第89話 地底の理想郷
「そうそう、地底の理想郷については、ずいぶんと昔に興味深い話を聞いたわ。
ただの酔っ払いのホラ話だと思って、さすがのわしもあまり気にしてなかったわい。
そいつも、それっきりその話をしなかった。
わしも、一切聞くことはなかった。」
「ええっ、どんなお話ですか。お聞きしたいです。」
「それがな。それこそ50年以上いやもっと前かの。
わしはある政府機関の男と、夕飯の後六本木のバーで飲んでおった。奴は科学技術を推進するような仕事をしておって、わしとは何度も大仕事を一緒にしていた。
奴とわしは何故かウマが合って、時々一杯やってたんだ。
その日、二人とも酒好きなのが災いしてヘベレケになってしもうた。飲んでたのは、そう、四つのバラのバーボン。」
「二人の出会いを永遠に、ですね。」
「さすが華子、酒にはうるさいな。
もう奴は別の世界に行ってしまったが。
会いたい人に会えたんだろうか。」
「奴は容姿端麗、頭脳明晰、人柄も良しと三拍子揃ったいい男でな。女にもモテだぞ、わし程ではないがな。」
「全く、この人は、華子さん、ごめんなさいね。」
グイッ、、、
「痛たたた。
昭子のつねりは相変わらず手厳しいのう。」
「ただ、奴は時々むちゃくちゃ悲しそうな顔を見せる一瞬があってな。
ちょっと一休み、って言って、タバコをうまそうに吸いながらポツリとつぶやいたんだ。
ああ、母さんに会いたいな、とな。
それで、わしは言ったんだ。
忙しいのは分かるが、たまには顔見せてやれっとな。
すると、奴は言った。
会えないんだ。一生。絶対に。
母さん、住んでる世界が違うからってな。」
「それで、俺は奴に聞いたんだ。
絶対に会えないって、どういうことだってな。
そしたら、奴は黙って下を指さし言ったんだ。
大熊、地底の理想郷ってほんとにあるんだよ。
そこが俺の故郷なんだ、とな。」




