第23話 レアスメルスーツ2
ラストパラダイスの控室で華子は東北美人の雪さんとお話中だ。雪さんは柔らかい物腰のおっとりさんに見えて、実はギャル上がりのお姉さんだった。
「咲ちゃん。最近だいぶ慣れてきたわね。」
「雪さんのおかげです。お仕事からメイクのことまでいっぱい教えて頂いて。
あの盛れ過ぎてもはや誰だか分からない神業メイク、毎日練習してます。」
「あっ。あれね。あれはね。気をつけないと、盛れ過ぎてもはや人間かどうかも分からなくなるから気をつけてね!」
「はい!」
「咲ちゃんもともと素質があるのよ。
あっ。うちの小雪ちゃん元気かな。」
雪さんはスマホをいじり出した。
「あっ。小雪ちゃん。いたいた。あら退屈してるのかしら。夜一人にしてごめんね。咲ちゃん見て!あんっ。可愛いすぎる。」
「かっわいい。まっ白くでふわふわ。おうちに小雪って表札付いてる。ひゃ~」
小雪ちゃんは真っ白なチワワだった。
「おっ。ヤバいヤバい。危うく仕事を完全に忘れるところじゃった。」
「咲さん!お願いします。」
「あっ。雪さん行ってきますね。」
「頑張ってね!ファイト。」
黒服に案内された奥の個室っぽい席にいたのは、スーツ姿の春二郎だった。
「ご指名頂き、ありがとうございます。
咲です。よろしくお願いいたします」
「いやあ。はな、いや咲ちゃん見違えましたよ。春二郎、三回ひっくり返るくらい美しいです!」
ママがやってきた。
「春二郎先生。咲ちゃんとお知り合いなんですって。びっくりだわ。」
「いやあ。彼女とは子供の頃からの知り合いなんです。ここで働き出したと聞いてそこはかとなく寄ってみました。」
「まあ、そうなの。お体は大丈夫?」
「はい!ご心配をおかけしました。今は二回ひっくり返ってもとに戻る位元気です。」
「まあ、良かったわ。ゆっくりしていってくださいね。」
春二郎は、偉い先生に連れられて何回かラストパラダイスには来ていたので、ママとはすでに顔見知りなのだ。
「あれは着てきたか?春二郎先生。」
「万事抜かりなく。隊長、先生はやめてくださいよ。」
「あのおもらしの春にいちゃんが先生とはな。あれの具合はどうじゃ。」
春二郎はスーツの下に、レアスメルスーツを着用していた。
レアスメルスーツとは、隊員三人が夏の暑い日に一日働いたTシャツをほっかほっかの状態で真空パック&冷凍保存し、さらに同様の処置を施した白石副長のYシャツを着ることで完成する四臭混合スペシャルスメルスーツだ。着用後すぐに真空パック&冷凍保存する事でその温かな風味を余すことなく再現しているのだ。
その効果は捕獲したパラサイトで実証済みで、パラサイトはその匂いに一瞬でひっくり返ったと報告を受けている。
今日春二郎は、特殊防臭加工したスペシャルスーツでその匂いの漏れを防いでいるのだ。
「隊長。これむちゃくちゃ暑いんですが。
スーツの下に4枚も着ていて。それにYシャツ異様にデカイし。だいたいステテコ必要なんですか?」
「我が研究所が誇る技術の粋を集めたスーツに文句とは、春二郎いい度胸じゃ。
そのステテコはオマケじゃ。下も無いとスーツっぽくないのでな。
はて、ステテコは誰のじゃったかな。わしのじゃないことは確かだと、、、、思うぞ。
ふふふっ。」
「何すか。その意味深な笑い。変な想像させないでくださいよ。ええっ。マジっすか?そんな特典オマケ付きって。
ありがとうございます!着てみて良かった、レアスメルスーツ。ありがとうレアスメルスーツ!家宝にしなくちゃレアスメルスーツ!」
「そんな訳あるかい!お前をリラックスさせようと思っただけじゃ。ふふっ。
水分補給は忘れずにな。命に関わるぞ。」
「ラジャー。」
「いらっしゃいませ!」
「あら、原田社長。ようこそラストパラダイスへ。」
「ターゲットが来たぞ。」
「お前が来ていることを知ったら、奴は必ずここに来る筈だ。後は段取り通り頼むぞ!」
「イエス!マム。」
春二郎はあまりの暑さに、恐るべき機能の裏に隠されたレアスメルスーツの持つ危険性を噛みしめたのだった。
それでも、春二郎のステテコへの興味はけして尽きることはなかった。




