第6話
「と、面接が終わった訳だけど。これで終わりとは思えないねぇ。」
筋肉痛の中これだけの長い一日を過ごしておきながら少しも疲弊した様子のないリタは呟いた。
「同感。この程度の実技試験で学園に入れるわけない。」
フェリクスもその意見に反応する。
「もっといろいろありそうだし、あたしもっとドカーン!ってやりたいし。」
「……え、ドカーン??」
その時、面接会場となっていた寮内に一斉アナウンスが入った。
『休憩時間の終わりと共に、次の試験の通達をします。受験生のうち、治癒の魔法属性を持つものは東棟へ、それ以外の生徒はその更に東にある訓練場へ行きなさい。繰り返します。治癒魔法手は東棟へ、それ以外は訓練場へ行きなさい。訓練場で暴れている魔獣の討伐数で実技討伐試験を評価します。』
「来た!ドカーン来た!」
「東棟、どこだ…。」
喧騒はそれに続くアナウンスで混乱を極めた。
『魔獣はその多くがC級で各死骸に付き20点、稀にB級がおりそれらは各40点とします。』
「おいおい、これって、早い者勝ちってことじゃねえのか!?」
「先に狩られちゃ点数が減っちゃう!」
「え!早い者勝ちなの!?ねぇフェリクス聞いた、早いもの勝ちだって!!」
「待ってリタ、次期ギルドマスターが混乱の最中に周りの声に踊らされちゃ…」
「あたし魔獣討伐めっちゃ得意!行くっ!!」
「あ、こら、リタ!!」
「12時間ぶりのダンジョンだ~!!」
「リタぁ!!」
『試験時間中における討伐証拠の譲渡・売買は発見次第厳格な罰則を与えます。共闘・討伐証拠の山分けも禁じます。この試験は実際の魔獣討伐と同様に行われるものとし、あなた達自身の力で可能な限りの討伐を目指しなさい。』
『そして治癒属性魔法手の受験生は東棟に集合し、各受験生に対して一人ずつ同伴する試験監督と共に訓練場での討伐試験において負傷した受験生を治癒しなさい。治癒を行う場所は個人の判断に任せます。各受験生が治癒した人数を数えるため、治癒は必ず試験監督と共にいる時のみに行いなさい。
これは実践的状況において自分の個性的長所を発揮する能力を見る試験です。
それでは、試験開始!』
個性的長所、という言葉にフェリクスはそれとなく引っかかったが、何に違和感を感じたのか図り切れずにいた。その間にもライバルたちは走って寮の東棟へと駆け付けいく。きっとあの中にヒーラー用の、アタッカーにとっての魔獣討伐のような、実力を測るための試練が待っているはずだ。
焦ったフェリクスが追いかけると、そこではすでに40、50ほどの治癒魔法手が、一人につき一人ずつ付く試験官と共に治癒を行っていた。フェリクスも手が空いていた試験監督を連れて治癒へと乗り出そうとした。
しかしそれは途中で行き詰った。
「もう…患者が…いない…?」
さっきの混乱を起こしていたのは攻撃可能魔法手の受験生だけではない。アタッカーが狩った魔獣で点数をつけられるならヒーラーは治癒した人数で入試が評価されると考えるのが妥当。東棟はすでに無謀な挑戦をして怪我を負ったアタッカーで溢れていた。治癒魔法手はこぞって一人でも多く治し手柄をものにしようと怪我人を取り合っている。放送が終わるまで混乱の中状況把握に頭を回していたフェリクスはやや出遅れており、残っているけが人はほぼいないに等しかった。あたりを見渡せば、フェリクスだけでなく明らかに暇を持て余している受験生は他にも多い。
もう打つ術はないのか、そう諦めかけた時フェリクスはある事に気が付いた。
先ほどの面接試験では、通信魔術で遠隔地と通信を行うことは禁じられていた。
今回は、通信魔術などの利用を禁止されていない。
フェリクスは周りに勘付かれないよう彼の試験監督とアイコンタクトを取った。
「先生、この棟で最も出口に近く且つ人気のない所へ連れて行ってください。」
「…なぜですか?」
「確認したいことが。」
*
「ここなら、あまり人は来ないです。」
「脱靴場…」
「何を確認したいですか?」
「通信魔術を使って、訓練場にいる友人と連絡を取ることは可能か、と。」
「…可能です。」
「では、そのときもし相手から要請があった場合最前線に赴き治癒を行うことは可能ですか?」
「可能、です。」
「では、そうさせてもらいます。」
通信魔術で重要なのは相手の魔力を正確に察知し狙いを定めること。こんな混乱の中特定の一人に通信魔術を放つのは難しい。でもリタに対してなら、その限りではない。この時フェリクスは凄まじい量の魔力を持つ奴と幼馴染であったことを幸運に思った。彼女の魔力はどんなに遠く離れていても見失う気がしなかった。
「リタ、聞こえるでしょ。そっちの戦況を詳しく教えて。けが人の数、ヒーラーの数、討伐された魔獣の数。いつものダンジョンの通りに。」