第87話 華子の相談事
妻の昭子がお茶を持って入っててきた。
「あらあら、この人熊の問題にはいろいろ意見があるみたいで。話し出すと止まらなくなるの。
何せ苗字が、熊、でしょ、他人事とは思えないみたいで。
すみませんね。」
「いえいえ、私のクマ子親子の夢の話から広がりまして。」
「華子さん、昔から動物大好きだったしね。
くまさんねえ。全くどうしちゃったのかしら。」
「まあ、人間の世界が変わるように、熊の世界も変わってきているのだろうな。
人間とその世界がこれだけ大きく変化しているのに、熊は昔とずっと変わらないと考える方が無理があるだろう。
それに、ここ30年の世界の変化はすさまじい。
インターネット、5G通信、パンデミック、ソーラーパネル、、、。
熊のメンタルにも何やら影響があるやも知れんな。」
「すまん、すまん。それで本題だが相談とは。」
「はい。実はおやじ殿のお宅で、一人住み込みで家政婦を雇って頂けないかと。」
「ほう、どんな方で。」
「はい。少々世間のことと言うか、日本の生活習慣に慣れていない人でして。日本語は大丈夫です。」
「ほう、外国の方ですか?」
「いえ、先祖代々日本国土に住んでいます。
ただ、住民票が無いと言うか、そちらの世界には住民票みたいなものはあったみたいなんですが。
あっ、住民票の問題は春二郎議員の方で何とか調整してます。」
「それは興味深い。さて、そちらの世界とはどんな世界なのかな。」
「はい。それが、単刀直入に言うと、ちょっと我々の住んでいる地面より、ずっと下の方にある別の世界なんです。」
「あら、まあ、それはびっくり!
日本にそんな別世界があったなんて。」
「私もにわかに信じられなかったんです。」
「いや、昭子、わしはそんな話を聞いたことあるぞ。
遙か昔、戦乱の時代、戦に疲れた高貴な一族が地底に理想郷を築いたとか。
そして、そこには素晴らしい文明と平和な社会があるとな。
さらには、実は日本の学界、政財界にはそちら生まれの有力者、実力者が少なからず存在するとも。
わしも、さすがにこれはホラ話だと思っていたが、まさかな。」
「詳しいことは、まだこれからなんですが、その女性、何とうちの隊員の幼なじみで。
子供の頃、洞穴からぽっと現れてあらびっくり、それが恋の始まり、みたいな感じで。」
「ほう、それは不思議な縁もあるもんだ。
そちらの隊員といったらみんな還暦過ぎだろう。
ということはその女性も。」
「いえ、不思議なことに、私のちょっとお姉さんって感じなんです。
何故そうなのかは、現在部隊の研究所で調べてはいるのですが。正直よく分からないんです。
時間軸もこちらとちょっと違うみたいで。
その女性を大熊家の家政婦として雇って頂きながら、日本と言うか、地上の生活についていろいろ教えて頂けたらと。
すごく勝手で無理なお願いですが。
彼女、お金も料理も電車も車もバスも何にも知らないんです。
これは困ったなあと考えてたら、大熊のおやじ殿と昭子さんの顔が浮んだんです。
けして悪い人ではないことは、私がお約束します。
別世界育ちなんで、ちょっと浮き世離れした感じはありますが、優しくてとってもいい人なんです。」
「あらあら、私達で大丈夫かしら。
大熊も私も、ちょっと日本の常識から外れて。」
「絶対大丈夫です。私、小さい頃から可愛がっていただいたから分かるんです。
それに、常識に囚われている人には頼めないんです。普通にあり得ない話ですし、それに国家秘密案件なんです。」
「うむ。昭子がいいなら、わしには反対する理由はないが。
長年ホラ吹きじじいと言われてきたが、こりゃ、あの世にもっていくホラ話のネタが増えるわ。
昭子、どうだ。」
「あらあら、その方、うちの猫ちゃんとお友達になってくれるかしら。」
「多分、いえ絶対、大丈夫です!
うちの隊員と初めて出会った時に、にゃーって言って穴から飛び出してきたくらいですから。」




