第9話 夏ちゃんの手紙
夏子は華子の仕事が、日本の国防や安全に関わるものであることに薄々気づいていた。そんなこともあって、華子が自分の仕事についてほとんど話しをしないことにも不思議はなかったし、あえて聞くこともなかった。
政治家の娘である夏子は、華子の父もそうした仕事をしていたこと、また華子の家そのものが代々そういう仕事をしてきたことも噂話で聞いていた。
それを理解した上で、幼なじみで親友の華子に春二郎の件を頼んだのだ。
「華ちゃんごめんなさい。でも他に誰にも頼めないの。」
春二郎の街頭演説会の翌日夜、夏子のスマホが鳴った。華子からの電話である。
「おう夏ちゃん元気かあ。昨日渋谷行ってきた。悪いけどいきなり本題に入るぞ。
春二郎だが、あれはだいぶ問題ありだな。しばらく休んで治療が必要かもな。
あいつ働き過ぎじゃないか?
もともとアレな性格なのに、ストレスありすぎの政治家なんてムリゲーだろう。」
「やっぱりそうよね。」
「そこで夏ちゃんが良ければ、私がちょっと適当な理由作って、会って話してみていいか。場合によっては、信頼できるメンタルクリニックも紹介できるしな。」
「いいの?そうしてもらったら本当にありがたいよ。お願いしてもいいかな。」
「ラジャー!では話してみるかな。」
「それで予備知識として、春二郎と夏ちゃんの子供のころの話を聞かせてもらえないかな。夏ちゃんが何で春二郎のことそんなに慕って、信頼してしてるのか。昔からにいちゃん子だし、他人にはわからん奴のいい所いろいろ知ってるんだろう。本当は優しくていい人とか。わしにはただのアホにしか見えん。」
「いいよ。華ちゃん。う~ん。春にいちゃんとの話なら、やっぱり白玉のことからかな。」
「おう。あの白くて丸いちっちゃい奴な。可愛いかったぞ。夏ちゃんの親友だな。
で、、うむうむ、、、ほう、、、それで、、」
ということで、華子は夏子から二時間に渡り、夏子と春二郎と白玉の昔話を聞かされたのだった。
「で、白玉のお墓を春にいちゃんと作った日の夜、私春にいちゃんにお手紙書いたの。」
「ほう。」
「でも渡せなかったの。春にいちゃん翌日から忘れたみたいに遊び呆けてたから。何か渡すチャンスがなくて。でもまだその手紙とってあるんだ。」
「ほう。それは興味深いな。夏ちゃん今から録音するから、それ読んでもらっていいかな。イカれポンチになった春二郎を正気に戻すのに役にたつかもしれん。」
「何か気恥ずかしいけど、そんなこと言ってられないよね。」
「頼むぞ。」
「じゃ読むね!
春にいちゃんへ、、、 」
電話を切って華子はつぶやいた。
「しかし春二郎、何ともバカな兄貴よのう。夏ちゃんの気持ちが届くよう祈るしかあるまい。」
「今日は何かしょっぱいぞ。」
夏ちゃんの涙の味がする芋焼酎をかみしめる華子であった。