猫のミーちゃん
「月刊たる2026年9月号」に不採用となった原稿です。
響子は四十一歳、税理士事務所で事務員として働き大阪市内のマンションで一人暮らしている。二十八歳で貿易商と結婚したが三年で離婚した。子供はいない。離婚後しばらくは滋賀の実家で暮らしていた。
響子はワインが好きで自宅にペルチェ式の小型ワインセラーを設置していた。ペット飼育可の賃貸マンションを選んだので、猫のミーちゃんを飼っている。響子は仕事から帰るとミーちゃんと戯れて癒される日々を過ごしていた。
ある日、ミーちゃんが高熱を出したので響子は動物病院に連れていった。嘔吐下痢もあるため獣医は胃腸炎と診断し点滴した。響子は少量だがミーちゃんにワインを舐めさせたのが悪かったのかと心配していた。
実家で飼っていたミーちゃんをマンションに連れて行き、酔った勢いでワインを与えてしまった・・・猫を飼う資格はないと響子は自己嫌悪におちいった。
その夜は一晩中ミーちゃんを看病した。点滴のおかげで熱は下がり嘔吐もなくなった。それでもミーちゃんはぐったりしていた。
夜が明け始めた頃、ミーちゃんの「にゃー」と鳴く声で響子は目を覚ました。「ミーちゃん!」と抱きしめると猫はキョトンとした表情を浮かべた。
動物病院に連れて行くと元気になった猫に獣医は笑顔をみせた。ミーちゃんは見慣れない場所にキョロキョロしていた。
獣医は「ニュージーランドでペット向けのノンアルコールワインが開発されたそうですよ」とパンフレットを響子に渡してくれた。シソ科植物が配合されていて、猫が飲むと陽気になり活動的になるそうだ。
響子はワインを飲ませたことを獣医に見抜かれているのかと思ったが言いだせなかった。響子は獣医に頭を下げミーちゃんを腕に抱いて動物病院を後にした。獣医の慈悲深さに響子は深く感謝するのであった。




