第7話-3
「わたくしのお友達が、ずいぶんと暴れてしまったようね。」
シルヴィアは豪奢な扇子で淑やかに口元を隠しながら話し始めた。勇者候補とはいえこの場において最も家格が下であるロメルは、2人分の紅茶を差し出すとアデラの傍に控えた。
「オーウェン嬢のことでしょうか。」
「ええ。」
「実害がなかったからまだ、良かったというものです。生徒会長として看過できる事態ではありませんでした。」
「申し訳ないわ、アデラ。気苦労をかけたわね。」
「いえ、そんな。」
しばしの沈黙が落ちる。シルヴィアの手によって持ち上げられたティーカップ越しに、闇属性らしい暗さを湛えた栗色の瞳と火属性の炎を宿した茜色のそれがピタリと視線を合わせた。双方が、互いの出方を伺っているその様は、まるで睨み合う龍と虎のようだった。
「最近、王族派の中枢格に異様な動きがあるという噂を聞いたの。それで過敏になっていらしたのかしら。」
「異様な動き、ですか。」
「国家反逆も吝かでない者がいると。」
刹那、その場の空気がピリリと引き締まる音が聞こえた。うるさいほどの無音が訪れ、部屋が重苦しい雰囲気に呑まれる。
「……根拠もないことを。」
「わたくしは貴女を信じているわ、アデラ。いえ、王家は皆バエズの人々を信じている。しかし余計かつ不審な挙動は猜疑を増すのみ。根拠があろうとなかろうと、貴族派はますます懐疑的になっていく。」
「…それは、我々に嫌疑がかけられているということでしょうか。」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ルーカスも心を痛めておられるわ。」
「あるわけがないでしょう、王族派に。王族反逆など、王族派は断じて致しません。」
「あら、いるじゃない。王族の証を持たぬ王族が。」
シルヴィアは妖艶な笑みを浮かべて言った。
「カリナ・エラン殿下、という御方が。」
ガタン、と音を立ててアデラが立ち上がった。
「如何に王太子殿下が婚約者と言えども、それ以上の不敬は許されません!カリナ殿下は確かに先代王と王妃の間にお生まれになった王女殿下であらせられます!」
「えぇ、表向きは、ね。」
「いえ、どのような面においても、でございます!貴族派は昨今、あまりにカリナ殿下を軽んじすぎておられる!」
「実子か拾い子か。どちらにせよ、出生の分からぬまま育った王女の扱いなんて酷いものよ。神に誓った出生証明がないのなら、それは城下の道端にうずくまる憐れな浮浪児と同じ。」
「口をお慎みになってください…!」
「…貴女がそこまで感情を顕にするのも珍しいこと。貴女こそ、カリナの最も近しい友人として庇い立てすぎているのではなくて?」
「なっ…、それは、!宰相家として王族を、」
「とりあえず、目立った行動は慎むことね、アデラ。相席ありがとうロメル。ご苦労さま。紅茶も美味しかったわ。」
「…恐縮です、シルヴィア様。」
シルヴィアはドレスを翻し、颯爽と部屋をあとにした。
「カリナを立ててもし彼女が正当な子ではなかった場合、王家の純血を尊ぶ王族派の体面は崩れる。かといってカリナを軽んじることは現状不可能。一体、何が起きているんだ。このままでは、どう転んでも反王族は我々ということになってしまうではないか…。」
組んだ手の上に頭を預け苦悶するアデラにかける言葉も見つからず、ロメルはただティーカップの片付けをするのだった。




