第46話 ドンカラス
「彦一。ひまり足があんまり痛くなくなってきた。」
「ええっ。それはっはっ。良かったのう。」
彦一は事態が変化したことに気がついたのだった。
「何とかせねば。こうなれば現世に近いとされる砂漠に連れて行くしかない。」
「ひまり殿。ちょっと用事が出来ての。これから、俺とちょっと馬に乗って出かけてくれぬか。」
「いいよ。お馬さん乗ってみたい。」
「これが俺の相棒。こかげだ。小さい鹿の毛と書く。とっても優しくて頼もしい馬だ。」
「こかげちゃん。かわいい。」
「よし、善は急げだ。」
彦一はひまりを抱えると、愛馬こかげに飛び乗った。
「では、いざ砂漠の地に。」
「すごい。お空を飛んでる。」
「昔は華子を乗せてよくあちこち行ったものよ。」
「華ちゃんは彦一の妹なの?」
「ああ華子は俺の妹で恩人だ。俺に真っ当な生き方を教えてくれた。本当の妹ではないがの。
俺は昔暴れん坊でな。見る物、触るもの、みんなぶち壊してたんだ。でな、華子にこっぴどく怒られてな。約束したんだ。みんなに優しくするとな。」
「さて、砂漠が近いがどこに行けばいいのか。」
すると、四羽のカラスがやってきた。
「おおっ。カラス急便の。」
「ついて来いとな。カラスには世界を渡る能力があると聞いたことがある。現世への入り口を案内してくれるのか。かたじけない。」
カラスは砂漠に降りたった。
続いて彦一も降りた。
現世への道なのか、砂漠にぽっかりと暗く先が見えない穴が渦を巻いている。
「ひまり殿どうだ。足は痛むかの。」
「ちょっと痛くなってきた。」
「悪いが我慢してくれぬか。痛いのはひまり殿の故郷が近い証拠なのだ。」
「ここなら、華子の声が聞こえやすい。
心を真っ白にして華子の心の声を聞くのだ。」
その時、三人の厳つい男達が馬に乗って降りてきた。
「面倒くさい奴らがきたわ。」
「我々は移民管理局なり。その子はもうこの世界の子供なり。勝手に現世に送ることはまかりならん。」
「たまたま間違って迷い込んだのだ。正しい居場所に帰るのに問題などあるまい。」
「それは我々が審議して判断すること。さあ我々に引き渡せ。」
「そんな時間は無い。悠長なことを言っていたら帰れなくなるわ。」
移民管理局の三人が棒を手に近づいてくる。彦一は後づさりして穴の近くで立ちどまった。
「もはやここまでか。こうなったら、ひまり殿は俺が送って行くしかあるまい。」
「ひまり殿。俺が行けるところまで連れて行く。俺にしっかり掴まって華子の声に耳を澄ましておれ。」
「彦一は大丈夫なのか。」
「わからんが、俺の一世一代の大仕事よ。何としても守ってみせる。」
「さあ、彦一。男だろ。勇気を出せ。
華子ありがとうな。お前の兄者になれたのが誇りだ。」
「私お父さんいないから、彦一の娘になる。」
「何と何と、ありがとうひまり。俺の娘。
勇気が湧いてきたわ。お父さんに任せろ。」
彦一はひまりを抱えて穴に向かって走り出した。
その時、巨体な黒い壁が彦一の行く手を阻んだ。
「ドンカラス殿。」
「彦一殿。その役目わしに任せてくれ。
カラスの一族は世界を渡れると聞く。わしもそう長くない。命が尽きる前にその大仕事わしにやらせてくれ。
彦一殿、心配いらぬ。カラスの王と言われたわしに出来ぬ筈はない。」
「では、ひまり殿。拙者ドンカラスが彦一殿に代わりお送りする。
彦一殿さらばじゃ。達者で。
我が息子達よ。誇りを持って生きろ。」
「彦一。。。お父さん。ありがとう。」
「ドンカラス殿。どうかひまりを!」
ドンカラスはひまりを掴むと、暗く深い穴の中に消えていった。




