第5話-2
学園が始まって最初の週の週末。1030。
「よっジュステ嬢。直接話すのは初めてだな。」
「初めまして!お噂ならフェリクスからこの一週間かねがね聞いてました、ロベルトさん!」
「こちらこそ、リタ・ジュステさん。…ちなみにどんな噂を聞いてるのかな?」
「天才だけど変人で授業はサボりがちでロメルさんにいつも…もごっ」
「わーー!なんでもないですなんでもないです、早くいきましょギルド!!箒用意しましたから!」
まさかの暴露を早口でまくしたてるリタを後ろから取り押さえ、フェリクスはロベルトを箒を用意したところまで連れ出した。リタと言ったら、人がちょっと目を離した隙にはこれだ。これがリタらしいと言えばらしいが。
極力離陸までロベルトと目を合わせずにいたフェリクスだったが、やはり三年生と一年生の飛行術はレベルが違う。雲の中に入ったころにはすぐに追いつかれて隣にぴったりと張り付かれた。
「素直な感想が聞けて俺は嬉しいよ、フェリクス。」
「忘れてください…。」
「いつもロメルに言われてること…なんだったかな。『飯を食え』、『寮に帰れ』、『寝ろ』、『体を動かせ』、『いい加減本から目を離せ』か?」
「まあ、そうですね。この数日間だけでもかなりおっしゃっていたのでは。」
「いやーまさかフェリクスがそれを幼馴染の女の子に愚痴ってたとはなぁ~!」
「ギルド連れていきませんよ?」
「すんませんでいたっ!」
謝りながらも、ロベルトはヘラヘラと笑っていた。こういう掴みどころのない人が一番恐ろしいのだと冒険者の誰かが言っていた気がする。しばらくすると、少し前を飛ぶリタが高度を下げて旋回した。もうすぐギルドに着く、という合図だ。
「先輩、ギルドの周りの下町はそこそこ治安が悪くてとても貴族の子息がが馴染める雰囲気ではないので、くれぐれも僕とリタから離れないようにお願いいたします。あと黒髪は目立ちますので、ローブのフードは被っておいて頂きたいです。セールズ侯爵に顔向けできないので、騒動を防ぐためにも御身分は明かされませんよう…。」
「あいよ。全部お前さんの言うとおりにするさ。」
先輩も慣れた手つきで箒を旋回させた。
*
「皆!帰ったよー!フェリクスとお客さんも一緒!」
「おーお嬢じゃねぇか!」
「お嬢!今日はダンジョン潜んのかい?行くなら一緒に行こうぜ!」
「今日はユーゴとフェリクスと手合わせのつもりだったけど、それも良いな!夜からなら行く!」
「了解!」
「フェリクス、ユーゴっていうのは…?」
「僕とリタと同い年の平民の男の子です。孤児ですが剣技の才が目覚ましく、ギルドの史上最年少B級冒険者です。経験さえ積めば、史上最年少A級冒険者も夢ではないかと。」
「ほーん、優秀なわけだ。」
「頭は、それほどでもないのですけれど。今のところはエスクードという青年が一番若くて強いです。」
「お嬢とフェリクスも学園なんざ立派なとこ行っちまってよぉ!ジュステ冒険者ギルドの未来は明るいぜ!」
「やめろ、アタシはそんな大層なもんでもないよ。こっぱずかしい。」
「またまたぁ、その陰気なフード被った兄ちゃんも学園のすんげえ人なんだろ?高貴な臭いがプンプンしてるぜ。」
「もしかして未来の勇者様っていうあのオリバー様だったりしちゃう…!?」
酔っぱらって気の大きくなっている冒険者たちを見かねたフェリクスがロベルトの長身をその背後に庇って前へ進み出た。リタに”先輩を連れてギルドマスターのところに行け”と目配せをして、自分は冒険者たちの酒盛りの場に入っていく。
「兄貴たち酔いすぎです、まだ昼前ですよ。お客様はギルドマスターにお話があっておいでなんだ。」
「へえ、それはえらいこっちゃ。」
「学園てのはすげえなぁ。」
「おいフェリクス、こっち来いこっち!学園の話を聞かせてくれや。」
「はいはい。」
「いいのかリタ嬢、フェリクスはこっちに連れてこなくて。」
「あぁ見えて酔っぱらいの対応と二日酔い防止の治癒魔法はピカイチですよ?フェリクスは何度もウチに来てるし父さんにも会ってますし!でも侯爵子息が来たとなればやっぱり会わなきゃでしょ!」
「へえ。まぁ好都合だ。」
「挨拶、あたしもいた方がいいの?」
「いや、俺とお父上だけで十分だ。フェリクスとユーゴとやらと、好きに稽古してな。」
「わかりました~。あっここ!父さーん!」
リタは(もちろん)ノックもなく扉を蹴り開けた。
「ああリタ、おかえり。ユーゴが首長くして待っていたよ。…おや、そのお客人は?」
「先輩、フード外していいよ。」
「ん。」
ロベルトはフードを引きずり下ろし、その黒光りするほどの髪を晒した。
「セニョール・ジュステ。お初にお目にかかります。セールズ侯爵家嫡男、ロベルト・セールズです。」




