第51話 ピーターの法則3
「あのテレビ局は、経営陣が一新すれば再生できると思いますか?」
「原田社長、それが厳しいことは自分が一番分かっているのではないかの。その会社にどんな人材がおるのか知らんし、あくまで推測でしかないが、まあ到底無理じゃろうな。」
「というと。」
「テレビ局とは、戦後利得者による、戦後利得者のための会社の代表格じゃ。
彼らは否定するかも知れぬが、テレビ局が政治家、官僚、財閥、芸能、ギャンブル等、終戦により権益、利益を得た者同士の互助会システムの中枢として機能してきたのは紛れもない事実。今回の問題は、そうした互助会システムの一部が、制御不能になり暴走したとも言える。」
「戦後の高度成長は、そうした戦後利得者の努力によって築かれた面は否定はしない。しかしその時代はとうの昔に終わっておる。世界のパワーバランスは激変し、戦勝国に追随して行けば良い時代は終わったのだ。とうに時代はもう次の段階に進んでおる。」
「コンプライアンスとかを厳格化すれば、当座の問題は回避出来るかも知れぬ。
しかし、そのテレビ局が本当に再生したいなら、いずれは完全に価値を失う戦後利得、すなわち既得権益を放棄する必要がある。つまらん戦後利得者の互助会システム等は当然終了じゃ。
果たして彼らにそんな勇気があるかの。
戦後利得者の多くは、国を愛する者ではない。そんな危機感、意識、発想自体が無いと思うがの。」
「問題は、ピーターの法則の定めの通り、組織の中枢が無能で占められていることに止まらないのだ。
長年の互助会活動つまりコネ入社や天下りにより、組織を構成する人材の多くが戦後利得者とその子息達で占められている。
本当に再生したいなら、戦後、いや明治維新以降の日本を俯瞰から見て、検証、分析、反省し、改めるべきところは自ら改めなければならない。時には、明治維新以前の日本から学ばなければならない。
さて、戦勝国に従い過去を全て否定することで享受できる、既得権益という甘い汁にどっぷり浸かってきた彼らにそれができるかの。」
「原田社長。この改革は容易いものではない。時には会社の生い立ちに立ち返って全てを否定しなければならない。それには大きな反発、時には命の危険もあるかも知れぬ。よくよく考えてみることじゃ。」
「原田社長、わしには今のテレビ局は、とうの昔に廃墟になった城の中で、昔の栄華を忘れられず、舞踏会を踊り続ける亡霊にしか見えん。
亡霊は、皆が忘れた時ただ静かに消えてゆくものじゃ。」
「どうするかは自分で決めるしかない。
幸ちゃんのことも踏まえて、よく考えてみることじゃ。
果たして、テレビ局の再生に命をかける価値があるものなのか。わしにはわからん。」
「まあテレビ局に限らず、そんな亡霊は日本中にいっぱいおるがの。春二郎の近くにもいっぱいおるわ。」
「何もしなければ変わりません。全ての亡霊が消えるのを待っていたら、本当に日本が終わってしまいます。私に今出来ることをやってみます。」
「原田社長、私も同じです。一緒にやりましょう。」
「二人がやるなら応援するだけじゃな。
そういえば、二人とも一度は亡霊になりかけておったわ。
元亡霊が亡霊退治とは面白いものじゃ。
元亡霊だけに、以外といい方法が見つかるかもしれんな。」
「はははっ。まさしく。」
三人は高笑いしながら乾杯したのだった。




