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パルーマの学び舎  作者: ヒカル
本編 1st Grade
34/43

第8話-3


 真下で急に始まった五番勝負を、きっとこの学園の誰もが見守っていた。騎士同士が剣を交える時特有の緊張感と、すごいものが見られるぞ、という期待感をひしひしと感じる。そこにはマルティンの貴族子息かつロメルの臣下としてのプライドと、リタのいずれ自分がギルドを司るのだという意地があった。

 勝利の条件は3つ。相手の剣を奪うか、相手に打突を与えるか、相手を場外に出すかで決まる。魔法も魔術も使ってよく、打突は剣によってのみ有効。相手を戦闘不能にする目的で故意に障害を与えた場合はその場で失格敗戦となる。


「五番勝負、第一回戦。始め!」


 審判であるロメルが言うが早いか、リタが地を蹴って飛び上がった。風魔法を自分に使って体を浮かせ上から狙いを定める、リタの最も得意とする戦い方だった。

 リタは、確かに着地と同時に真下に立つマルティンに打突を与えたかに見えた。しかし次の瞬間、リタが打つはずだったマルティンは、そこにはいなかった。まるでそこには誰もいなかったかのように、模造剣が空を斬る。彼の得意な魔術、空間魔術だろう。着地したリタがすぐに背後を振り返ると、そこにはまさに襲いかからんとするマルティンがいる。リタが上体を反らして辛くもマルティンの剣をかわすと同時に、マルティンがリタの剣を薙ぎ払う。


「勝負あり。1回戦、マーレ。2回戦構え。」


 リタはマルティンの方をさっと横目で確認しながら、跳ね飛ばされた剣をもう一度握り剣を構えた。立て直しの早さはさすがといったところか。


「始め!」


 今度は先に仕掛けたのはマルティンだった。リタを誘うように防戦を広げながら遠ざかるようにして後ろ向きに歩き、足元の地面をわずかに変色させていく。マルティンの属性は水と土。これはその両方を使って罠か仕掛けを作っているのだろう。2属性持っている者はいくら魔法の国パルーマと言えどもほんの一握りだが、ロベルトやアデラがそうであるように、この学園では稀ではない。そして水と土は戦いにおいてはまさに最高の相性だ。

 一方、2属性持っているのはリタも同様。さすが百戦錬磨の冒険者娘、マルティンの作戦に引っかかるわけもなく、風魔法で地面を乾かしつつ感触を確かめながらリタも攻撃を進める。それでもマルティン相手に決定打は打てないでいるようだった。

 その瞬間、一定方向に後ずさっていたマルティンの姿がまたこつ然と消えた。空間魔術だ。間髪入れずにマルティンはリタの背後に現れ、1回戦と同じように、地面に気を払っている隙を狙おうとした。しかし同じ手に2度引っかかるリタではなかった。彼女はノールックでマルティンの渾身の打突を躱し、そのさらに背後に回って打突を食らわした。その間1秒もあっただろうか。ここ数カ月間毎日光魔法やら闇魔法やらの瞬間移動を見てきたフェリクスでも速いと思わされる動きだった。


「勝負あり。2回戦、ジュステ。3回戦、構え。」



*



「勝負あり。8回戦、ジュステ。9回戦、構え。」


1回戦目 マルティン・マーレ

2回戦目 リタ・ジュステ

3回戦目 マルティン・マーレ

4回戦目 リタ・ジュステ

5回戦目 マルティン・マーレ

6回戦目 マルティン・マーレ

7回戦目 リタ・ジュステ

8回戦目 リタ・ジュステ


 試合は一進一退、どちらも退かず勝敗を完全に分けていた。8戦目が終わった時点でどちらも4勝4敗、後半戦に至ってはもはや観戦しているほうが剣の動きを追うのに疲れている。ロメルの審判としての集中力は異常だと思う。

 マルティンもきっと、こんなに手間取ると最初から分かっていたのならリタとの五番勝負は望まなかっただろう。完全に持久戦となった今こそ、マルティンは正念場にあった。何せマルティンの水属性も土属性も、リタの火魔法や風魔法に比べれば魔法単体の威力で劣る。そもそもがロメルのサポーターとして鍛えられてきた彼は、あくまで生粋のアタッカーであるリタと比べてだが、戦闘に不向きだった。


「始め。」


 それは一瞬だった。一瞬すぎて、何が起きたか処理するまでのほうが時間がかかった。

 リタの剣が風を纏って振られ、それはいとも簡単にマルティンの剣を薙ぎ払って巻き上げられた。リタの剣に絡まるように宙を舞ったマルティンの剣は、軽やかな風音とともに地に突き刺さっていた。

 



 まるで、今までのは全て戯れだったかのような、呆気ない太刀筋だった。

 



「……勝負あり。9回戦、ジュステ。以上5対4にて五番勝負終了、ジュステの勝利。」


 やや間を空けて聞こえたロメルの声には、確かな驚きがあった。戦慄や感嘆に似た感情を感じ取ることができた。剣を交えた本人ではないフェリクスにでさえ、それはどうにも悔しい。ましてロメルの臣下たるマルティンは今どんな気持ちなのだろう。

 フェリクスはリタたちからふいに目を逸らして手元の薬瓶を眺めた。負けたマルティンの顔を見たくなかったし、勝ったリタの顔は更に見たくなかった。


(こんなに、違うんだな。)


 薬瓶を握る手に力が籠もった。明後日リタを素直に応援できるか、と聞かれれば、きっと彼はすぐさま頷くことはできない。


(僕には、治癒魔法がある。それでいいだろ。いいはずなんだ。)



 フェリクスは徐に薬の調合を再開した。

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