拝啓 ここから見える太陽を一緒に見てくれる君へ。
放課後
「ごめんね。」
感情が込まった言い方をした君は、そう言ってもその場に立ち尽くしていた。希望が無くなっていくのが頭上からつま先までしみじみと伝わる。望みは消えた。午後4時43分。絶望に変わる瞬間だ。もうどうしたらいいか、なんて思ってた。
「ごめんね。君の方から言ってもらって。自分で良ければ、喜んで。」
まるでオセロの逆転勝利のような、そんな言葉を聞けて、すぐには理解が出来なかったけど、希望が満たされていくのがハッキリ分かった。
さぁ。時間だ。妄想タイムは終了。水田涼よ。現実に視線を向けようじゃないか。そう自分に言い聞かせるように鳴る学校のチャイムでさえ煩わしく感じた。その音と同時に、皆が教室を後にする音が聞こえる。
この後何する?カラオケとかどう?
そんな声がだんだんと遠ざかっていく。学生の醍醐味は放課後。それでも僕はいつも放課後30分は教室に残る。
小走りで走ってくる足音が聞こえる。来た。
「待ったー!?てか待ったか。そりゃ皆居ない中教室で1人なんて何してんだお前状態だもんね!」
この人の名前は篠原まり。見ての通り、長い。捨て台詞だとは思うが、セリフが長い。
「5分ちょっとくらいかな。ほら行くぞ。」
いつも放課後は一緒に帰る。恋人では無い。親友と友達の間くらいの存在。
「今日はどっかのお店行かない?」
まりがそう言った。
「お店って、宛はあるの?」
「最近できたのがあるんだよ!100mくらい前にそのお店の前通って思い出した!」
え、どうして100m歩いた後に言うのだろうか。
「えなんで前通った時に言わなかったの?」
「その反応が見たかった!」
なんだコイツ。
100mほど前に戻ると、確かにあった。小物のような物を売っているお店だ。何があるのか拝見していると、
「どうせ買うならさ、お揃いにしようよ!」
「なんで恋人でもない人とお揃いにしなくちゃいけないんだよ」
「えーいいじゃん買おうよ〜!」
用意したかのように、2つ、既に手に持っていた。
「じゃあ分かった。買おう。」
その日を境に、放課後お店に行くとなると必ずお揃いの物を買うようになった。
今日もまたお揃いに買って、帰り道を歩いていた。
「太陽が綺麗ですねえ。」
まりがそう言った。
「月がないから太陽で代用か。」
「そのレベル2のラッパーみたいな雑魚ラップやめて。」
ボキャブラリーが高いのか低いのか、分からない。ただちょっとクスッとなってしまった。
「ねぇ涼。次は何をお揃いにしようか?」
僕は答えた。
「苗字かな。」
「え、それって」
僕は深呼吸をする。
「僕と付き合ってください。」
言ってしまった。断られるかもしれない。そう思ったのもつかの間。
「うん。もちろんいいよ!」
僕には、その声がハッキリ聞こえた。驚きと嬉しみの両方が重なり合って固まっていると
「え息引き取った?ほら!行くよ!彼氏君!」
あぁ、幸せだ。人生の幸せのピークかもしれない。
「あぁごめん。行こうか。」
するとまりは言う。
「ていうか、苗字一緒になったら水田まりで水溜まりだね。」
半笑いでそう言った彼女は、その事実に気づいた僕に、更に笑いが込み上げているようだった。