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第1話 死んだはずの俺が、なぜか赤ん坊だった件

こんにちは、宵先誠よいさき まことです

今回は、

「ブラック企業で過労死した社畜が、異世界で赤ん坊から人生をやり直す」

という王道転生ファンタジーを書いてみました。

最近は追放やざまぁ系も好きなのですが、たまには

優しい保護者

のんびり成長

師弟関係

少しずつ広がる世界

みたいな作品も読みたくなるんですよね。

だから、私が、読みたい内容を書いてみました。

楽しんでもらったら幸いです

どうぞお楽しみください。


死ぬ瞬間というのは、意外と静かなものだ。


田中誠二たなかせいじ、享年三十二歳。


会社のデスクに突っ伏したまま、心臓が止まった。


最後に見たのは、積み上げた書類の山と、まだ終わっていない残業のタスクリストだった。


痛みもなかった。


ただ、ふっと——世界が暗くなって。


それで終わりだと思っていた。


---


なのに。


「……おぎゃっ」


声が出た。


自分の声のはずなのに、まるで別人みたいな高い声だった。


視界がぼやけている。


なんだ、これは。


手を動かそうとしたら、ぷくぷくとした小さな手がひらひらと宙を泳いだ。


(……え?)


思考が追いつかなかった。


見上げれば、高い木々のこずえが空を覆っていて、木漏れ日が揺れていた。


背中に感じるのは、ひんやりとした土の感触。


体がやたらと軽かった。重力がおかしい。


いや——違う。


体が、小さいのだ。


(俺、赤ちゃんになってる……?)


混乱した頭でも、現実はじわじわと染み込んでくる。


田中誠二は、死んだ。


そして今、どこかの森の地面に、赤ん坊として転がっていた。


---


泣き声をあげるつもりはなかった。


が、赤ん坊の体は理性とは別に動くらしい。


肺が勝手に大きく膨らんで——。


「おぎゃああああああ!!」


情けない泣き声が、森の中に響き渡った。


葉っぱが揺れて、どこかで鳥が驚いて羽ばたいた。


(うるさい、俺の体! 落ち着けよ!)


心の中でいくら叫んでも、涙がぼろぼろ流れて、手足がばたばたと動く。


どうやら赤ん坊の本能は、田中誠二の三十二年分の社会人経験をまったく尊重してくれないらしい。


理不尽だった。


生前もずっと理不尽だったが、死後もこれか、と思うと、なんとも言えない気持ちになった。


---


どれくらい泣いていたのか分からない。


ふと、足音が聞こえた。


それは人間の足音だった。葉を踏む音。枝をよける気配。


そして——。


「……なんだ、騒がしいと思ったら」


低い、けれどどこか穏やかな女の声。


視界の端に、人影が現れた。


大きな帽子。


草木の色が混じったような深緑のローブ。


腰まで伸びた銀色の髪。


それから——鋭いが、どこか温かみを持つ、薄紫の瞳。


見た目は三十代くらいの女性だろうか。しかし目に宿る光は、もっとずっと長い時間を知っている者の深さがあった。


女は腕を組んで、地面に転がる赤ん坊——つまり田中誠二を、まじまじと見下ろした。


「捨て子か」


つぶやきは静かだったが、確かに俺の耳に届いた。


「こんな森の奥に捨てるとは……。命を何だと思っているんだ、まったく」


眉根をわずかに寄せて、女はため息をついた。


そのため息には、怒りが混じっていた。


自分に向けた怒りじゃない。


俺を——ここに捨てた、誰かへの怒り。


(ああ、そうか。俺、捨てられてたのか)


転生したばかりで状況がよく分かっていなかったが、なるほど合点がいった。


誰かがこの森に赤ん坊を捨てた。


そして偶然か必然か、田中誠二の魂がその赤ん坊に入り込んだ。


なんとも数奇な話だが、今はそれよりも目の前の女性が気になった。


女は少しの間、俺のことを無言で見つめていた。


葛藤でもあるのか、唇をわずかに動かして、何かを考えているようだった。


それから——。


「……仕方ない」


しゃがんで、大きな手で俺の体をそっと抱き上げた。


温かかった。


「泣き止め。もう一人じゃない」


短い言葉だった。


飾り気のない、素直な言葉だった。


その言葉のせいかどうかは分からないけれど——俺の泣き声は、静かに止まった。


---


女の名は、エルザ・ヴァルトという。


俺が後から知ることだが、彼女はこの一帯の深い森に一人で住む《森の魔女》と呼ばれた存在だった。


年齢は——実は百二十歳以上らしい。


どう見ても見た目三十代の魔女に、百二十歳という事実を知ったのはもっと後の話だが、このときの俺にはそんなことは知る由もない。


ただ、温かい腕に抱かれて、揺れながら運ばれていく感覚の中で、田中誠二はぼんやりと思った。


(助かった、な)


死んで、捨てられて、泣いていた。


それでも——助けてくれる人がいた。


人生を振り返れば、誰かに助けてもらったことなど、ほとんどなかった気がする。


会社では一人でなんでも抱えて、残業して、倒れた。


誰かに助けを求めることが、どこか苦手だった。


だからこそ、今この瞬間の「温かさ」が、やけに胸に刺さった。


やがて木々の隙間から、小さな丸太小屋が見えてきた。


壁一面につたが絡まり、窓辺にはハーブが並んでいて、煙突からは白い煙がのぼっていた。


「せまいが、文句は言うな。一人暮らし用だ」


エルザはそう言いながら、扉を肘で押し開けた。


室内は意外なほど整っていた。


棚には色とりどりのガラス瓶が並び、中に不思議な液体や乾燥した薬草が詰まっていた。


大きなテーブルには開きっぱなしの分厚い本。天井からはハーブの束がぶら下がっている。


魔女の家だ、と直感した。


前世のファンタジー小説で読んだそのままの情景が、目の前にある。


エルザは手際よく布を取り出し、俺を包んで、かごの中に寝かせた。


「名前が必要だな」


独り言のようにつぶやきながら、鍋に何かを入れ始めた。


「捨てられていた子に、名前があるかどうか……」


ない、と思う。


俺には「田中誠二」という名前があるが、それは前世の話だ。


この体には、おそらく名前すら与えられていない。


「……レン、にしよう」


エルザは振り返りもせずに言った。


「森の木漏れこもれびの中で拾った子だから、レン」


魔女は少し恥ずかしそうに、ぼそりとつけ加えた。


「……気に入らなければ後で変えさせよう」


気に入らない、なんてことがあるはずがなかった。


レン。


田中誠二改め——レン。


悪くない名前だ、と思った。


---


それから数年が、あっという間に過ぎた。


異世界で赤ん坊として生まれ直したことで、田中誠二——レンは、前世の記憶をぼんやりとした夢のように持ちながらも、この世界の子供として成長していった。


歩けるようになったのが一歳。しゃべれるようになったのが一歳半。


エルザが驚いたのは、レンの言語習得の速さだった。


「普通の子どもはもっとゆっくりだ」


眉をひそめながらも、エルザは教えることを惜しまなかった。


文字も、計算も、薬草の知識も、この世界の歴史も——レンが「知りたい」と言えば、何でも教えてくれた。


前世で培った大人の思考力と、子供の吸収力が組み合わさって、レンの成長は明らかに早かった。


そして——魔法に触れたのは、三歳のときだった。


---


「レン、ちょっとこっちに来い」


エルザに呼ばれて、レンはぱたぱたと小屋の外に出た。


エルザは庭の真ん中に立って、片手を空に向けていた。


「魔法というのはな、世界に満ちているマナ(魔素)を自分の中に取り込み、意思の力で形を与えるものだ」


説明しながら、指先に小さな炎を灯した。


ゆらゆらと揺れるだいだい色の炎は、風もないのに消えなかった。


「触ろうとするな。まず、見るだけでいい」


「……きれい」


三歳児の語彙が出た。


エルザは口元をわずかに緩めた。


「お前が魔法を使えるかどうか、試してみたい。手を出せ」


レンが小さな手を差し出すと、エルザが軽く触れた。


その瞬間——。


「——っ」


エルザの手が止まった。


薄紫の目が、大きく見開かれる。


「……なんだ、これは」


エルザの声から普段の落ち着きが消えた。


本当に珍しいことなのか、それとも何か問題があるのか。


レンには分からなかったが、エルザはしばらくの間、無言でレンの手を握ったまま動かなかった。


「エルザ? どうかした?」


「……」


「エルザ?」


「黙れ、集中している」


ぴしゃりと言われて、レンは口を閉じた。


長い沈黙が続いた。


やがて、エルザがゆっくりと手を離した。


「レン」


「うん」


「お前のマナまなりょうを計ったことがあるか?」


「……計り方、知らない」


「そうだな。知らないか」


エルザは腕を組んで、複雑な表情をした。


「魔法使いの資質を測るとき、《魔力指数》というものを使う。並の魔法使いで五十から百。優れた者で三百。宮廷魔導師の最高峰で、五百を超えることがある」


「ふうん」


「お前は」


一呼吸おいて。


「——五千を超えている」


沈黙が落ちた。


「……五千?」


「五千二百四十六、だ。正確には」


「……それは、多いの?」


「多いどころじゃない」


エルザはため息をついた。


けれどその目は——驚きの中に、どこか楽しげな光が宿っていた。


「私が二千八百だ。百二十年かけて積み上げた量だ」


「エルザより多いの?」


「二倍以上だ」


「……そんなに?」


レンは自分の手をぼんやりと見つめた。


前世のゲームやファンタジーの知識で言えば、これはつまり——。


(チート、ってやつか)


なんとなく、そう直感した。


「使い方次第では危険な量だ」


エルザの声が少し低くなった。


「だが——丁寧に、正しく教えれば、化けられる」


それから、エルザはレンの目をまっすぐに見た。


「レン。私が教えよう。全部。私が知っている魔法の全てを」


その言葉に、レンの小さな胸が、どきりと跳ねた。


「……いいの?」


「いいも悪いも——お前のような子どもを野放しにしておくと、いつか大変なことになる。それに」


エルザは照れ隠しのように帽子のつばを引き下げた。


「……教えるのも、悪くないと思っただけだ」


---


それからレンの日々は、魔法漬けになった。


午前中は薬草の採取と調合。


午後は魔法の基礎練習。


夕方は本を読んで、知識を頭に入れる。


前世で「残業が終わらない」と嘆いていた頃と比べると、信じられないほど充実した日々だった。


疲れはするが、消耗しない。


眠れば次の日には体が軽い。


これが普通の「生きる」ということか、と、レンはこっそり思った。


---


魔法の習得は、やはり異常なほど早かった。


エルザが三ヶ月かけて覚えたという基礎の《火球ファイアボール》を、レンは三日で習得した。


「……」


エルザは無言だった。


「エルザ、どうかした?」


「いや、なんでもない」


「できてた?」


「できていた。それ以上のものが」


エルザが複雑そうな顔をしていたのを、レンはよく覚えている。


魔力が多すぎるせいか、レンが放った火球は、通常の三倍以上の大きさになって、森の大木を一本まるごと消し飛ばした。


「加減を覚えろ」


「は、はい……」


「木は私が生やし直す。次からは絶対に加減しろ」


「ごめんなさい」


「謝る前に頭を使え」


 厳しい言葉だったが、エルザの目は笑っていた。


 そういう人だった。


 口は厳しいが、手は温かい。


 怒るときも、その奥には必ず「お前を心配しているから」という気持ちがにじんでいた。


---


回復魔法ヒール》を学んだのは、五歳のときだった。


「回復魔法は、破壊系とは全く異なる」


エルザは薬草を刻みながら言った。


「相手の体に流れる生命の力を読み取り、損傷した部分を正しく修復させる。繊細さと集中力が必要だ」


「むずかしいの?」


「普通の魔法使いには、かなり難しい。ごく一部の者しか使えない」


「エルザは使える?」


「使えるが——得意ではない」


珍しく自分の弱点を認めたエルザが、少しだけ年相応に見えた気がした。


「試してみろ。まず、その怪我をした鳥に向けて」


庭に、翼を傷めた野鳥がいた。


レンは小鳥の前にしゃがんで、両手をそっと向けた。


目を閉じる。


流れを感じようとした。


前世で「感じる」なんてことはほとんどしてこなかった。データと数字だけで生きてきた。


でも——なぜか今は分かった。


小鳥の体の中に、細い光のようなものが流れている。


翼の付け根のあたりで、その光が乱れていた。


(そこだ)


そっと、指先から暖かいものを送り込むように意識した。


ほんの数秒。


「……ちゅ」


小鳥が鳴いて、翼をぱたぱたと動かした。


そのまま、空へ飛び上がっていった。


「……」


レンが振り返ると、エルザが固まっていた。


「エルザ?」


「……いつから治ったか気づいた?」


「え? 今?」


「十秒もかかっていない」


「……早い?」


「早いどころじゃない。私が同じ回復をするなら、三十秒はかかる。それでも他の魔法使いより十倍速いと言われている」


レンはきょとんとした。


「……俺、へんなの?」


「変ではない」


エルザは静かに言った。


「——特別なんだ」


その言葉は、レンの胸の奥に、静かに落ちた。


前世では「替えの利く歯車」と言われ続けた。


誰でもいい。お前でなくてもいい。


そんな言葉を、笑って受け流してきた。


でも今、この魔女は——「特別」と言ってくれた。


泣きそうになったのを、なんとか堪えた。


---


六歳になった頃、エルザに「剣を持ってみるか?」と聞かれたことがある。


「俺が?」


「魔法だけでなく、体を鍛えることも大事だ。剣は身を守る基本になる」


言われた通り、木剣を受け取って、エルザに教えられた通りに振ってみた。


盛大に転んだ。


「……向いていないな」


「うん」


 素直に認めた。


「俺、不器用だから」


「そうだな」


「前…。全然向いてないや」


うっかり前世の話が混じりかけたが、なんとかごまかした。


エルザは少し不思議そうな顔をしたが、追及はしなかった。


「まあいい。無理に剣を学ぶ必要はない。ただ——」


エルザは少し考えてから言った。


「魔法と剣術を組み合わせる技がある。《魔法剣》と呼ばれるものだ。純粋な剣術は不得手でも、魔力を刀身に流すことで戦闘力は飛躍的に上がる。試してみるか?」


「やってみる」


木剣を持ったまま、魔力を流してみた。


すると——木剣の周囲に、黄金の光が集まった。


エルザの目が、またぱちっと開く。


「……また規格外なことを」


「え、なんか変だった?」


「変ではない。普通の魔法剣は刀身の一部にだけ魔力を乗せる。お前のは——全体に、かつ均一に」


「それってすごいの?」


「剣術の腕がなくても、あの密度の魔法剣が使えるなら——戦士顔負けの攻撃力が出る」


エルザはしみじみとした顔で言った。


「剣は下手で構わない。でも魔法剣だけは、きちんと教える。いいな?」


「はい」


---


そうして年月が流れた。


レンは八歳になった。


身長はまだ低いが、黒髪に少し青みがかった瞳の、どこか落ち着いた雰囲気を持つ少年になっていた。


見た目は年相応でも、中身は元三十二歳のおじさんと、八年間の魔法英才教育が詰まっている。


日々はのんびりと穏やかで——レンはそれで十分だと思っていた。


---


その朝は、いつもと少し違う気配がした。


薬草を採りに森の奥に入ったレンは、遠くから聞こえる物音に気づいた。


馬のひづめの音。


それと——人の声。


「どこだ、道が分からなくなった!」


「落ち着いてください、王子!」


「落ち着いていられるか! こんな薄暗い森で!」


声は複数。どうやら迷い込んだらしい。


(森の中に人?)


珍しいことだった。


この森はエルザの結界で、普通の人間には迷子になるような構造になっている。わざわざ奥に踏み込もうとしない限り、入り込めないはずだ。


それでも声がする。


少し近づいてみると——木々の合間に、金色の鎧を着た騎士が数人と、白い馬に乗った少年の姿があった。


少年は——レンと同じくらいの年齢に見えた。


けれどその服装は、明らかに庶民のものじゃない。


深紅しんくのマントに、金糸で刺繍ししゅうが入った上衣。腰には小ぶりの剣。


そして——すみれ色の目と、白金プラチナの髪。


(……なんか、貴族っぽい子だな)


「王子、一旦馬を止めてください。このまま進むと、もっと深みにはまります」


騎士の一人が必死に言っている。


「分かっている! でも、なんとなく、あっちに人がいる気がするんだが——」


少年がレンのいる方向を指差した。


(え、俺のこと見える?)


咄嗟に木の陰に身を隠そうとしたが、遅かった。


「誰だ!」


少年の声が飛んできた。


レンはため息をついて、木の陰から顔を出した。


「……やあ」


「君は! 一人でいるのか?」


少年は馬を降りて、ずんずんと近寄ってきた。


後ろで騎士たちが「王子、危険です!」とざわついているが、少年は気にする様子がない。


「この森に一人でいるなんて、迷子になってしまったのか? 大丈夫か?」


心配そうな顔で言う。


レンは少し驚いた。


てっきり「下々の者め」みたいな態度をとられると思っていたのに。


「迷子じゃないよ」


「え?」


「俺はここに住んでる」


「ここに? この森に?」


「うん。あっちに小屋がある」


親指で背後の方向を示すと、少年はぱあっと顔を輝かせた。


「本当か!? 道を知っているか!? 僕たちは完全に迷子なんだ!」


「知ってる」


「助かった! 本当に助かった!!」


少年が両手を握ってきた。


無邪気で、まっすぐな子だ、と思った。


「名前は? 僕はアルフレート・ヴァン・クローネ。みんなはアルと呼ぶ」


笑顔で言ったその名前を、レンはしばらく処理した。


(クローネ……クローネって、この国の王家の名前じゃ……?)


エルザから聞かされていた。


この大陸を統べる《クローネ王国おうこく》。


その王家の姓が——ヴァン・クローネ。


つまりこの少年は。


「俺はレン」


「レン! 良い名前だな! レン、僕たちを森の外まで案内してくれないか?」


「……いいよ」


まあ、困っている人を放っておけるほど、田中誠二は薄情ではない。


それに——。


(この子、なんか、放っておけない雰囲気があるな)


少年——アルフレートは、身分の高さを全く鼻にかけることなく、レンの隣をぴったりくっついて歩いた。


「レンは魔法が使えるのか?」


「少し」


「少しって? この森って魔法使いの森だって聞いたけど、関係あるか?」


「まあ……師匠が魔女だから」


「魔女!? 本物の魔女がいるのか!? すごい!」


目を輝かせている。


こういう反応ができる子なんだ、と、レンは少し嬉しくなった。


「剣は使えるか?」


「使えない」


「そうか。僕も剣はまだ見習いで下手くそだ」


「……殿下でも?」


うっかり「殿下」と言ってしまった。


アルフレートは一瞬、目を丸くした。


「気づいてたのか?」


「名前から分かった」


「すごいな! 普通はあまり気づかないのに」


怒る様子は全くなかった。


「気にしなくていい。森の中では肩書は関係ないだろう?」


さらっと言う。


この子は——好きになれそうだ、とレンは思った。


---


レンはアルフレートたちを外の道まで送り届けた。


騎士たちは礼を言って、道を確認して出発の準備を始めた。


その間、アルフレートはレンの前に立って、まっすぐに目を見た。


「レン」


「うん」


「いつか——もし、森の外に出たくなったら、王都おうとに来い」


「……王都に?」


「僕が案内する。お前みたいな子と友達になりたい」


 真剣な顔で言う。


子どもらしい真剣さだが——不思議と、軽い言葉には聞こえなかった。


「考えておく」


レンがそう言うと、アルフレートはにっこり笑った。


「約束だ。絶対来い」


「約束はしてない」


「考えておくっていうのは約束みたいなものだ」


「そうかな」


「そうだ」


押しの強い子だ、とレンは思いながら、騎士たちに連れられて森を去っていくアルフレートの背中を見送った。


---


小屋に戻ると、エルザが腕を組んで立っていた。


「何かあったか」


鋭い、と思う。


いつもそうだ。エルザは言葉が少ないが、見えているものは多い。


「迷子がいた。案内した」


「そうか」


「うん」


「……どんな子だった?」


少し間があった。


「まっすぐな子」


「そうか」


エルザは何も言わなかったが、その表情に、かすかに何かが揺れた気がした。


---


その夜、星明かりの下で。


レンはぼんやりと空を見上げながら、アルフレートの言葉を思い出していた。


「王都に来い」


来る気はなかった。


ここが好きだ。


エルザと、静かな森と、毎日の魔法の練習。


それで十分だと思っていた。


でも——。


(少しだけ、気になる)


外の世界。


あの少年がいる場所。


前世でずっと会社と家の往復だけで終わった田中誠二は、こっそりと、ほんの少しだけ——そんなことを思った。


---


まだ知らない。


その出会いが、やがてレンの穏やかな日々を、大きく動かすことになるとは。


森の魔女に育てられた規格外の少年が、世界に向かって、一歩を踏み出す日が——もう、すぐそこまで来ていることを。


---


<第1話>


次回予告:第2話「魔力指数五千超え、それって反則じゃないですか?」**

王都からの手紙が届いた。

アルフレートの名前で書かれたそれは、レンを王立学院おうりつがくいんに招待する内容だった——しかしエルザの反応が、予想と全く違っていて…


---

第1話を読んでいただきありがとうございました。

今回は

転生

森の魔女との出会い

規格外の魔力量発覚

王子との運命的な出会い

までを書かせていただきました。


正直なところ、レン本人はまだ自分がどれだけおかしい存在なのか分かっていません。

本人の感覚は、

「ちょっと魔法が得意なだけ」

くらいです。


しかし周囲から見ると、

魔力量五千超え

回復魔法を一瞬で習得

魔法剣も規格外

という、わりと大変な少年です。


そしてラストで登場したアルフレート王子。

明るくて距離感が近い彼ですが、王家の人間である以上、当然いろいろな事情も抱えています。

次回は王都から届く一通の手紙から物語が動き始めます。

レンは森で平和に暮らしたい。

でも世界は放っておいてくれない。

そんな感じのお話になる予定です。


もし面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。



それではまた次回のお話で合いましょう

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