第10話-3
「伝達魔法で知らせるなんて、よくやるよ。稀とはいえここのじじいどもにも闇属性はいるってのに。」
ロベルトは口の片端だけをあげて愉快そうに笑った。
「安心しろ、こんな広い王宮じゃお前の魔法に慣れてる俺でやっと聞こえたくらいだ。ちょうどこの先の聖堂にいたからな。…しっかしここ、バカ眩しいな。」
『お前がチョーカーをつけずにあちこちに移動してたせいでうまく見当もつかずこんな明るい場所にたどり着いたんだよ。おかげでヘロヘロだ。誰のせいだと思ってる。』
「怒るんなら口に出して言えよ、サマになんねぇな。俺にしかきこえてねーぞ。」
『こんな長い文章口で言えるか。』
「そうだった。」『お前外見は死ぬほど無口だったな。』
「……あの〜…僕もいるんですけど…」
2人の無言の会話の合間に、フェリクスがおずおずと主張すると、ロベルトは一瞬目をやってからすぐさま空間魔術を展開した。次の瞬間、ロベルトの無駄に長細い腕の先には大量の分厚い本が積み上げられていた。
「ちょうどよかった、フェリクス。これを持って帰ってくれ。絶対なくすなよ。」
「……っええなんで!?突然!!」
「燃やしたり捨てたり食ったり食わせたりすんなよ。」
「僕ヤギっすか!?」
「一番はなくすなよ。」
「誰が言ってんですか、実習室の紛失常習犯」
「それはそれ。」
「じゃないです理不尽です。なんなんですかこれ。何が起きてるんですか。」
「今は時間がない。」
いつになくはっきりと断言するロベルトの声に、フェリクスはつっかかることもやめて視線を上げるた。頭一つ分高いロベルトの顔にいつものヘラヘラさもなかった。午後の時間に差し掛かった太陽の淡い金色の光が天才の名を恣にしている漆黒髪の青年を照らすと、案外その対照的な二つがつくる光景は神聖に見えた。
「フェリクス、フェルナンデスを調べてくれ。…もっと早くにそうしなくちゃいけなかった。確かにお前だけのせいではないとは言えるけど、でもそれを差し引いてなお、お前は鈍すぎた。」
「なに、なにいってー」
「なにも、まだ遅くはない。どうにかして、俺が時間を稼ぐ。だから手伝ってくんねぇかな。」
「ま、待ってください、本当に何言ってるのか…」
「おい、こっちだ!!こっちに闇属性の気配があるぞ!」
「追え!アナジャもセールズもどちらも絶対に逃がすな!」
「…もう来たか。案外速かったな。」『セネン、連れてけ。捕まるなよ。』
『もちろん。』
頼もしく頷いたセネンは首のチョーカーを外して床に投げ捨て、大量の本を抱えたフェリクスを飲み込むように巨大な転移魔法を展開し、その場から消え去った。
*
「いったい何だったんですか、ジョヴァンニを調べろって?」
「…入試のこと、覚えてる?」
トルネーオの喧騒が嘘のように静まった学園の、人気のない場所に降り立ったセネンは、徐にフェリクスの問いかけに質問で返した。
「覚えてるも何も…どの瞬間も必死で記憶なんてないですよ。」
「ジョヴァンニ、いた?」
「えぇ…?うーん……」
セネンの食い下がるさまに入試の一部始終を覚えている限り思い出そうとするが、覚えているのは赤髪の幼馴染だけだった……
と思った。
その回想は雷のように暴力的で、後頭部を殴られたような衝撃がフェリクスを襲った。
『俺入試でしくじったからさ、もし学園に落ちたら家は兄に任せてギルドで冒険者になろうと思っていたんだよ。…覚えてる?俺、実技試験の時にフェリクス君に助けてもらってさ。』
初めて寮の中であった日、入学式に出る直前、確かに彼はそう言ってなかったか。
おかしい。彼があの場にいるはずがない。だって彼は、戦略学科の所属で、戦闘学科の学生ではない。自分と同じ戦闘学科の入学実技試験にいるはずがないのだ。
フェリクスは頭を抱えた。何が起きているのか、本当にさっぱり分からなくなってしまったのだ。
その次の日、パルーマ中の日刊新聞の一番上の段を飾ったのはトルネーオの話題ではなかった。もっと重大であまりにも突然で、でもなぜか、どこか自然なように聞こえた。
若きパルーマ現国王が、死んだのだ。




