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パルーマの学び舎  作者: ヒカル
Prologue
10/43

第10話



「フェリクス様、最後の確認です!良いですか、もし寮で何かご不便ありましたらアンナはいつでも馳せ参じますから、どうぞお気軽に頼ってくださいませ。決して気を使われることの無いよう…」


「もうわかったから!もういかないとリタも遅刻しちゃうから!」


「ちゃんとお友達を作って、先生方の言いつけをよく、よく、守るのですよ!!」


「わかったってばぁあ!!」



フェリクスは延々と続くアンナの言葉を遮るようにがさつに3つもあるトランクを引っ掴むと屋敷の階段を駆け下りて馬車に飛び乗った。車窓の外では母が門で手を降っている。



「フェリクス〜!向こうに落ち着いたら必ず私に手紙を書くのよ〜!」


「はい母上!行ってまいります!」



ガタガタと石畳みに揺られて馬車はまずジュステ冒険者ギルドを目指す。子爵家のもつ馬車はトランクを載せるともう一人くらいしか人が乗らないくらい小さい。



(さすがに3つは多かったかな、もう少し本を減らすべきだったか……いやでも教科書だけでトランクは半分埋まっていたし、どの参考書も受験期から使っている愛用書だし。あとは筆記用具と着替えだけでこんな量になってしまった。いやでも、女性はもっと着替えもあるしきっとさらに大荷物のはず…あ、でもアイツだけはもはや単身くらいの身軽さかもしれな…)


「ドーーン!やっほーフェリクス久しぶり!」


「うっわぁ!?」



案の定、"ほぼ単身の身軽さ"で馬車の扉を豪快に開けて入ってきたリタの後ろでファラ家の御者が申し訳なさそうな顔をしている。



「すみません坊っちゃん。止められなかったものでして。」


「いや、君は悪くないよ。リタがごめんね。」


「え?私?」


「……リタ、一旦中に入って。」



御者に扉を閉めさせてリタも自分の反対に座らせる。



「これは誰の馬車か分かる?」


「フェリクスんち!」


「人の所有する部屋に入るときはどうするんだっけ?」


「……?」


「……はぁ、扉をノックして入室の許可をもらうんだよアホ!」


「…あぁ〜〜!」


「あぁ〜じゃない!これから行くのはダンジョンじゃなくてあの王立パルーマ学園の入学式だぞ!?目上に失礼があったらどうするつもりだよ!」


「でも!ドーンって言った!」


「それに入室許可の意味は感じないから却下!」


「考えるな!感じろ!」


「だから感じないんだってば!」


「うっ。…でも〜たとえ学園だとしてもさ、すっごい失礼なことしない限り除籍とかにはされないでしょ〜?」



(でた、リタの稀に見る媚び。僕には効かないからな。)



「まぁお前がどうレッテルを貼られようと除籍されようと別に僕は知らないけどさ、本当に先輩方にはちゃんとしてくれよ?バエズ宰相のご令嬢に勇者候補のオリバー侯爵子息もいるし、その一学年下にはシルヴィア様もいるし。噂じゃソフィア様だって僕らと一緒に今年入学するし。同じ学習班になったらどうするつもりだよ……。ああこれがプラグになったらどうしよう…。」


「んん〜?大丈夫でしょ!」



未だに自分があのソフィア・ジェペスの娘の治療にあたったことが信じられないフェリクスは能天気な幼馴染の様子に背筋の粟だつ思いがした。リタにグチグチ言ってはいるものの、彼自身ソフィア嬢という遥か目上のご令嬢に対して試験の高揚のままかなりの大口をたたいてしまったことを引き摺っていた。確かにソフィア嬢の言う通り、あれ以上試験行程があったら今自分が入学できているかどうか怪しいのは事実なのだ。

どうか僕のことは忘れていらっしゃいますように、願わくはシルヴィア様などに伝わっていませんように、さもないと僕の平穏な学園ライフが、とフェリクスが頻りに念じていると。



「あ、そう言えば。」



リタが唐突に口を開いた。



「寮ってさ、向こうで家具は用意してくれるんだよね?」


「あぁ。最低限の家具は申請すれば学園が用意してくれるらしい。」


「刀掛けって最低限?」



フェリクスは嫌な予感がした。



「……最低限じゃないし、リタは壁に立て付けた全てをいつか破壊するんだからやめときな。寮の壁壊してもエスクードさんは壁を塗り直しに来てくれたりしないぞ。」


「……なはは。」


「僕も行かないからな。女子寮なんて男が入っただけでその辺の剣で真っ二つにされそうだし。」


「じゃあ刀掛けは諦めるしかないかぁ。床に直置きかな。」


「それも良くは……いや、もういいや。ほら、学園着いたぞ。」



ファラ家の馬車で通るにはあまりに場違いなほど広く豪奢な門の奥に、自分がこれから通う校舎が見えた。何十日か前、まるで城のように厳かに見えたそれが日常の一部になるなんてまだ実感できていないけれど、それでも集団で授業を受けたことのないフェリクスは楽しみで仕方なかった。




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