第5話 夏子と春にいちゃんと白玉
末っ子の夏子はいつも寂しかった。
父は仕事でほとんど遠くにいて、たまの選挙活動で帰ってきても地元の挨拶まわり。別居中の母には年に数える程しか会うことは出来なかった。結果夏子はおじいちゃん、おばあちゃんといる時間が多かった。夏の終わりのある日、祖父とショッピングセンターに買い物に行って、偶然発見したのが真っ白いハムスター白玉だった。
一歩も動かない夏子に、ついには困り果てたおじいちゃんが買ってくれたのだ。
夏子の粘り勝ちだった。
おじいちゃんは夏子に「しっかり世話をしなさい。」とだけ伝えたのだった。
名前は春にいちゃんと考えた。
「真っ白だから白雪姫かな」
「女の子なの?」
「実は男の子です!」
「じゃ駄目だな。」
「うーん。真っ白だから白玉クリームあんみつ」
「長いよ。」
「じゃ白玉は?」
「うん。美味しそうだし。いいんじゃね」
「食べないでえ」
ということで、真っ白なハムスターの名前はめでたく白玉に決まったのであった。
それから2年間、夏子と白玉は一番のお友達になった。
夏子は嬉しいことがあっても、嫌な事があっても、まずは白玉に報告していた。白玉も夏子が元気が無いと、心配そうにクリクリした目で見つめてくるのであった。
夏が終わり涼しくなってきた朝、白玉は冷たくなっていた。
その日夏子は初めて小学校を休み、一日を泣いて過ごした。
その晩、春にいちゃんが夏子に言った。
「明日朝早起きして白玉のお墓を作るぞ!」「嫌だあ!」泣く夏子に春にいちゃんは優しく言った。
「そんなに泣いてばかりだと白玉が心配するぞ。朝五時出発だ!」
夏子と春にいちゃんは近くの神社の周りにある小さな森に行った。
「勝手にお墓作ったら怒られるよ。」
「神様は怒らないよ。」
春にいちゃんは太い木の近くに小さな穴を掘った。
夏子は白玉を小さな手のひらに乗せると頬ずりをしてポロポロと泣いた。
涙で白玉の赤い鼻も濡れていた。
二人で白玉を丁寧に埋めて、回りに小さな石を置いた。
「白玉、これからも夏子を守っていてくれよな。約束だぞ!」
「白玉ずっとありがと。夏が終わるまで頑張ってくれたんだよね。天国でかわいいお嫁さん見つけてね。」
帰り道に夏子と春にいちゃんは、土で汚れた手を繋いで帰った。
「白玉亡くなったのが夜でよかったな。」「何でよ。」夏子は涙目で言った。
「だって白玉、夏子の寝息を聞きながら安心して旅立ったんだろ。」
しばし無言が続いた。
「春にいちゃんありがとう。今日は学校行きます。」
それ以来夏子は、いつも白玉に守られていると信じている。
あの頃とはだいぶ変わってしまったが、夏子は今も春にいちゃんは優しいいい人だと信じている。