ショコラとピストル
バレンタインが近づいてきて、きっと世間は浮ついている。そんな気がする。まぁ、家から出るのは外が暗くなってからだから、多分だけど。
歩いて数分のスーパーに入ると大量の板チョコが山積みになっていて、もうそんな時期なのかと思う。私にはあまり縁のないイベントだな。小さい頃は、手作りとかしたっけ。
隣の荷物持ちでついてきた同居人は、山積みになったそれを見て、止まる。私が離れていく。
「なに、チョコ欲しいの?買ってあげようか」
「え?くれるの?あたしに?」
猫にみたいな目を開いて驚く彼女が面白くてつい調子にのる。私も浮かれている一人だったみたい。でも、悪い気分じゃないな。
「しょうがないなぁ。なにがいい?つくってあげる」
「いいの?じゃあ、ガトーショコラ」
「うん、多分作れる。なら、買うもの増えたね。そっちは任せるよ」
「はいはい」
普段から怠惰というより退廃的な生活をしているので、たまにはこういうのもいいかも。言ったそばからちょっと面倒だけど、彼女にはいろいろとお世話になっているし、そのお礼かな。一応、忘れてはいないけど私は居候みたいな立場だし。
いつもよりほんの少し崩れかかった顔の彼女を覗き込むと、照れたのか口元を隠す。可愛かったのに、残念。
「……なに?」
「さぁ、なんでしょう」
彼女が今度は私をおいて歩き出す。
「ほら、買うもん増やしちゃったし、はやく行こう」
「まって、もう。……あ。ねぇ、ケーキ買ってよ」
彼女は呆れたように笑う。
「なんでだよ」
「やる気の補充だよ」
ため息をして、あなたは優しい目で私をみる。
「あ、起きた」
「……。なんだ君か」
懐かしい夢だったな。彼女は、元気だろうか。いや、私と離れたなら上手くやっているだろう。そもそも生活能力が高い人だった。私がダメにさせていたようなものだ。
私の部屋に居候させている君は、私といても平気らしい。幼馴染だからかな。耐性がある。
「ずいぶんとしっかりした昼寝だったね」
「今何時?」
「僕が買い物に行く時間、だね」
もう、そんな時間なのか。かなり寝ちゃっていたみたいだ。懐かしい夢もみるわけだ。
そういえば、結局私は彼女にケーキを焼いたのだろうか。
「浅田。なにか、欲しいものある?」
「ケーキ」
「もう、店閉まってるよ。コンビニとかでいい?」
確か、あの日買ったのは。
「うん。ショートケーキがいいな」
「へいへい」
君は私をおいて部屋から出ていく。鍵の締まる音がして、私はひとりになる。
君は小さい時に、私の手作りを食べていたな。夢のせいかもっと懐かしいことを思い出す。いつの間にか、私が貰う方になっていたことも。そして、しれっと何もしなくなってしまったことも。思い出す。スマホを開いて、初めて今日がその日だったと気がつく。
あぁ、もうそんなに経ったのか。




