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パルーマの学び舎  作者: ヒカル
本編 1st Grade
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第7話-1


「どうか、腹を立てないでください。ボクはカミラ嬢ご本人のために言っているのです。」


「それはそれは女神の如く慈悲深いこと、アデラ()。その態度はバエズ家なりの敬意の示し方なのですね?まぁ、なんて凛々しく、斬新なのでしょう!」


「…今、それは論点ではありません。どうか、カミラ嬢のためにも、はぐらかさないで。ボクは生徒会長として、そして臣に多くの平民を抱える家の嫡子として、君の行動を看過することはできない。撤回していただきたい。」


「あら、臣下想いでいらっしゃるのね。……それともご自身の家に誇りがなくていらっしゃるのかしら?」


「……貴女こそ。平民だなんだと、同じ学舎の生徒を差別的な偏見を交えて吹聴する程、ご自分の家格に自信があるのですね。」


「……あら、神に誓って、そんなこと。」



 貴族の嫌味のお手本のようだ、とフェリクスは心の内で苦笑いした。さすがに想定外な大喧嘩に、ロメルも仲裁に行く気が若干削がれているのか動かないでいる。


 一応、先の上品ぶった貴族言葉を応酬しているが、フェリクス達のような社交の訓練を受けた貴族子女には、ほぼ罵詈雑言にしか聞こえていない。

 参考までに下町風に意訳すると次のようになる。


『オーウェン嬢ともあろう人が怒るの?見苦しいよ?』


『うっるさいわね、女のくせして男勝りになっちゃって。さすがポッと出の田舎者!』


『…出自は関係ないだろ。というか今、ボクのこと"嬢"って呼んだね?目上には"様" を付けるんだよ、知らなかったのかな?この学園にはボクを守ってくれる人はたくさんいるんだよ。言葉に気をつけな。』


『そんなの全っ然怖くないわね。アンタんちって王家に取り入れてたまたま成り上がっただけのエセ名家でしょ?』


『生徒会長舐めてる?君が平民出の子供を虐めて回ってるのは知ってるんだよ。いざとなったらカリナ王女殿下を通じて陛下にまで知らせるよ?』


『へぇ?証拠はあるわけ?』



 治安が悪いにもほどがあるんじゃないか。



「そもそも、先に無礼を働いてきたのはそこの平民ですわ。わたくしはその無体な行いに注意をしたまで。それこそ生徒会長の御手を煩わせるようなものではありませんわ。」

『そこの小娘が失礼だったからお返ししてただけじゃない!私ばっかり怒らないでくれる!?生徒会長も暇なのね!』


「いえ、多種多様な背景を背負って入学する後輩のサポートをするのは、生徒会長以前に先輩、ひいては貴族としての当然の責務でございますので。」

『つまり君は貴族らしからぬことをしたんだよ。淑女ならば至らない点はやんわりと見逃してやるのが普通だ。』



 なるほど、事の成り行きが分かってきた。

 アデラ先輩が後ろに庇っているのは、顔は見えないがどうやら平民出身の新入生らしい。アデラ先輩はフェリクスと同じ王族派貴族、いや、むしろ現在宰相を務めているバエズ家は王族派の筆頭とすら言える。

 彼女に噛み付いている令嬢はオーウェン家のカミラ・オーウェン。入試でも見たが、生粋の貴族派だ。優秀な平民の子供は気に食わない、といったところだろうか。

 つまりこの状況は、少しばかり礼儀がなっていなかった平民の生徒をダシに、貴族が派閥争いを始めたといったところだろうか。なるほど、間に挟まれた生徒が可哀想である。


 こういうときは両派閥に効果覿面の切り札しかあるまい。フェリクスは隣で棒立ちになっている未来の勇者様の背中をトンっと軽く押し出した。ロメルも堪忍したのか、圧し殺したため息をわずかに漏らしながら2人の間に入った。


 いや、入っていこうとした。



「〜〜〜っいい加減にしろよ!」



 アデラの背後から聞き馴染みのある怒声が響いた。

 声の威勢の良さに違わぬ強さでアデラの肩を押しのけ、姿を現したのは想像していたか弱い平民の生徒とは対極の―確かに平民ではあるのだが全くか弱くはない―生徒だった。

高く結われた赤髪には所々紫色が映え、猫っぽい顔つきに大きな紫色の瞳が一際目立つ。 

 アデラに庇われていたのは、紛うことなく、リタ・ジュステであった。


「さっきから黙って聞いてればさぁ、あたしを差し置いて貴族がどーの平民がどーのって!怒るんならあたしを怒れよ、マナーがなってなかったのはあたしなんだから!てか、確かにあたし平民だけど、マナーもなんにも知らないけど、それでいっつもフェリクスに怒られるけど、それは全部アデラにぶつけることじゃないでしょ!はいはい、さっきは誠に無礼で申し訳ありませんでしたっ、どれがそうだったのかわからないけど!ほら、正々堂々、文句があるならあたしに言いなさいよ!じゃないとどれかダメかわからないじゃない!アデラもアデラだよ、庇えなんて一言も頼んでないんだけど!」

「えっ…え?」

「…まぁ。大声で叫ぶなんて、はしたない。」


 アデラは急に矛先が自分に向いて呆気にとられ、カミラ嬢は扇で口元を隠しながらボソッと呟いた。

 一瞬の静寂の後、やっと入っていくタイミングを見つけたロメルが3人の間に立つ。


「レディが3人も揃って口論とは、あまり平和な光景とは言えませんね。カミラ嬢、ご親切にも同級生へのご()()、ありがとうございました。学園は多様なバックグラウンドをお持ちの方が入学されますので、淑女教育を全うされた貴女にリタ嬢の言動はさぞ衝撃的だったでしょう。本来は我々生徒会員の役目でありながら、ご助力頂いて感謝のあまり感動しております。

 アデラ、後輩を庇おうとしてくれたのだね、ありがとう。でも"虐め" と決めるにはやや性急すぎたようだ。君が判断を急くとは、珍しい。でも学園の治安を守ろうという志はカミラ嬢と同じだろう?ここは丸く収めよう。

 リタ嬢も、それで良いかな?」


「まぁ?あたしは別にこの2人が良いなら。」


「ではこの場はここで終わろう。アデラ、四限が始まってしまっているよ、急ごう。」


「あ、あぁ。わかった。」

「ま、待ってください、ロメルさん!」


 フェリクスはリタから急いで目を離し、ロメルと先輩達の後を追った。

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