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夜明けに捧ぐ華<妖怪寺鎮魂譜>  作者: 狐月華
0 『白百合の御使い』
1/6

白き朝の落とし子

後に妖怪寺と呼ばれるようになるその寺は、冬になれば雪が舞うことはあっても、地に積もるほど降り続くことは滅多になかった。

だが、その朝は珍しく境内一面が白に染まり、静寂がしんしんと降り積もっていた。


まだ薄暗い境内を掃いていた住職は、ふと、石段の近くに小さな影があることに気づいた。

胸騒ぎを覚えながら近寄ると、それは白い布に包まれた赤子だった。


赤子は泣き声ひとつあげず、ただ雪の朝の静けさに溶け込むように眠っていた。

その布をそっとめくった住職は、息をのむ。


髪は、雪よりなお淡く光を返す銀色。

閉じられたまぶたの奥には、何か熱を秘めた気配があり、肌は降り積もる雪よりも白くつややかで、よく目を凝らせば――

その全身を、滑らかな鱗が薄く覆っていた。


この寺は代々「白蛇の神」を祀り、神秘と畏れを抱かれ続けてきた場所である。

住職は、胸の奥にふっと落ちる何かを感じた。


(――これは、神の御使いに違いない)


そう確信した住職は、赤子を抱き上げ、雪の朝の冷たさから守るようにそっと胸に抱きしめた。


だが、この姿のままでは人の世で生きることは難しい。


そこで住職は、赤子が“普通の人間”として生活できるよう、幾重にも渡る封印を施した。

外見も力も、すべてを人の姿に留めるための封じである。


三日三晩、住職は眠らずに封印を続け、でき得る限りの封を赤子に施した。


すると、赤子の銀髪は流れるような黒髪に、全身を覆っていた鱗は、肌の色はそのままに、すべすべとした人の肌へと変わっていた。

だが、そのとき――

赤子が、かすかな泣き声をあげた。

閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれる。

その奥に現れたのは、焔を封じ込めたような、深い朱。

住職の全身全霊を注いだ封印でさえ、その瞳だけは完全には覆い隠すことができず、泣き声とともに、封じきれぬものがかすかに灯っていた。


それを見て、住職は悟った。

この子は、自らが背負うものから、決して目を背けてはならないのだと。


(お前は神の血を引く存在だ。そのことを、生涯忘れぬように)


その想いを胸に、住職は赤子に名を与えた。


真雪――

真に、雪のように白く生まれ落ちた子。

そして、真なる姿を決して見失うことのないように――


その名を口にしたとき、赤子は細い指をわずかに動かし、まるで応えるように雪の朝に静かに息を吐いた。


こうして、白蛇の神を祀る寺に拾われた赤子は、寺とともに不思議な運命を歩むこととなるのであった。

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