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パルーマの学び舎  作者: ヒカル
本編 2nd Grade
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第1話-3

 部屋を十分な時間開け放してあの忌々しい臭いを換気したあと、フェリクスとセネンは恐る恐るロベルトの部屋の中に入った。彼もまさか、金を溶かす劇物を作ってまで部屋に入りたがる人間がいようとは考えていなかったのだろう。床には、セネンの蹴りによって粉砕された鍵以外の物も散乱していた。


「まぁ、ロベルトさんの部屋がきちんとしてたらなんか変な気分になりますしね。」

「…。」セネンも黙って頷いた。元ルームメイトのセネンが言うなら確かなのだろう。


 そのまま2人は気の赴くままに部屋を探索した。彼らの探し物は漠然としている。ロベルトの言う、フェリクスがもっと早くに気づくべきだったこと。学園には手がかりがなかった。かくなるうえは、本人の部屋に突撃するよりほかあるまい。この時セネンもフェリクスも、その言葉の真相が確かにこの部屋の中に眠っているような気がしていた。

 床から天井までの高さがある本棚からさえも漏れ出てそこら中に散らばっていた本の中には、手相占いの教本に児童用の絵本など、何の関係があってこの部屋に置かれているのか全く見当のつかないものまであった。気づけば、フェリクスもセネンも書籍探しはそっちのけで汚い部屋を黙々と掃除し始めていた。そもそも、2人に共通する真面目な気質が整頓されていない部屋を探索することを本能的に良しとはしなかったのだ。


「『初心者にも分かる戸籍の法律』…?なんでそんなニッチな…」


「『天文新誌』…」

「ゴリゴリの専門書じゃないですかそれ。ロべルトさん、天文学も読むんですね。」


「…?」

「セネンさん?なんですかそれ。」

「…メモ…?」


 セネンの手には、セピア色のやや大きめなメモ用紙の束があった。錐で空けられた穴に糸を通しているだけの、何とも頼りない古風な束ね方ではあったが、何の変哲もないメモ用紙に見えた。フェリクスには、サネンがなぜそれを見ながら微動だにしなくなってしまったのかわからなかった。


「それの何がひっかかるんです?ただのメモじゃないですか。ロベルトさんだってこれだけのこと調べてるならメモの一つや二つ取るでしょう。」


「ロベルトは、メモしない。」


「………は?」


「ロベルトの字はこんなにきれいじゃない。」


 フェリクスはセネンから手渡されたメモをじっくりと見た。ロベルトは左利きだ。箒に乗る時も本を持つ時も、フェリクスたちの授業に来た時も、いつも使っていたのは左手だった。しかしこのメモは、字が右に傾かせる昔の書き方。明らかに、彼の筆跡とは思えないものだった。ロベルトのものではないメモ、古風な束ね方にこの筆跡。


「これ、古文書ですね…」


 筆記法に癖はあるが字自体は読めなくない。解読したら、もしかしたらロベルトの言わんとすることが、行動の理由がわかるかもしれない。フェリクスはこの時ほど自分が古典が苦手であることを悔やんだことはなかった。


「古典なら、得意。任せて。」


 フェリクスの心を読んだかのように、セネンが助け舟を出した。



*



「ロベルト・セールズ様。お客様です。予約はお取りになっていない方ですが、どういたしましょう。」


 礼服姿の執事が慇懃に頭を垂れて自分に来客を告げるのも、ロベルトはこの屋敷に連れられてからだいぶ見慣れてきていた。侯爵子息たるもの、この程度の礼儀の払われ方には生まれつき慣れてなくてはならないはずなのだが、どういうわけかそこの教養だけ欠落したロベルトに貴族の自覚なんてものは皆無で、どちらかと言うと学者の自覚の方がよほどあった。どちらであっても、ロベルトに言わせれば"その時相手が求めている姿になりきる心の持ちよう" となってしまうのだが。


「お通ししてくれ。」

「かしこまりました。」


 ロベルトが開いていた本を閉じて適当に部屋の見た目を整えた頃、部屋の外に再び人が近づく気配がした。ロベルトはちょうど本で読んだばかりの魔術を試そうと思った。人の気配だけで相手の属性を当てる闇魔法系列の魔術が新たに極東で作られた、という。書かれていたとおりに見知らぬ来客の属性を推し量ろうとして、ロベルトはぎょっとした。


(風、水、と土…!?しかもどれも強い、得意魔法と言えるレベル…)


 三属性を持って生まれるのはこの国で唯一の存在しかいない。初代王の血を引く王家。そしてこの魔力の熟練さ、想像はできるただ一人。来客が誰か想像がついてしまった瞬間、彼は部屋全体に幻覚魔法をかけて完全にきれいな部屋に見えるようにした。

 ロベルトは扉が開くとともに流れるような紳士の礼をとって客を出迎えた。思ったよりもすんなり言葉は口から出たが、殿下に拝謁できるという興奮による唇の震えを抑えることはできなかった。


「セールズ侯爵家がロベルト、パルーマ王国の若き星、カリナ・パルーマ・エラン殿下に拝謁いたします。わが王国に星の祝福あれ。」


 カリナは、女神も嫉妬するような美しい笑みを浮かべた。その姿は何とも泰然としていた。

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