ヒップホップな伯爵令嬢の舞踏会(好事百景【川淵】出張版 第二十一i景【ダンス】)
ヒップホップ、くわしくないです(笑)
「ヘイ、ブラザー!
なんであたしは、踊っちゃいけないんだYO?」
ヒップホップかぶれの伯爵令嬢が、今夜の舞踏会の主催者に詰め寄る。
彼女の踊りはじつに見事だと評判ではあったが。こうした場でドレスに身を包みながら、床をころがるようにブレイクダンスをしてみせるところへ、若い男性たちの助平な視線が集まるのはあまり好ましくない。
しかも、身分のある彼女のことである。床に顔をすりつけたり、それを誰が蹴飛ばすようなことがあれば、問題にもなろう。かといって、舞踏会から出禁にして、社交の場を制限してしまうのも、彼女には困ったことになるはず。
舞踏会には場違いな存在ではあっても、なんだかんだで気の優しいいいコなのだ。
「お嬢様は、ダンスだけではなくて、ディスク・ジョッキーの腕も見事と聞いております。
今宵は生演奏のオーケストラが、あまり格の高い楽団を用意できませんでしたゆえ。
お願いできるのなら、ダンスより音楽のほうをお願いできないかと」
あたりさわりない返答をできずにいた主人に替わり、年配の執事が気を利かせたようだ。
でかいスピーカーにつないだプレイヤーと、たくさんのレコードが備えられたブース。彼女をそこに案内すると、オーケストラを引き上げさせて、舞踏会は無事に(?)再開されるのだった。
彼女がレコードをスクラッチするたびに調子がはずれて、パートナーの足を踏んでしまったり、自分の足がもつれたり。
ダンスの名手の参加者たちにとっても、難易度の高い舞踏会になってしまったのは、まあしかたがないが。
これを機に、彼女がディスク・ジョッキーを務める舞踏会が、あちこちで、たびたび開かれるようになったのは、良くも悪くもあるお話。




