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裏アカで同僚のアイドルの推し活していたことがばれました  作者: 木山楽斗


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第10話 これからもアイドルとして頑張ります

 衝撃的な発表があったライブの後、私達Pentasのメンバーは控室に集まっていた。

 そこには、マネージャーの木下さんがいる。というか、私達が呼んだ。

 今日は社長も会場に来ていたため、この場に同席してもらっている。多分元凶だろうから、色々と話を聞いておきたい所だ。


「それで、社長はどうしてあんな企画を企てたんですかね? あたしとしては、詳しく聞いておきたい所ですけど」

「……別に企画は企画でしかない。それがファンに受けると思ったから、企画しただけに過ぎない。他に意味などなかろう」

「まあ、カップリング投票については、いいですよ? でも、あんなサプライズにする必要ありましたかね? あれからあたし、全部アドリブで乗り切らなきゃ駄目だったんですけど?」

「……」


 社長をまず詰めたのは、琥珀さんだった。

 彼女は今回の件で、最も被害を受けている。サプライズ発表となったことで、ほぼアドリブで場を回さなければならなかったのだから。

 それは文句の一つも、言いたくなるものだろう。社長も言い返す言葉がないのか、黙っているし。


「社長、カップリング投票についても、色々と聞いておきたい所です。大方、紬のことがあったから企画したということでしょうが……」

「ああ、正しくその通りだ。今Pentasでは、所謂カップリングが流行っている。具体的に言えば、佐藤と玲奈のカップリングだ」

「そうなんですか……確かに話題になっていたとは思いますが、そんなことになっているとは」


 玲奈の質問に対する社長の答えは、私にとっても驚くべきものだった。

 私もそういった文化があるということは知っていたし、つむれいという単語も見たことはある。しかしそれが、そこまで流行っているとは思っていなかった。


「ファン達も、本人の目に留まっていいかどうか、まだ判断に困っているのだろう。少なくとも玲奈が見られるような部分には、そういったことは書かれていなかったのかもしれないな」

「そうでしたか……」

「佐藤はどうだ? 君はネットに精通しているように思えるが?」

「いえ、エゴサーチ的なことは、最初にばれた時からしていません。そもそもやったこともありませんでしたし、あの一件があってから怖くて、そこまで積極的にPentasに関する情報は調べていませんでした……」


 裏アカウントがばれてからというもの、私は自分のことを調べるのが怖くなっていた。

 一応、やんわりと情報は調べているけれど、コアな部分までは目に入れていない。エゴサーチなんて、以ての外だ。そんなのは怖すぎるし。


「あの、社長。つまりこれは、紬ちゃんと玲奈ちゃんのための企画、ということなんですか?」

「卯月、それはどういう意味だ?」

「え? あ、それはその……」

「この際だ。はっきり言ってもらっても構わない」

「出来レース、的なことなのかなと思いまして……」


 そこで陽依さんから、意外な言葉が飛び出してきた。

 出来レース、それはつまり、最初から結果が決まっているレースだ。陽依さんは、今回の件がそれに当てはまるのではないか、と危惧しているらしい。

 そういえば、琥珀さんもそんなことを言っていたっけ。でもあれは割と冗談めいていたけれど、陽依さんは見た所本気のようにも思える。


「卯月は出来レースが嫌いかね?」

「好きな人は、そんなにいないと思いますけど……でも、別にそういう判断をするのは仕方ないとも思っています。この世界では、ままならない事情というのもあるでしょうから」

「そうか……しかし、今回は違うぞ? 私としては、Pentasカップリング投票はそのものを一つの大きなコンテンツとしていきたいと思っている」


 陽依さんから、出来レースという言葉が出ること、それがそもそも驚きであった。

 でも、子役として――引いては女優としても活動していた陽依さんは、色々と経験しているのかもしれない。今の考えは、そこから出たものであるような気がする。

 しかし、Pentasカップリング投票は、別に八百長などが含まれるものではないらしい。その情報は、陽依さんにとって安心できるものだったのだろうか。


「社長、もう少し詳しく聞かせていただけませんか? つまりこのカップリング投票が、Pentasにとってどのような位置づけなのか、教えてください」

「水瀬、鋭い君のことだ。もう気付いているだろう。私はこれをPentasにとっての特色としたい」

「特色、ですか……」

「ああ、アイドルというものには、それぞれ色があるものだ。武器と言ってもいい。それがあるのとないのでは、大きく違う」

「それは、確かにそうですね。でも、この投票が、ですか……」


 冴ちゃんも、斜塔に質問を投げかけていた。

 ただその返答に、彼女はあまり納得しているようには見えない。まあ、私の裏アカウント発覚から始まったこれが特色なんて、普通は受け入れがたいだろうか。


「水瀬は、不満かね? まあ、そういうこともあるだろう。しかしチャンスというものは、簡単に巡ってくるものではないぞ? 佐藤の一件によって賑わっている今、行動を開始しなければ、Pentasが埋もれる可能性すらあるといえる」

「……はい、わかっています。ただ、自信がないというだけですから。カップリングというものに関して。どう立ち回るべきか、考えてみます」

「そうか……まあ、いざとなったら私も相談に乗ろう。多少の知恵は授けられるはずだ」


 冴ちゃんは、単純にカップリング投票に自分が順応できるかを心配しているらしい。真面目な彼女らしい悩みであるといえる。

 しかしそもそも、この企画に順応できる人などいるのだろうか。私だってどう立ち回ればいいかなんて、まったくわからないし。


「はあ、社長は商魂逞しいですね。なんというか、パパと仲が良い理由がわかってきたかも」

「……琥珀、それはどういう意味かね?」

「まあ、これでPentasが今よりもっと成功するなら、良いって感じですけどね? 勝算とかあるものなんですか?」

「それに関しては、木下に聞いてみるといい。既に成果は出ているといえる」


 琥珀さんの質問に対する社長の返答に、私達Pentasのメンバーは木下さんの方を見た。

 木下さんは先程から、パソコンの画面を眺めている。ライブが終わった後であるため、色々と忙しいはずだが、今は大丈夫なのだろうか。


「……はあ、まあ、一応成果かかはわかりませんが、Pentasカップリング投票のページのアクセス数は増えています」

「明理さん、それは今までのPentasでは考えられないことなのでしょうか?」

「そうね……まあ、SNSとかでも結構話題にはなっているみたい」


 木下さんは、玲奈の質問に答えながら、頭を抱えていた。

 彼女の表情からは、疲労が読み取れる。恐らく彼女は、カップリング投票のことも聞いていたのだろうし、それ関連で色々と忙しくしていたのかもしれない。


「えっと、Pentasカップリング投票……わあ、確かにすごい話題になってるわー」

「琥珀ちゃん、そうなの?」

「うん……あ、紬ちゃんの裏アカウントのことも、また掘り起こされてるみたい」

「ああ、まあ、そうなりますよね……」

「それから……うん? これってさ、今日のライブの映像じゃん? 公式で新曲の――」

「琥珀、それはまさか……」


 木下さんの言葉を受けて、琥珀さんは手早くエゴサーチしたようだ。

 そこで仕入れた情報を喋っている最中、彼女は言葉を止めた。それが何故なのかは、すぐにわかった。新曲の映像の話でそうなる部分など、決まっている。


「……社長、もう上げたんですか? 例のやつを」

「……カップリング投票には、もってこいの映像だろう?」

「うっ……」

「あ、もう、社長のせいで、玲奈がダメージを受けているじゃないですか」


 どうやら玲奈が新曲の最後に私にしたキスが、Pentasの公式から発信されているらしい。

 今日のライブの映像を、一部とはいえネットに上げるなんて、いくらでも行動が迅速過ぎる。いや確かに、カップリング投票の話が出た後だと、あれは色々と話題になりそうだが。いや、なくても話題にはなっていたのかもしれないけれど。


 玲奈は、頬を赤らめて、こちらの様子を伺っている。それに私はとりあえず、笑顔を返しておく。それは苦笑いかもしれないけれど。

 とはいえ、玲奈のあの行いは咎めるようなことではないと思っている。ライブを盛り上げるためにやったことだろうし。

 いや、そもそも玲奈にキスをされることが、嫌な訳もない。むしろ私の頬などが玲奈の唇を汚したことの方が、問題のような気がする。


「今回のライブは配信もしている。その映像とカップリング投票の話があれば、興味を抱く者もいるかもしれない」

「社長は本当に、商魂が逞しいんですね……」

「私は当然の仕事をしているまでのことだ。木下、所でカップリング投票は現状どうなっている?」

「ランキングの話ですか?」

「ああ、今の状況は知らせておいても良いだろう」


 社長はそこで再度、木下さんに話しかけた。

 カップリング投票の状況、運営であるこちら側からはそれは当然わかるということか。

 それは確かに、知っておきたいような気もする。今後の指標になるのかもしれないし。


 しかしそれにしても、社長はなんとも淡々としている。玲奈があんなに顔を真っ赤にしているというのに、気にならないものなのだろうか。

 というか私も、赤くなってしまっているかもしれない。とりあえず今は、キスのことは置いておこう。私達は、これからのことを考えないといけない訳だし。


「現在の所、投票は玲奈と佐藤さんの組み合わせが一位ですね。大まかに一万票程入っています」

「まあ、それは当然だよねー。だって、そもそもあの一件からこの企画が始まった以上、そうなるのは必然って感じだわー」

「二位は、玲奈と琥珀の組み合わせね? 五千票程入っているわ」

「ああ、私と玲奈になるんだ。まあ、いとこだとは知られているし、そういうものかな?」


 一位が私と玲奈であることは、流石の私も予想していた。最近何かと話題になっていたし、ライブの映像まで流されたら、それはそうなるだろう。

 二位が琥珀さんと玲奈であることも、わからない訳ではない。私だって、Pentasに参加していなかったら、その組み合わせに投票していただろうし。


「三位は、玲奈と卯月さんね」

「あ、私と玲奈ちゃんの組み合わせが三位なんですね? それはどういうことなんでしょう?」

「四位は、佐藤さんと水瀬さんだから、多分同い年という点が考慮されているんだと思う」

「私と紬の組み合わせ、ですか……」


 三位と四位は、単純に年齢によって入れられたものであるようだ。それも理解できない訳ではない。今の所、それ以上の要素もないだろうし。

 しかし、流石は玲奈である。こういった所でも、その存在感を発揮している。一位から三位まで、入っている訳だし。


「……佐藤、今回の企画だが、中心となるのは恐らく君だろう」

「……うぇ?」


 玲奈のことを考えていた私は、社長に言葉をかけられて、少し驚くことになった。

 私がこの企画の中心? 社長は何を言っているのだろうか。既に玲奈が一位から三位まで入っているというのに。どう考えても、中心は彼女の方だろう。


「社長、木下さんの言葉を聞いていなかったんですか? 私よりも玲奈の方が、余程中心だと思うんですけど……」

「一位である者の言葉とは思えない言葉だな、佐藤。それに君は、今回の企画を引き起こした要因ともいえるというのに」

「そ、そう言われると弱いですけどね……」


 社長の言葉は、少し嫌味のように聞こえた。

 確かにこれは、私の失態で始まったことである。それに関しては、返す言葉もない。

 でも、社長は散々それを利用しようとしているので、私としてはいまいち釈然としない部分もある。


「いや、何も君を責めようとしている訳ではない。ただ要因となった君が、今回の企画で目立たないと思うのは間違っていると言いたかっただけだ」

「それは……どういう意味ですか?」

「君にはそうやって世間を賑わせる才能があるということだ。カップリングを成立させる才能、とでも言うべきだろうか。私は君に、それを見出している」

「……」


 社長は私の目を、真っ直ぐに見てきた。つまり真剣に、私にそんな才能を見出しているということなのだろうか。それは誉め言葉のようにも、思えなくはない。

 ただなんというか、あまり嬉しいという訳でもなかった。その才能って、本当にいいものなのかな? そうでもないような、気がするのだが。


「佐藤、どうかしたのか?」

「いえ、喜んでいいものか、微妙な気がしていまして……」

「話題を作れる才能……人に迷惑をかけずに、話題を作れる才能というべきか。それを持っていることは、誇っていいことだとは思うぞ? 我々の世界ではな」

「なんか、いまいちですね……」


 褒めてくれているとは思うのだが、社長はなんとも歯切れが悪かった。少なくとも手放しで褒められる訳ではないことは、それでわかった。

 ともあれ、私はアイドルとして成り上がっていくと決意した訳だ。それならその才能というものは、良いものなのかもしれない。話題を作って目立てば、ファンが増える可能性はある。

 いやでも、このような話題ばかり作ったら、逆にファンを減らすのでは? 私に才能があるかどうかはともかく、それを発揮するべきかどうかは、考えなければならない気がする。


「ともあれ、今回のカップリング投票はPentasとしての一大企画だ。過程も含めて、諸君には盛り上げてもらいたい」

「過程も含めてか……まあ、露骨過ぎるかもしれないけれど、プライベートで遊びに行くみたいなことは、効果がありそうですねー」

「ふむ、まあ、それも良いだろう。無論、それらを活動としても構わない。Pentasのメンバー同士で何かしたいことがあるならば、言うといい。大抵のことは、木下がなんとかしてくれるだろう。む? なんだか視線が痛いものだな……」


 社長の丸投げにも等しい一言に、木下さんはその目を細めていた。その視線は、流石の社長も恐ろしいようだ。

 しかし実際の所、どこかに出掛けるなどは活動としてファンに届けておいた方が、良いのかもしれない。現状、カップリング投票が変動する要素などはない訳だし。

 だが、露骨過ぎるとそれはそれで良くない気がする。なんというか、案外難しいものかもしれない。


「……とりあえず、私達としては、これまで通り仲良くしていく、ということでいいんじゃないかな?」

「玲奈……」


 私が考えていると、玲奈がそう言ってきた。先程まではキスの件で落ち込んでいたようだが、持ち直したようだ。

 そんな彼女の言葉は、私の心の中を見透かしたようなものだった。これまで通り仲良く、それは確かに大切なことなのかもしれない。変に意識して、せっかく友達になれた皆との関係を壊したくはないし。


「まあ、結局はそうだよね。あたしらは普通にした方が、ファンの皆も喜んでくれそうだし」

「うん、そうだね。でもせっかくなら、これを機会にもっと仲良くなれるといいかも」

「もっと仲良く、ですか……そ、そうですね。私もできるなら、そうなりたいと思います」


 玲奈の意見を受けて、琥珀さんと陽依さんも、それから冴ちゃんが言葉を発した。

 流石は玲奈だ。色々と混乱していた私達を、まとめてくれた。やはりPentasの中心にいるのは、彼女だといえる。


「うん、だから紬、これからもよろしく頼むよ?」

「え? あ、うん。それはもちろん……」


 そこで玲奈は、私の隣に並んできた。手と手が触れるか触れないか、そんな距離まで詰められて、私としては少しだけ緊張してしまう。

 ただ私は、なんとなくわかった。玲奈は多分、不安を抱いているのだ。彼女はPentasのことを、とても大切に思っているから。今回の件で仲がこじれてしまうのではないかとか、そんなことを考えてしまうのかもしれない。


 ただ、玲奈がそうやって不安を抱いたから、私の方は冷静になれていた。

 そんなことは、Pentasにおいてはあり得ないことだ。今まで皆と話してきた経験から、私はそう思えた。それを私は、玲奈に伝えておくべきだろう。


「……大丈夫だよ、玲奈」

「紬? あっ……」

「Pentasの絆は、そんなに脆いものじゃない。そうでしょ?」


 私は、そっと玲奈の手を握った。それから言葉もかけることにした。今の彼女を安心させるためには、そうするべきだと思ったから。

 それから私は、玲奈に対して笑ってみせた。すると彼女も、笑顔を浮かべてくれた。玲奈様じゃない、ただの少女としての笑顔を。


「そっか……そうだね、そうだとも」

「うん……そうだよ、玲奈」

「……ありがとう、紬」


 この笑顔を守りたい。その気持ちは、最初にむぎりんだとばれた時から、変わってはいなかった。結局の所、私は玲奈の笑顔の虜になってしまった、ということなのかもしれない。

 ただそれは、仕方ないことだろう。だって玲奈の笑顔は、本当に本当に、素敵な笑顔なのだから。

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