白き朝の落とし子
後に妖怪寺と呼ばれるようになるその寺は、冬になれば雪が舞うことはあっても、地に積もるほど降り続くことは滅多になかった。
だが、その朝は珍しく境内一面が白に染まり、静寂がしんしんと降り積もっていた。
まだ薄暗い境内を掃いていた住職は、ふと、石段の近くに小さな影があることに気づいた。
胸騒ぎを覚えながら近寄ると、それは白い布に包まれた赤子だった。
赤子は泣き声ひとつあげず、ただ雪の朝の静けさに溶け込むように眠っていた。
その布をそっとめくった住職は、息をのむ。
髪は、雪よりなお淡く光を返す銀色。
閉じられたまぶたの奥には、何か熱を秘めた気配があり、肌は降り積もる雪よりも白くつややかで、よく目を凝らせば――
その全身を、滑らかな鱗が薄く覆っていた。
この寺は代々「白蛇の神」を祀り、神秘と畏れを抱かれ続けてきた場所である。
住職は、胸の奥にふっと落ちる何かを感じた。
(――これは、神の御使いに違いない)
そう確信した住職は、赤子を抱き上げ、雪の朝の冷たさから守るようにそっと胸に抱きしめた。
だが、この姿のままでは人の世で生きることは難しい。
そこで住職は、赤子が“普通の人間”として生活できるよう、幾重にも渡る封印を施した。
外見も力も、すべてを人の姿に留めるための封じである。
三日三晩、住職は眠らずに封印を続け、でき得る限りの封を赤子に施した。
すると、赤子の銀髪は流れるような黒髪に、全身を覆っていた鱗は、肌の色はそのままに、すべすべとした人の肌へと変わっていた。
だが、そのとき――
赤子が、かすかな泣き声をあげた。
閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれる。
その奥に現れたのは、焔を封じ込めたような、深い朱。
住職の全身全霊を注いだ封印でさえ、その瞳だけは完全には覆い隠すことができず、泣き声とともに、封じきれぬものがかすかに灯っていた。
それを見て、住職は悟った。
この子は、自らが背負うものから、決して目を背けてはならないのだと。
(お前は神の血を引く存在だ。そのことを、生涯忘れぬように)
その想いを胸に、住職は赤子に名を与えた。
真雪――
真に、雪のように白く生まれ落ちた子。
そして、真なる姿を決して見失うことのないように――
その名を口にしたとき、赤子は細い指をわずかに動かし、まるで応えるように雪の朝に静かに息を吐いた。
こうして、白蛇の神を祀る寺に拾われた赤子は、寺とともに不思議な運命を歩むこととなるのであった。




