第4話-1
「ああ、寮で爆睡してたら3限終わりかけとかマジ何…?」
口の悪さも顧みずフェリクスはグチグチと呪詛を吐いた。彼は結局あの後這う這うの体で寮の自室にたどり着き2時間爆睡、おかげで体は回復したがメンタルの回復と空腹の解消が追い付いていない状態である。簡単に言うとクレブラの死体のビジュアルで精神的にやられて吐き気がおさまらず何も食べられていない。それでも必修のセミナリオはあるわけで。必修というか、これに関しては意地だ。なんといっても、4限はあの特別属性魔法実習室でのセミナリオなのだから。
そういうわけでフェリクスは今本棟の長い螺旋階段を登っている。因みに今日は本棟A館49段目の扉で、明日の4限はC館65段目になるのだそう。若干方向音痴のきらいがある彼には大変結構な気遣いである。
「しっ、失礼しまーす…」
フェリクスは恐る恐る、本日の特殊属性魔法実習室の場所であるはずの扉を開けた。
さて、あの名だたる面々の誰がいるのか。
「お、見ない顔だね。初めましてかな?」
「ろっ、オリバー様…。」
「ロメルと呼んでくれ。新入生の…?」
「フェリクス・ファラと申します。子爵家ですが、代々王城にて治癒師としてお仕えしております。」
「あぁファラ子爵方のご子息か。何度かお目にかかったことがある。知り合えてうれしいよ、フェリクスくん。」
「いえいえこちらこそ、滅相もない…。」
輝く金髪を長く伸ばし、後ろで留めているまさに光の人。この世代の勇者となるロメル・オリバーその人を目の当たりにしてフェリクスは硬直した。昨日の決心の手前スルスルと言葉は出るが、直視できそうにない。
神々しすぎる。これが光属性、と彼は目を泳がせて嘆息した。
「お前新入生が来るとわざと発光しながら出迎えるのやめろよ、悪趣味だぞ。」
「不名誉な言い草だな、ロベルト。寝転がって本を読みながら出迎える君よりはよほどできた人間だと思っているのだけど。」
「はん。俺と比べちゃいけねえわ、勇者様が。」
「まだ勇者ではない。」
「ほざけ。」
ズルズルと床を這いつくばってカーテンの奥から顔だけのぞかせたロベルトは、フェリクスの動揺した顔とロメルを見比べてヘラっと笑い、また引っ込んでいった。ロメルはロベルトが引っ込んでいった先を流し目で見やりながらフェリクスを中へと招く。
「すまない、常日頃態度の悪い男なんだ。これでも俺の方が先輩であるはずなんだけど。」
「存じ上げております。」
「もう他の生徒には会った?」
「はい、まだ3年生以上の治癒属性の方には会えておりませんが…。」
「あぁ…あの人達…。」
「あのセンパイ達は一生ここ来ねえよ、俺の知る限りいたことねぇもん。」
ロベルトがカーテン越しに言った。
「いらっしゃらないのですか?」
「入試の時見たろ?明らかに年増の治癒魔法手。」
「ロベルト、言葉に気をつけろ。」
確かに、後から競技場に着いたフェリクスにセレナが教えてくれた。
『東棟に軽症者しか来ないなと思ったら案の定、先輩たちが治しちゃってた。進級が危ういヒーラー志願の人らしいよ。』と。
「じゃあ、普段ここに来るのは基本昨日教えていただいた先輩方5名とセレナと僕だけ、ということですか?」
「まあ、そうだろうね。情けないことだけど。」
「自業自得。退学も時間の問題じゃねえの。」
ロベルトは冷酷に吐き捨てた。
「ロベルトさんはそこで何をしていらっしゃるんですか?」
「べんきょー。」
「いや、そうなのでしょうけど。」
「フェリクスくん、放っておいてあげて。ロベルトはあそこでああしてるのが1日の大半だ。」
「ここほぼ俺んちだし。」
「それは違うけどもな。アデラに叱られるぞ。」
「知らねー。」
どうやら本当にカーテンの中がお気に入りのようだ。そういえばカーテンの中は昨日も大量の本が積まれていた。もしかしたらあれはロベルトの私物だったのかもしれない。
「ねー昼めしの時間まだー?」
「もう4限になるぞ。とっくに過ぎた。」
「は?信じらんねえ。ちょっと消えるわ。」
「今日は食堂に行くのか?」
「親父にちゃんと固形物も食えってこの前怒られたからさ。」
少し間をおいて、ロメルはカーテンを開けた。中には誰もおらず、細い初春の日差しが無造作に積まれた本を照らしているだけ。マルティンの空間魔術はすごかったが、やはり転移魔法がうらやましくなるフェリクスである。
「皆さん、いらっしゃらないですね…。」
「アデラは生徒会の案件で校長と会議していて、ニセタは3限のゼミが終わり次第それを迎えに行っている。さもないと永遠に続けてしまうからね。道中の水魔法ゼミの段でセレナちゃんも拾うと言っていた。でも、そろそろ来るだろう。初回授業だし、張り切っていこうか。」
「なるほど。というか、この時間は何をするのですか?」
「いい質問だ。ここでは特殊属性同士、光と闇で戦うんだよ。普通の4属性との戦いとは根本的に違う種の戦いになるから治癒属性も別の対応が必要になる。まとめて学べるから良いだろう?」
「はぁ。」
なんだかよく分からないが楽しそうだ。確かに光属性はおろか闇属性ですら治癒に当たったことはない。フェリクスが好奇心でウズウズしていると入り口の扉が開いて女性陣三人が現れた。
「ニセタ到着しました!アデラ先輩とセレナちゃんも一緒です!」
「ロメル、遅れてすまない。意外に会議が長引いた。」
「構わない。ちょうどフェリクスくんに説明も終えたところだ。」
「今日はロベルトは居ないんだね。ではボクがセネンを呼ぼう。」
アデラがそう言って黙ると、数秒のうちに急に闇に包まれてセネンが現れた。
「よし、揃ったね、時間もいい。では始めよう。」
時計を見ながらロメルが言い終わるが早く、アデラとセネンが手を叩く。
辺りは一瞬で、白と黒で塗りつぶされた。




