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パルーマの学び舎  作者: ヒカル
本編 1st Grade
17/43

第3話-1❀


 翌朝、戦略学科であるジョヴァンニを部屋に残して、フェリクスは男子寮から校舎への道と女子寮からの道が交差する広場でリタを待っていた。

 本当は今すぐにでも敷地のはずれにあった広大な図書館も見たいし、別棟と本棟の位置関係もきちんと学んでおきたいのだが、1人ではどうにも不安なので強運と野生の勘でなぜか道は間違えないリタをそばにおいておくのが得策なのだ。フェリクスに言うところでは、決して彼自身がリタに方向感覚で劣っているわけではなく、たまたま彼の行く方向にいつも思い通りの建物が現れないだけだとか。


 さて、今日のフェリクスの授業を説明しよう。

 午前中の1、2限は別棟A館で剣術の授業だ。この授業内では魔術・魔法の使用は一切禁止で、1年生の少人数グループに一人ずつ付く2年生の先輩から1年を通して様々なシチュエーションにおける剣の扱い方を教わる。当然入学の時点で皆ある程度剣術には心得がある事を前提にしているのだが、魔法が禁じられることで純粋な体力の強化が見込まれるのと同時に2年生になったら後輩に教えなければならないという緊張感も生まれるのでより効果的な学習になる。兵学部の卒業生には近衛になる者が多いので、いざ戦うだけでなく王都の市民を守るためにはどのような騎士であるべきかということも学べる授業だ。

 お昼を挟んで午後の3、4限はそれぞれ好きに過ごして良いことになっている。本棟で兵学部が推奨する魔法や魔術のセミナリオをとったり、そのほかに別の学部に所属する歴史や言語、法律、物理、占星、生物などのセミナリオを自由にとったりすることも多い。参加しなくてもよいが、ゼミは最低3種週7単位取らなくてはならないためいずれかはやらなくてはならなくなる。フェリクスは今日は一旦セミナリオは受けずに昼食を取り次第図書館を探索し、そのあとすぐ本棟の特別属性魔法実習室に向かおうと思っていた。今日のセミナリオに興味がなかったのもあるが、早く土地勘を身につけたいのと絶対に遅刻したくないからだ。だってどんな人がいるかわからないのだもの。



「フェリクスー!おっはよー!」


「あ。おはよ、リタ。」


「テンションひっく。」


「いつも通りだけど」


「確かにいつも通り。あ、ねえセミナリオどれ取るの?なんかおもろいのあった?」


「僕は取らない。リタは?」


「えー、幾何学の取ろうと思ってたのにー。」


「僕はいいや。別のことしたい。」


「あっそ。で、どこ行きたいんだっけ?」


「色々寄り道はしたいところだけどそれよりもまず時間までに別棟A館にたどり着けるかっていう問題があるからな。リタと僕教室違うし。」


「あ、そうだ。昨日迷子になったっていう図書館行こうよ!」


「話聞いてた??昨日通信繋いだ時言ったよね、図書館は勝手に一人で行くから気にするなって。」



 軽い言葉の応酬を楽しみながらフェリクスとリタは歩いていた。冬の朝は冷え込むけれど今日から学園の授業が受けられると思えば寒さなんてどうってことない。ダンジョンに比べればずっとマシだ。

 リタの例の勘に助けられて無事にA館にたどり着いた。フェリクスとリタは新生活に興奮する気分を抑えて何事もないかのように教室に入った。別棟は本棟のような造りじゃなくて助かる。隣の部屋に入っていくリタを見送ってフェリクスも自分の教室に入って適当な席に着席した。

 教室の中には見覚えのある貴族子女が何人か既にいた。同い年で同時にデビュートをしているのだから貴族なら見覚えがあるはずなのだが。教本を取り出して読みながら、フェリクスは先に居た生徒が何を話しているのか聞き耳を立てた。



「ねえ、あれフェリクス君じゃない?ほら、ファラ夫人の…。」


「ああ、王宮治癒師の。子爵も夫人も凄腕って評判よね。さすが代々属性を受け継ぐ名家。」


「今年入学だったのね、フェリクス・ファラって。優秀だとは聞いていたけど、やっぱりあの親ですものね。」



(……何を動揺しているんだ、僕は。今に始まったことじゃないだろ。)


 フェリクスの両親はお互い王宮治癒師として王城で知り合って恋愛結婚をした。基本魔法を使えるのは貴族な上、治癒属性ともなると使える人は本当に少ないので希少価値が高く目立つ。治癒属性同士の結婚はそういう意味で広く認知されてしまうのだ。当然、待望の治癒属性のサラブレッドであるフェリクスは属性に目覚めてからは更に凄腕の両親と比較されて育った。たとえ親にはその気がなかったとしても。



「王族派だろ?相容れないな。」

「おいよせよ、そういう話題は。」

「先代王なんて不祥事だらけだったじゃないか。おかげでうちの領民は荒れ放題だしさ。王族主義なんて言えるのはそういう苦労がないからじゃないのか?いいご身分なことで。」




「隣にいたご令嬢はどなたかしら?」

「見たことがないわ。皆さんは心当たりがあって?」

「新入生代表の、確かジュステと言わなかったかしら。」

「そんな子、デビュートにいたかしら。」

「いえ、居なかったわ。」

「まあ…。平民なのね。」

「野蛮な子じゃないと良いけれど。学科全体が悪し様に言われてしまうわ。」



 フェリクスの本を握る手に力がこもった。フェリクスがリタといるときはいつだってこうだ。元々礼儀だの社交だのが苦手なフェリクスにとってリタのように言葉を考えずにスラスラと話せる友達は少ない。彼自身本当は平民の方が向いていたのではないかと思うほどフェリクスはリタを近しく思っているのに、二人の間にはいつも大きすぎる身分の隔たりがある。いつも一緒にいるから、大人になったらリタとは別の世界で生きていかなくてはならないことが彼には寂しかった。

 リタは8歳のあの夏から彼にとっての憧れで、追うべき存在で、ライバルなのである。

リタが平民だからと侮辱されるのは許せない。


 フェリクスはただ俯いて時が過ぎるのを待った。目は本の上に並べられた文字を追っていたけれど、あいにく内容は全然入っていかなかった。



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