第93話 理想郷の真実
「ほう、その仮名小宮山という男、深山かもしれんな。
まあ、今のところ何の証拠もないがな。」
「しかし、地底の理想郷に、秘密が漏れるリスクを冒してまで、何故若く有能な男性を連れて行く必要があるのでしょうか。男なら、深山のような人材を放出せず抱えておけば良いのに。」
「そう髙橋署長、そこに鍵があるやも知れん。
華子、その老紳士はどんな男だったかの。」
「品格のある素敵な方でしたよ。
研究者として優秀なのはもちろん、若い時はかなりの男前だったと思います。」
「だろうな。理想郷の現実は、なかなかに厳しいものかも知れんな。」
「というと。」
「血だな。そこにどれどれの人間がいるのか分からんが、数百、数千人、多くても数万人位だろう。
更に先祖の数も多くはないだろう。
それだけの人口では、遺伝子の多様性を到底維持できん。」
「確かに、人口40万人の北欧の島国でもそういう問題がありますね。男女が交際する前にアプリで家系図をチェックするとか。」
「そういう問題を解決する方法。
生まれた男子は早期に養子として地上に送り出し自由恋愛を防ぎ、足りない適齢期の男は地上から呼び寄せる。
地上に養子として送った男は、スカウトや案内人の役割も行う。
地上から送り込まれた男は、用が済んだら記憶を消して地上に送り返す。
女ばかりの社会では、男は揉め事の種だ。
それに、そのまま男を残しては遺伝子の多様性に悪影響があるしな。」
「それなら、深山さんが故郷に帰れない理由も、老紳士が呼ばれかつ記憶を消された理由も分かりますね。」
「容姿端麗で頭脳明晰な男が選ばれるのも理由がある。
地上に養子として送るにもその方が喜ばれる。
女性もその方が、呼び寄せた男が惹かれる可能性が高いだろう。」
「理屈としては理解出来ますが、人の心の存在をないがしろにしている気がしますね。」
「華子さん、私もそんなの嫌だわ。
自由な恋愛や結婚も出来ないし、男の子が生まれたらすぐ離ればなれ。
小さい時に、お母さんと離ればなれにさせられる子供もどれだけ悲しかったことか。
そして、たとえ送り込まれた男性を好きになっても、記憶を消して一生会えないなんて。
素敵な思い出を作っても、相手は何も覚えてないなんて悲し過ぎるわ。」
「深山のあの寂しそうな顔の意味が分かった気がするな。
男を送り出す時の小宮山も同じだろう。
自分の境遇や女性の気持ちを考えると、複雑な気持ちだったんだろう。」
「そんなの、全然理想郷じゃないじゃないですか。
みんなが悲しくなる社会なんて。」
「春二郎さん、人間というややこしい生き物には、所詮理想郷など作ることは出来ないのかもな。」
「しかしその老紳士のように、覚えてなくても過去に地底に連れて行かれた人が他にもいるのでしょうか。」
「かなりの人数がいるかもな。
地上に養子として送り出された者も相当いるだろう。
容姿端麗で頭脳明晰、日本の政治経済、学問の中枢に相当数おってもおかしくはない。」
「マジっすか。俺大丈夫かな。
昔地底に連れて行かれたこととかあったりして。
なんか、心配になってきました。」
「春二郎さん。それは心配ないぞ。」
「そうですね、春二郎さんは大丈夫です。」
「春二郎何寝ぼけたことを言っておる。
アホか、その心配は不要じゃ。」
「そうねえ、春二郎さんは絶対大丈夫。
良かったですね。ほっほっほ。」
「ええっ、何で俺は心配いらないんですか。
おかしいなあ。みんな揃って。」
「おやじ殿、その人選にはお笑い枠とかありますかね。」
「あるやも知れんが、、、多分無いな。
メリットが無さ過ぎる。
そうまでしてお笑い枠を送る、、リスクしか浮かばん。
良かったな、春二郎さん。」
「何すか。お笑い枠って。
もし呼ばれても、俺絶対行かないっす。」
「春二郎、それが良い。
せっかく向こうに行っても、誰にも相手にされなかったら、それはそれで悲しいしな。
モテなかった上に記憶を消されても。
何しに行ったのか、さっぱり分からんしな。
観光旅行じゃあるまいし。
ほんと良かったわ。」
「はははっ、それはそうと、その地底から来た女性、いろいろと悲しい思いを心に秘めているのかもな。
地上に来た理由も、その辺りにあるやも知れん。
幸せにしてあげたいものだな。」
「はい。幸せになって欲しいです。」
「で、華子話してくれ。その不思議な旅の続きを。」




