第6話-3
「どうだった?教育学部長の例の講義は。なかなか刺激的だったろう。」
その次の時間、特別属性魔法実習室の例のカーテン前で優雅に紅茶を嗜みながら、金髪の先輩はフェリクスを出迎えた。
少し奥の戸棚の前では、ニセタが今日の実習分の薬品をせっせと作っている。闇属性の他2人がいるのかどうかはよく分からなかった。
「なかなか、結構、かなり刺激的でした。」
「だろうね。毎年の洗礼なんだ、あれ。去年なんて、ニセタといったら授業を終えるなりこの教室に飛び込んできて『ロメルさんの金髪金目ってそういうことだったんですか!?』ってさ。」
「え、ニセタ嬢はあの星の子の伝説知らなかったんですか?」
「いや、さすがに僕も知ってるよ!?…ただ、なんだか元々聞いてたあの話って山もオチもなかった気がしてて。ただ掟を破って力を手に入れて村の暮らしを豊かにしました、終わり、みたいな。だからあまり興味持って聞いてなかったんだよね…」
「まぁ、確かに今思えば昨日までの自分も序盤までしか知らなかったのだな、とは思いますね。王になったり隣国を攻めたり殺されたりなんて、少年の話には全くなかったですし。」
「なんか、でも僕そんな話でも男の子らしすぎて聞かなかった気がするなぁ…」
「あの、ニセタさん。」
フェリクスは徐に口を開いた。
「うん?」
「その、今ふと気になっただけで答えられないことであれば無視してくださって構わないのですが。」
「うん。何、フェリクスくん。」
「ニセタさんもアデラさんも、淑女でありながら一人称を"僕" にされていますよね?」
「…そうだね。」
「何か、理由とかあるんですか?」
「別にないよ。」
ニセタはやや早すぎるほどの速度で答えた。
「僕は別に理由はない。アデラさんが同じように"ボク"を使ったりや男性に近しい口調で話していたりするのは、なぜか分からないけれど。」
念押しするように早口で続けられた言葉に、フェリクスは口を噤んだ。
『男の子らしすぎる冒険譚が嫌いなら、なぜ男らしく振る舞うのですか。』そう重ねようとしていた質問を喉の奥に押し込んで飲み込む。
「まあまあ、どんな話し方であっても良いじゃないか。それが人格を決めるわけでもあるまいし、ニセタはニセタだからね。」
ロメルはそう言うと、中身を飲み干したティーカップを片付けて壁から剣を取った。
フェリクスもロメルに続いて自分の剣の手入れをしようと立ち上がったが、一歩踏み出そうとした瞬間、急に床から沸き上がった黒い何かに阻まれて、反動で派手に後ろに転んだ。背中で椅子と自分の帯刀していた短刀がぶつかり合う音が響く。
「ぅっわ痛っっ…!」
「…あ、ごめん。」
「セネンさーん…。転移魔法は印がでないから教室に現れるときに使うと危ないって前アデラさんが言ってたじゃないですか…。」
「ごめん。」
「もーーう…。」
背中をさするフェリクスの恨みがましい睨みを意に介する様子もなく、セネンはロメルに向かってツカツカと歩み寄った。どうやら今のセネンは焦っているらしい。
フェリクスは特段空気を読むことが得意なわけではないし、普段から無表情・無口なセネンではあるが、さすがに数カ月毎日顔を合わせていればなんとなく彼がどんな状態であるかはわかってくるというもの。
全く足を緩めず、かなりの速さで部屋を真っ直ぐに突っ切り、セネンは剣の手入れをするロメルに近づいた。白い手を軽く振り上げ、金髪の束の流れるその鍛え上げられた肩をバシッとはたいてただ一言、
「アデラ、トラブル。」
とだけ、なんともつっけんどんに言い放った。
…因みにこれは彼なりの焦りの演出である。
「…どこで?」
「第二図書館。」
「…はぁ…。」
「早く。」
「あぁ…。承りましたよ、と。」
ロメルは磨き始めていた自分の剣を鞘に戻してそっと床に置くと、ゆっくりと立ち上がった。
「フェリクスとニセタも来るかい?きっとこれからセレナも見つかるさ。」
「何かあったんですか?」
ニセタが薬品瓶を棚に戻しながら訊く。
「あったんだろうね、面倒臭い何かが。」
ロメルは教室の扉をあけながらそう答えた。振り返りざまに目が、”君も付いてくるだろう?”と訊いている。
もちろん、フェリクスについて行かないという選択肢はなかった。




