには、仲良くしていただかなければなりません。この村を守るために、ね」

「……勘違いをするなティアンナ。俺は魔物どもとは戦うが、この村の守りなど知らん」

 ガイエルは言いながら、ゼノスを振りほどき、歩み去ろうとする。

 ゼノスはさせず、ガイエルの肩の辺りを掴んだ。

「だからテメエ、岩窟魔宮に行こうとしてんじゃねえよ」

「貴様には関係なかろうが。俺は、デーモンロードと決着をつける。それだけだ。他の事は知らん」

「ふん、じゃあ俺も一緒に行ってやるよ……」

「貴様には、この村を守る務めがある。そうだろう?」

 ガイエルは、ゼノスの腕を掴み返した。

「1つ言っておく。この村にはな、魔獣人間が1匹、潜り込んでいるのだぞ」

「何だと……」

「そやつ、大して強くはない。が、他者に化ける能力を持っている。探し出して始末しろ。その間、俺がデーモンロードを倒しておく」

「デーモンロード……それが、魔物たちを率いる者の名前なのですか?」

 ティアンナが問うと、ガイエルは顔だけを振り向かせ、頷いた。

「奴とは因縁があってな……1度戦い、仕留め損ねた」

 ダルーハ・ケスナーを倒した勇者が、仕留め損ねてしまうほどの相手。

 そんな怪物と、ガイエルは単身で決着をつけようとしている。他者を……この村を、巻き込まぬために。

 それが、ティアンナにはわかった。

「だからカッコつけんじゃねえって言ってんだろテメエこら!」

 ゼノスが激昂し、ガイエルの胸ぐらを掴んだ。

「岩窟魔宮にゃそのデーモンロードだけじゃねえ、あのレボルトの野郎だっていやがんだぞ? ゴルジ殿が造った仕掛けだってまだ生きてるかも知んねえし、他にどんな連中がいんのかわかりゃしねえ! テメエ1人でどうにかなるとでも思ってんのか!」

「信じられないわ……ゼノス王子が、こんなに正しい事を言うなんて」

 皮肉ではなしに本心から、ティアンナは言った。

「この村に潜り込んだという魔獣人間も含めた、様々な問題に……私たちは、一致団結して対処しなければなりません。貴方がたから見れば私たちなど、手を組むに値しない非力な存在でしょうが、まあ団結という事にしておきましょう。とにかくゼノス王子にガイエル様、お2人には嫌でも仲良くしていただきます。この村を守るため、協力体制を作って下さい」

「わかっていないなティアンナ……デーモンロードはな、俺の命を狙っているのだぞ。奴が来れば、この村が」

「ガイエル様、ここで再会を果たせたのも唯一神のお導きです。どうかもう、お1人で行動なさろうとしないで下さい」

 眼差しで黙らせるつもりでガイエルを見つめ、ティアンナは言った。

「お1人で動いておられる貴方を、私は今まで大いに利用させていただきました……国境でバルムガルド軍を退けて下さったのは、ガイエル様でしょう? それに、ダルーハ軍の残党も」

「暇だから殺してみただけだ」

「そうですか。貴方をお1人にしておくと、殺戮の嵐が吹きすさぶという事ですね」

 ダルーハが死んだ時の会話を、ティアンナは思い返していた。

「あの時、申し上げた通りですガイエル様……やはり貴方を、野放しにしてはおけません。この村にいて下さい」

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