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空回りしかしていない俺の片想いが、実はヒロインに全部刺さっていた件

作者: 優 作太朗
掲載日:2026/03/28

リョウヘイはこれまでの人生で37回、物事をかっこよく決めようとしてきた。

そして37回すべて、見事に失敗している。

そのうち36回は、同じクラスのミズキの前だ。



リョウヘイは恋をしている。

中学2年生。男子。身長は平均より少し低め。

運動神経は普通。成績は「やればできる」と言われ続けて2年目。

そして恋愛偏差値は測定不能レベルで赤点である。


そんな彼が今、人生最大の難関に挑んでいた。

――ミズキを振り向かせる。


ミズキといえば……さらりと揺れる黒髪のポニーテール。笑うと目尻が少し下がる。

運動もできてノートもきれい。誰にでも優しい。つまり、無敵。



最初のチャンスはミズキが落とした消しゴムだった。

「あ、落とした」

リョウヘイが拾って差し出そうとして、手汗で滑らせ、前の席の男子の後頭部に直撃した。

それにより教室が爆笑の渦に包まれた。

そしてリョウヘイはチャンスを逃した。



次のチャンスは体育でのバスケットボールだった。

運動神経は普通のリョウヘイであったが、ドリブルには自信があった。


リョウヘイにボールのパスが回ってきた。

――ここで、ミズキを振り向かせる!


リョウヘイは華麗なドリブルで妨害を交わしながらリングに向かう。

しかし、張り切り過ぎたのか渾身のシュートがリングに触れず、自分は壁へ直行。

同級生たちからはナイスネタと称えられる。

ミズキを見るとクスクスと笑っている。


――こんなはずでは……終わった。いや、まだ終わらない。終わってなるものか……



そして文化祭。お化け屋敷の幽霊役に立候補し、本気でやりすぎた結果、小学生を泣かせて保護者に謝ることになった。

「やりすぎだろ!」

「本気出しただけなんだけど!?」


ミズキは「……すごかったね」と真顔だった。評価は不明である。


リョウヘイの空回りはもはや才能である。




そんなある日。

ホームルームにて担任の先生が言う。

「席替えするぞー」


リョウヘイの心がざわつく。

(ミズキの隣、隣、隣……!)

祈りながらくじを引き、黒板を見る。


――隣。ミズキの名前がそこにあった。奇跡。神様ありがとう。


「よろしくね、リョウヘイくん」

――距離が近い。声が近い。いい匂いがする。心臓がうるさい。



そして、その瞬間に事件は起きた。

ミズキが席に座ろうと椅子に手をかける。

――今だ!

 リョウヘイの脳内で何かが弾けた。

――ここはさりげなく椅子を引いてエスコート……!映画みたいに自然に……!

彼は反射的に椅子を引いた。

タイミングを完全に読み違えて。

「あ」

ミズキは普通に座ろうとしていたが、そこに椅子はもうなかった。


ゴン。


見事な尻もち。

その音と共に教室が静まり返る。

次の瞬間、ざわめきが同時に押し寄せる。

同級生たちからの詰問の嵐。

「お前なにやってんの!?」

「違う! エスコートのつもりで!」

「エスコートで椅子引くな!」


リョウヘイはミズキに対して即土下座した。


「ごめん!」


ミズキは一瞬きょとんとして、それから吹き出した。

「なにそれ……」

怒るでもなく、笑っている。


リョウヘイの恋愛偏差値は今日も安定の赤点更新であったが、その笑顔が唯一の救いだった。



隣の席という距離は、思った以上に近かった。

ノートを見せ合い、消しゴムを貸し借りし、たまに肩が触れて勝手に爆発する心臓。

空回りは続くが、隣という事実だけでリョウヘイは十分幸せだった。



そして、ある日の放課後。

リョウヘイが日直の仕事で黒板を消していると、いつの間にか教室はミズキと二人きりになっていた。

夕陽が差し込む。

窓の外では運動部の声が遠くに響いているのに、ここだけが別の世界みたいに静かだった。


「……リョウヘイくんってさ」


突然、名前を呼ばれる。

それだけで、心臓が跳ねる。


「え、なに?」

今度は裏返らなかった。少しだけ成長だ。

ミズキは机に指先で触れながら、少し視線を落としていた。


「なんで、そんなに頑張るの?」

「……え?」

「消しゴムのときも、体育も、文化祭も……この前の椅子も」


――胸がぎゅっとなる。やっぱり全部覚えられている。黒歴史の総集編だ。


「別に……その、なんとなく」

情けない返事だった。


ミズキは小さく首を振る。

「なんとなく、じゃないでしょ」


夕陽が横顔を赤く染める。


「ちゃんと見てたよ」


その一言で、空気が変わった。

「失敗しても、次の日ちゃんとしてるし。笑われても、拗ねないし。シュート外しても最後まで走ってたし」


少し間を置いて、続ける。

「泣かせちゃった子のところに、真っ先に謝りに行ってた」

リョウヘイは息を呑む。

そんなところまで、見ていたなんて。


「椅子のときもね」

くすっと笑う。


「タイミング最悪だったけど」

「ごめん……」

「でも、わかってたよ」

視線が、まっすぐに重なる。


「私のために、やろうとしたんでしょ?」

リョウヘイは喉がうまく動かない。

言葉の代わりに、小さくうなずく。

沈黙。

教室の時計の秒針が、やけに大きく聞こえる。

ミズキは深く息を吸った。

そして、覚悟を決めたみたいに顔を上げる。


「ねえ、リョウヘイくん」

「……うん」

「かっこ悪いよ」

 一瞬、心臓が止まる。


でも次の言葉は、やわらかかった。

「でもね」

夕焼け色の瞳。

時間がゆっくりになる。


「私、リョウヘイくんのこと好き」

風の音も、外の声も、全部遠ざかる。

聞き間違いかと思った。


「……え?」

リョウヘイの声が、情けないくらい小さくなる。

ミズキは一瞬だけ視線を逸らして、

それから、もう一度こちらを見る。

「好き」

今度は、はっきり。

「ずっと、好きだった」


リョウヘイの頭の中が真っ白になる。

告白する側の台詞を何度も練習していたはずなのに、

まさか告白される側になるなんて、想像もしていなかったからだ。


「俺……」

言葉が出ない。

でも、逃げたくなかった。


――今度は、ちゃんと決めたい。失敗しないで。


「俺も」

 声が震える。


「俺も、ミズキのこと好き」



――言えた。ちゃんと、言えた。


ミズキは安心したみたいに笑った。

「やっと聞けた」

「え?」

「ずっと待ってたから」

リョウヘイは胸が熱くなった。



全部空回りだったと思っていた。

でも違った。

届いていなかったんじゃない。

届きすぎていたのだ。



「これからもさ」

ミズキが少しだけ距離を縮める。


「空回りしてくれる?」

「え」

「私のために」


ほんの一瞬の沈黙。リョウヘイは笑った。


「任せろ。俺は空回りのプロだから」


今度は強がりじゃない。

ミズキも笑う。

その笑顔が、夕陽よりまぶしかった。


隣の席から始まった距離は、いつの間にかこんなにも近くなっていた。



失敗ばかりだった日々。

でもそれは全部、ちゃんと刺さっていた。

空回りヒーローは今日から正式に彼氏になる。


たぶんこれからも失敗する。

でも、もう大丈夫だ。

隣には、ちゃんと見てくれる人がいる。

甘くて、かっこ悪い、中学2年の恋が始まった。



≪おわり≫

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