第25話 えみちゃんと華子
華子は子供ちゃんこで、みんなから離れてポツンと一人で食べている女の子を見つけた。
「親方。あの子は誰じゃっけ?」
「えみちゃんです。ちょっと恥ずかしがりなのかなあ。最近元気ないかも。」
「えみちゃん!お元気かあ。」
「あんまり元気じゃない。」
「男の子が、お前いつも同じ服着てて、汚なくてくさいから近くに来るなっていじめるの。」
えみちゃんは、お母さんを小さい時に病気で亡くしたので、お父さんと二人で暮らしているのだ。
「ほう。わしは、人をくんくんするのが好きでな。ちょっとえみちゃんもくんくんして良いかの?」
「ええっ。くさいからやだよ。」
「そう言わずちょっとな。」
くんくん。
「ほう。かわいくて優しい女の子のにおいがするのう。」
「本当う。」
「本当じゃ。わしはくんくんに関しては、専門家ですごい達人なのだ。安心せい。」
幸子がやってきた。
「あれ、美人姉妹がいるから、誰かと思ったらえみちゃんと華ちゃん。」
「美人姉妹とな。えみちゃんはわしの妹かあ。となると当然お姉さんのお下がりを着てもらわないといかんな。」
「よし、今度の子供ちゃんこにお姉さんのお下がりを持って来よう。」
「えみちゃんが気にいったら、わしのお下がり着てもらえんかの。もちろんお父さんにも聞いて良ければじゃが。」
「そんな。華ちゃんのお洋服なんて悪いよ。」
「いや。わしも妹にお下がり着てもらったら嬉しいぞ。」
「お父さんに聞いてみる!」
そんなことがあって、えみちゃんはいくつか華子のお下がりを着るようになった。
華子のお下がりには、どれもお花のワッペンが付いている。
「えみちゃん元気かあ。」
「元気だよ。でもまだいじわるする子はいるけど。」
「そんな奴放っておけ。時間の無駄じゃ。」
「放っておいてもいじめに来るから。」
「あっ。きたきたよしおくん。やだなあ。」
よしおはお母さんと二人暮らしのやんちゃ坊主の甘えん坊だ。お母さんは忙しいらしく、最近顔を見せていない。
「おう。よしおくん。えみちゃんはわしの妹だから仲良くしてくれると嬉しいぞ。」
「ええっ。えみちゃんが華ちゃんの妹の訳ないじゃん。ウソつき!」
「ウソではない証拠に、えみちゃんはわしのお下がりを着ている。お花のワッペンがその証拠じゃ。えみちゃんは、姉のお下がりを着てくれているとってもいい子なんじゃ。」
「そんなのおかしいよ。こんなでっかいお姉ちゃんなんているわけないよ。」
「でっかくて悪かったのう。ごちゃごちゃ言わず、わしの妹と仲良くして欲しいのう。」
「うーん。わかったよ。仕方ないな。華ちゃんの妹だしえみちゃんと仲良くするよ。」
「そうそう、よしおくんはいい男になるぞ。えみちゃんだけでなく女の子みんなに優しくな。」
「ええっ。みんなに。」
「そうじゃ。学校の子も子供ちゃんこの子も、もちろんお母さんにもな。」
「お母さんは女の子じゃないよ。」
「お母さんもわしも幸ちゃんも、みんな昔は女の子じゃ。」
「それに、女の子みんなに優しくしてるといい事があるぞ。」
「ええっ。何があるの?」
「それは今はまだ分からん。とりあえず優しくしてみて、いつかいい事があったら教えてくれ。」
「変なの。りょうかい!」
「よし、えみちゃんあっちでみんなと遊ぼうぜ。」
「うん。華ちゃん遊びに行っていい。
私もみんなにもっと優しくするね!」
華子は、えみちゃんの背中で揺れる大きなひまわりのワッペンを見ながらつぶやいた。
「それにしても、あのワッペンでっかいなあ。まあいいっか。」




