第56話 プロフェッショナルバカ
「それで、華子さんはあの大統領についてどう考えているのですか。」
「春にいちゃん。華子さんとか気持ち悪いから止めてよ。いつもは隊長!でしょ。」
「えっ。夏子知ってた?」
「気づかない訳ないでしょ。春にいちゃんの秘書とか、もしやるんだったら洗いざらい話してもらうわよ。」
「うーん。分かった。後で話す。」
「はははっ。夏ちゃんが秘書になってくれるならそれも仕方あるまい。春二郎も夏ちゃんのことを考えて内緒にしていたのだ。どうか堪忍してやってくれ。」
「あの大統領か。なかなかに面白い奴じゃな。わしは嫌いではないぞ。
と言っても、わしは政治家なんぞ、はなから誰も信じてないからの。」
「えっ。そうなんですか。」
「ははっ。わしは春二郎を政治家だと認識したことは無いから安心せい。夏ちゃんの兄ちゃん兼パートタイム隊員じゃ。」
「ガクッ。まだパートタイムっすか。」
「大熊のおやじ殿の言うブラック4かは分からんが、うちも黒岩の家もその他の家も、その時々自分の判断で国のために働くだけじゃ。国のためにならぬと思えばさっさと去る。それだけの話。」
「過去には、噂を聞いたいろんな殿様から大金で家来にと誘われたこともあったようだが。
金の為に働くと技が腐ると言って、適当に理由を付けて丁重にお断りしたみたいだな。」
「あの大統領自体は、どうでも構わんし興味も無い。所詮よその国の話よ。
ただ今現在彼らがやっている政府効率化の改革には、道理があると思っただけじゃ。
その他の施策とかはまだわからんな。」
「人は口先では何とでも言えるし、人の心程変わり易いものはない。
わしは、あの大統領のやっていることに道理があるか、そしてそれを一貫して行動に移しているかだけを見ておる。
政治家なぞ信じないが、行動とその一貫性には嘘がつけんからな。」
「日本でも、著名人や言論人とか偉そうにしてても、言うことがある日を境にコロっと変わったりするじゃろ。
まあ、そういうこと。金か脅しか分からんが、発言が180度変わることなんて良くあるわ。更にここ数年はそんな者が目に見えて増えておる。何事も一貫して続けるのは、なかなかに難しいものだ。」
「春二郎がテレビで政府効率化改革を叫んで国民から高い支持を受けたと分かると、党のいろんな者がすり寄って来るだろう。おっ。これはガス抜きに使えるぞってな具合でな。
そして、腹が痛まない程度の改革でお茶を濁そうとするのだ。
それか、次の選挙までは春二郎をおだてて適当に持ち上げ、選挙が終わり利用価値が無くなったら、スキャンダルでもぶちあげて政治生命終了とかな。
最悪は人生終了、彼の遺志を継ぐと言って実際はちょっとだけよっ、とかもあるだろう。
選挙公約を守らならないのはいつものこと。補助金でもちょびっとだけ渡しておけば、アホな国民などそのうち忘れるだろうってな。」
「春二郎、テレビで政府効率化改革をぶちあげるのも大事だが、その後の一貫した行動がもっともっと大切なのだ。
春二郎をガス抜きに使おうとする者、勝ち馬にとりあえずは乗っておこうとする者。政治家なぞ、そんな連中ばかりじゃ。
そいつらを、天然物のバカパワーで跳ね返し、時にやり過ごしながら、結果として大きな成果を出さねばならない。
実は、本当に大事なのは番組の後の行動なのだ。間違えても、奴らの手のひらで踊るだけの道化になってはならぬ。
奴らにはどアホと思わせながら、奴らを踊らせておくのだ。
アホが踊っているだけのように周りには見えても、実のところその行動は、一貫して政府効率化改革の実現に向かって突き進んでいる。
奴らが気づいた時には後の祭りよ。
それがこれからの春二郎の目標とする姿、いわば、プロフェッショナルバカだ。」
「しかし、こんな高等戦術、今の春二郎一人だけでは到底無理だろう。天然物のバカ力だけでは、ハリケーン並みの荒波では生き残れん。
だから春二郎には無い、知性、知力を持つ夏ちゃんの助けが必要なのだ。」
「プロフェッショナルバカ!か。」
「そう、それが春二郎の最終形態じゃ。」
「私、春にいちゃんならなれる気がする。本物のプロフェッショナルバカに。
私、ずっと春にいちゃん見てきたからわかる。
うん。春にいちゃんなら、
立派なプロフェッショナルバカに絶対なれるよ。」
「夏子っ、ありがとう。
俺、最終形態を目指して頑張るよ。
プロフェッショナルバカに!」
「プロフェッショナルバカに乾杯!」
三人は静かにグラスを合わせたのだった。




