『信西、山門の三速記物を解くこと』速記談1088
鳥羽天皇が比叡山に行幸されたとき、前唐院の宝物をごらんになったが、誰にもわからないものが三つあった。古老の僧に尋ねても、はっきりしない。すると、少納言藤原通憲が、三つとも説明してみせた。一つ目は、綿がふくふくと入った丸いものを杖の先につけているのが、何のためのものかわからなかったのだが、通憲が言うには、これは速記杖と申します。速記の修行をするとき、体のどこか痛むところがあったら、これを使って胸や腹などを押して座るためのものです、と。二つ目は、小さくて丸い毬のようなものが、投げると音がするのだが、人々は、これも、何だか知らなかった。通憲が言うには、これは反訳毬と申します。先ほどの杖と同じく、速記の修行をするとき、特に反訳中、眠くなったら、頭の上に載せて、眠って頭が傾いたら落ちて音がするので、驚いて目を覚ますというものです、と。もう一つは、木を十文字に組んだもので、これも、誰も使い道を知らなかったが、通憲が言うには、これは助老というものです。老速記者が寄りかかるもので、大体、脇息のようなものです、と。これを聞いて、感心しないものはいなかったという。
教訓:藤原通憲は、出家した後、信西と名乗り、この名のほうが有名である。大河ドラマ「平清盛」では、阿部サダヲが演じており、そのせいで、うさんくさい人物の印象が強くなってしまったが、いろいろ調べてみると、もともとうさんくさい人物である。ただし優秀な人物であることは間違いない。優秀過ぎて敵も多かったという。