第79話 蜘蛛と男
「華子さん、ご無沙汰しています。髙橋です。」
「髙橋署長、その節はいろいろお世話になりました。」
「急な話ですみませんが、ちょっと華子さんに見てもらいたい物があって、電話させてもらいました。」
「ほう、どんなものでしょう。」
「いや、国家関係の重要宿舎に不法侵入した男がいたんで確保して調べてたんですが、そいつが変な物を持ってまして。青く光る蟲、蜘蛛なんです。
これが、私が生まれてこの方見たことないような、妙な奴なんです。」
「ほほう、興味深い話ですな。」
「そいつは今署内で身柄を確保してますが、住居不法侵入では長くは置いておけません。
変な虫を持っていたと言っても、輸入禁止の特定外来生物リストには載ってませんし。
それで、奴が署内に居る間に華子さんにいろいろ見てもらいたいと思いまして。」
ということで、華子は警察署長室に来ている。
「まずは、これを。」
髙橋は、おもむろにシルバーのアタッシュケースを開けた。
中にはガラスの瓶が3本入っていて、それぞれに青白く光る蜘蛛が入っている。
「こいつら、全く動かないのは死んでいるのでしょうか。長時間生きていられる酸素とか餌とか無さそうですし。」
「大丈夫生きてますよ。
何せ、この世界のものではないので。
大好物は人間の悪しき心です。」
「ほう、それは驚きました。」
「次は、これを持っていた男なんですが」
髙橋は取り調べ室の隣の小部屋に華子を案内した。
「向こうからこちらは見えません。」
「普通の若い地味なサラリーマン風ですね。」
「そう至って普通、で奴の勤務先が、ここです。」
髙橋は一枚の名刺を差し出した。
「宇宙生命科学研究所、ですか。」
「研究所と言っても、民間企業です。
どうも、神秘の宇宙生命の力で永遠の命とパワーを、みたいなセールストークでサプリとか売ってるようです。
聞いたことない会社ですが、不思議と資金力はあるみたいで、都内や郊外にビルや研究施設とか持っています。」
「宇宙とか生命とか科学とか高らかにうたう奴らには、大抵ろくなもんがいない。
更に全部揃った上に、神秘とか永遠とかぬかすとはな。」
「とりあえず、蜘蛛とケースは特定外来生物に該当する可能性があるという理由でこちらで確保します。
とはいえ、あの男は2〜3日位調べて釈放することになるかと思います。」
「蜘蛛は華子さんにお渡しするので、そちらで調べてみてください。
こちらで蜘蛛を押さえたことで、何とか研究所から反応があるかも知れません。
男と会社は、引き続きこちらで調べてみます。
新たに分かったことがあったら、改めてお知らせします。」
「ありがとうございます。蜘蛛は私の方で調べて報告します。」
華子はアタッシュケースを大型リュックにしまい、警察署を後にしたのだった。
「全く、ひろしとしろちゃんの恋物語がやっと一息ついたと思ったら、蜘蛛とはな。それも3匹も。
変なことにならなければ良いがのう。」
「ふう、夕方になってもまだまだ日差しが強いわ。
夏もそろそろ終わりかのう。」




