第17話 ラストパラダイス
ラストパラダイスは多くの政財界トップが訪れる銀座の高級クラブである。今日華子は体験入店をしている。
ママには気に入ってもらえたようで、面接は無事クリアする事が出来た。
夏子から特訓を受けて、華子は女性らしい淑やかな話し方もマスターしているのだ。
「あっらー。華子ちゃん。とってもトレビアンよ。ほんと黒が似合うわ。まるでティファニーの時のヘップバーンみたい。私が若い頃はそれはそれは憧れたものよ。」
このおばやん一体歳いくつなんじゃ、とツッコミを入れたくなるのを思いとどめ、華子は丁寧にお礼を言った。
「ありがとうございます。ママ。こんなに素敵なドレスを貸していただいて。」
「どういたしまして。さて、華子ちゃんのお名前何にしようかしら。」
「お花が一杯咲き乱れるイメージ。花咲黒子・クロちゃん、クロはうちのワンコだし、なんか違うわね。
花岡咲ちゃん。いかが。花が丘に咲き乱れるイメージよ。」
「素敵な名前ですね。ありがとうございます。ママ。」
華子は正直何でもよかったが、嬉しそうに頷いたのだった。
「じゃあ咲ちゃんでいいわね!簡単に仕事やマナーを教えるわね!」
華子はあちこちムズムズするのを我慢しながら、可愛らしく頷くのだった。
「今日体験入店する咲ちゃんです。フォローしてあげてくださいね!」
「咲です。全くの未経験ですがよろしくお願いします。」
今日華子は体験入店なので、あちこちの席に先輩のフォローに行くのだ。
「咲ちゃん!」
次々とヘルプに呼ばれて行くうちに、だんだん慣れてきた。
「これは以外と楽しいかも。この仕事、わしにひょっとして合ってるかもじゃ。芋焼酎は無いみたいだが酒も飲めるしのう。」
といい感じに調子が乗ってきた頃、ついにターゲットがやって来たのだった。
「原田社長!いらっしゃいませ。ラストパラダイスへようこそ。」
しばらくして、ついにママから声がかかった。
「咲ちゃん!」
「はーい。」
咲ちゃんこと華子は、ヘップバーンを思わせる優雅な足取りでターゲットが待つ席に向かった。
「ここがお前のラストパラダイスじゃ。」
華子は誰にも聞こえない小さな声でつぶやいたのだった。




