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パルーマの学び舎  作者: ヒカル
本編 1st Grade
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第4話-3



「ちょうどいい、全員揃ったね。ニセタ、セレナに説明は済んだかい?」


「あ、はい。とりあえず何をしなくちゃいけないかはそれとなく伝えておいたので大丈夫です!」


「それじゃあ始めようか。」


「了解です!それじゃあ2人ともいったん下がるよー…」



 ニセタに促されてフェリクスとセレナが引き下がると同時に、アデラは腰から剣を抜き出した。よく手入れされた銀の光沢が光り、それがアデラのマメで几帳面な性格や価格の高さを表している。セネンもローブの下でモゴモゴと手を動かし、ロメルもアデラと同じくらい上等で重厚な剣を引き抜いた。



「ニセタさん、何が始まるんですか?」


「お稽古だよ、お稽古。2人でロメルさんと闘うんだ。」


「そんな、2対1じゃないですか!」


「大丈夫。闇属性は光属性に対して弱点ではあるけど、同じくらいかそれ以上に光属性も闇属性に対して効果覿面だから。ほら、よく見て。」



 ニセタは撃ち合う三人の方を指差した。川のほとりに生えた木々が草の上に影を落とし、まるでその木陰に隠れるようにアデラとセネンは立っている。



「闇属性魔法の最大の特徴は、陽の光のもとでその力が弱まること。ロメルさんが光魔法を存分に使って守りに入れば、2人にボコボコにされることはないってこと。」


「……ボコボコ…。」


「あっいけない。素が。」



 …なんか、王都貴族でもギルドで使うような下町の言葉が随所で聞けてあまりよそよそしさを感じない。一応、気のせいということにしよう。



「えっと、それで、僕たちはここで何をすれば良いのですか?」


「僕達はね、ロメルさんやセネンさんがこうして戦ってできた傷を癒すのが仕事。ついでにロメルさんが治癒のイメージをより具体的に持てるように訓練のお手伝いもする。光属性も闇属性も、ダメージの負い方が特殊だから要注意なんだ。それでこの薬棚が生きるわけ。」



 ニセタは例のカバンを持ち上げるとすぐに薬棚を立ち上げた。驚くべきは、彼女が用意した薬瓶の数である。セレナの酔いを治そうとしていたときのそれより遥かに多い品の数々にフェリクスは驚きを隠せない。



「棚のこっち側は全部、闇属性にやられたときに使うやつ。それぞれの効能と使用法は追々ね。それで、こっち側が光属性にやられたときの。今なお絶賛開発中、新進気鋭の子たちばかりです!」


「それ、治験ってどうなってるんですか…?」


「………まぁ……ギリギリ通過したかな?」



 セレナがひゅうっと息をのんだ。すかさずフェリクスが突っ込む。



「…あの、それ危な」

「だぁいじょうぶ大丈夫。っていうのも、”ギリギリ”な理由はね、この薬達はどれも、調合した後最後に治癒魔法をかけないとそもそも効力を成さないっていう条件があるせいなの。最近の論文で、治癒魔法は特に常温の水に溶解しにくいって発見されたのは知ってるでしょう?」


「はい、私入試の時はそれを引用して実技試験で治癒をしました。早く治癒魔法が全身に広まるので…」



 セレナが遠慮がちにそういった。空気には溶けやすいが水に溶けにくい治癒魔法は、水を介して患者に伝えることで直接(あるいは空気を挟んで)魔法をかけるよりも早く、効率よく患者の体内で吸収されることが報告されている。セレナはこれを知っていたから実技入試で水に魔法をかけて患者に飲ませることで治療を行っていたし、そのセレナの技法を彼なりに模倣してフェリクスも試験に臨んだのだ。



「まさにそれを逆手に取ってるわけ。この薬瓶に入っているのは全部、治癒魔法が最後に加えられるのを前提に作られていて、予め溶かされているものは治癒魔法の基剤に対する溶解度より大きいんだ。しかもこれはちょうど気温50℃あたりで大小が逆転する。このカバンの中は常温よりも高い70℃に設定されているんだけど、常温に戻して僕たちが治癒魔法をこれの中に溶かすと…」

「先に成分が溶け出し、だんだん温度が下がるにつれて治癒魔法が効き始めるから効能が長く続く…!」



 メカニズムはこうだ。例えば、砂糖と塩を常温の水に溶かすとき砂糖の方がより多く溶け、これを冷やすと砂糖の方が多くでてくる。これは温度を上げ下げする前後で砂糖の溶解度が塩に比べて大きくありつづけているため、砂糖は温度によって激しく溶ける量が変わるのに対し塩は温度変化による溶解量があまり変わらないからだ。では水を薬の基剤に、塩を治癒魔法に、砂糖を予め溶かされた成分に置き換えてみよう。70℃の下では成分の方がより多く溶けており、これに治癒魔法を溶かすとどちらも解けた溶液になる。では瓶を取り出して外気に触れさせることでこれの温度が下がって50℃になったとき、この大小が逆転する、すなわち治癒魔法の方が成分より多く溶けるようになるため、成分が治癒魔法より多く溶け出すようになる。このようにして薬が使われる時は熱いうちに患者に飲ませ、患者の体内で薬が体温まで冷えた時に治癒魔法がやっと溶け出す塩梅になるというわけだ。


 しかし過剰摂取にさせないためには、まず熱いうちに間違えた量を溶かしてしまっては取り返しのつかないことになってしまう。そのプレッシャーがかかることをフェリクス達に任せられてよいものなのだろうか。



「まずはもう慣れるしかないから。ほら、話してるうちにロメルさんが闇魔法に体力削られてへばってきた。瓶がまだ熱いうちに魔法を掛けて飲ませないと。」


「は、はい!急ぎます!」



 慌てて薬瓶からコップに注いだ液体に魔法をかけていく1年生二人を、ニセタは微笑ましそうに見ているのだった。

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