8媚 知識
「……………くぅ」
「むにゃむにゃ」
「すぅすぅ」
朝。
目を覚ますと3つの寝息が聞こえてくる。
どこに誰が寝ているのかと首を傾げつつ起き上がろうとするけど、何かに体をつかまれていて起き上がれない。ということでどうにか首だけ動かして周りを見て見ると、
「今日は2人ともかぁ……………」
僕に絡まる4本の腕。ついでにその上から追加で長い腕が覆いかぶさっている。
テレサちゃんとグレーシアちゃんがボクを抱き枕にしてて、さらにマリナちゃんがそれを優しく抱いてるという感じの構図だね。もう絶対抜け出せない状態だよ。
普段はテレサちゃんだけが抱き着いてグレーシアちゃんがテレサちゃんに抱き着いてるってことも多いんだけど、今日は、というか昨日の寝るときはテレサちゃんもそういう気分だったみたいだね。
1人だったらぎりぎり抜け出せるけど2人に抱き着かれるのはさすがにどうにもできないし、
「起きるまで待ってないとだめっぽいな~」
ということで、思わぬところで時間ができちゃったね。
無駄にするのも惜しいし、これまでの訓練の成果の確認もかねてちょっとステータスの確認でもしてみようか。
ということでまず最初に出すのが、僕。何気に初めて出すね。
《ドグマ―・セルヴァート・クラウゼ》2才:♂
職業:剣豪(未開放)
スキル:『鑑定』『身体強化1』『隠蔽1』
『剣術1』
まあ平凡な感じかな?
あんまり見てないから分からないけど、同年代と比べるとスキルは多い方なんじゃないかと思うよ。まあただ、1つは転生特典なんだけどね。
グレーシアちゃんに抱き着かれたまま色々する訓練(?)をしてたら手に入れた身体強化に加えて、何とか隠密と剣術もゲットできたよ。とはいっても色々な武器を使って剣術だけだから、他の才能がないのか職業も剣豪だし剣術に適性があるってことなのか……………判断が難しいところだね。
まあ、じっくり鍛えていくつもりだよ。
では次。
あんまり変わってないけど、マリナちゃん。
《マリナ》19才:♀
職業:暗殺者(未開放)
スキル:『隠密52』『隠蔽63』『無音41』
『空間把握62』『立体軌道43』
『同化28』『投擲57』『短剣術72』
『剣術33』『双剣術21』『弓術12』
『騎乗62』『闇魔法8』『弱点把握24』
『暗視21』『気配察知43』『無臭4』
『気配遮断14』『格闘術22』『開錠3』
『教授2』
ほとんど変わってないね。教授っていうのが増えたり探知系のスキルのレベルが上がった感じかな。
まあ元々スキルも色々と持ってたからこんなものでしょ。
で、本命はここからだよ。
双子ちゃんのステータスを続けて出そうか。
《テレサ》4才:♀
職業:闇の主(未開放)
スキル:『隠密6』『隠蔽5』『無音2』
『スリ3』『空間把握6』『立体軌道5』
『無臭1』『暗視1』『開錠1』
『軽業1』『跳躍1』
《グレーシア》4才:♀
職業:死神(未開放)
スキル:『隠密3』『隠蔽6』『無音1』
『スリ1』『空間把握4』『立体軌道8』
『短剣術6』『投擲6』『弱点把握1』
『双剣術1』『格闘術2』『回避1』
一応比較のための会ったばかりの時に見たステータスがこちら。
《テレサ》4才:♀
職業:闇の主(未開放)
スキル:『隠密5』『隠蔽3』『無音1』
『スリ3』『空間把握1』『立体軌道3』
『同化1』『投擲1』『短剣術1』
《グレーシア》4才:♀
職業:死神(未開放)
スキル:『隠密3』『隠蔽1』『無音1』
『スリ1』『空間把握4』『立体軌道5』
『短剣術4』『投擲4』『弱点把握1』
色々とそれぞれスキルが増えてるんだよねぇ。
外に出すわけにもいかないしたいていが訓練で身に着けたスキルなんだけど、おかげで戦闘に役立ちそうだよ。特にグレーシアちゃんは相当強いんじゃないかと思うよ。
今まで騎士とかを鑑定したことはないからわかんないけど、たぶん新人の騎士くらいだったら倒せるんじゃないかな?
「とりあえずある程度育ってきたし、そろそろ外に出るのも考えてもらった方が良いかな」
「外?」
僕がつぶやくと、耳元に不思議そうな声が届く。
声のした方に視線を向けると、ばっちりテレサちゃんと目が合った。しばらく見つめあってると、さらに強い力で抱きしめられる。
「おはよう。とりあえず起きたなら放してくれない?」
「……………ぐぅぐぅ」
「いや、寝たふりするにしても分かりやすすぎじゃない!?」
僕が解放してほしいと頼むと、寝たふりを始める。どうやらまだ僕を抱き枕にしてゴロゴロしたいみたいだね。
結局そのまま30分くらい開放されないままベッドにこの先のことを考え続けることになったよ。
で、そうして色々と考えてみたことをマリナちゃんに今度の方針として伝えて、
「外に出る、か。経験を積むのにはいいかも」
「でしょ?まあまだ今は訓練始めたばっかりだからマリナちゃんとしては許可できないかもしれないけど、もうちょっとして2人に実力がついてきたら連れて行ってあげてほしいかな。それ用の外装とかは準備しておくから」
「ああ。そっか。顔見られるわけにもいかないしね……………冒険者にでもなれば良いかな?」
「どうだろう?経験を積んでほしいだけで、お金が欲しいわけじゃないからなぁ……………まあでも、立場を持てるのは悪いことじゃないのかな?それに、冒険者してれば強い盗賊とかモンスターとかの情報も入ってくるし丁度いいかもね」
外に出て冒険者になってもらうみたいな話もしつつ予定を立てていく。
マリナちゃんは外に出すなんてとんでもないとか言うかと思ったけど意外と乗り気で、
「じゃあ来週くらいから隙があれば出てみようかな。まずは私1人で出て、やれそうなら2人のうちどっちかを連れていく感じで」
「ああ。うん。それでいいかもね」
かなりすぐに行動することが決まる。一応双子な2人の成長力がすさまじいからその少しの期間でもちょっとは成長するんだけど、それでも少し心配なペースで、
「じゃあ、行ってきます」
「あっ。うん。いってらっしゃい」
見送りの言葉を告げて、黙って手を振るテレサちゃんに手を振り返し消えて行く2人を目で追う。
部屋の中には、僕と連れていかれない方の双子の片割れなグレーシアちゃんが。
「本でも読む?」
「……………ん」
マリナちゃんがいないから戦闘の指導もしてもらえないし、基礎メニューを終わらせた後は適当に読書をしながら過ごすことに。
ただ、意外と本を読んでみると面白いことが書かれてて、
「農業系の知識も持ってて損はしないよね……………」
「………農民になるの?」
「今のところなる予定はないかな。まあ、今後の展開次第だね」
「……………そっか」
貴族としては必要ないだろう知識も結構手に入る。特に前世と違ってこの世界は魔法もあるから、そういうのを利用した作業の方法なんかも書かれてるね。
まあちょっとややこしい事情があって、正確に言うとすればこういった技術で使われるのは魔法じゃなくて魔道具なんだけどね。でも 結果は同じようなものだしそこは今はあんまり気にしなくても良いかな。
そんなことよりも、
「知識、か……………結構重要だよね」
「……………ん。大事」
「本を利用するのもありかな」
「……………?」
僕が何をするつもりなのか分からないようで、グレーシアちゃんは首をかしげる。
でも、口で説明するよりも実際に見せた方が早いと思うんだよね。それに何の狙いがあるのか理解できないとしても。
ということで、数日後。
3人は勿論メイドや護衛なんかを引き連れつつ屋敷の中を移動する僕は、
「おいっ。下民。何をこんなところで歩いてんだよ」
「え?あっ。兄上」
この屋敷の中で微妙な立ち位置にいる男の子。
主人公に出会う。
「あぁ?お前は弟じゃねぇ!俺のことはドグマ―様と呼べ!」
「で、でも、」
「うるせぇ!」
僕のことを兄と呼ぶ主人公に向けて、たまたま持っていた本を投げる。
本は主人公の足元に、丁度体に当たらないくらいのところでバウンドして落ちていく。
それを見た使用人が慌てて、
「ド、ドグマ―様。おやめください!旦那様からあのものには暴力を控えるようにと言われていたはずです!」
「あぁ?何居追ってんだお前は。俺は暴力をふるったんじゃなくて、あの汚れた下民に知恵を与えてやったんだよ。俺は優しいからなぁ。ヒャハハッ!」
僕は笑う。正直怒られるかもしれないという不安はあるけど、大事なことだと思うからね。
しかもちょうどいいことに、
「おぉ?ドグマ―に……………けっ。下民じゃねぇか。何やってんだよ」
「あぁ。兄上。俺はちょっと、この愚かな下民に知識を与えてやってるだけだぜ」
「知識を?」
「ああ。こういう風に、なっ!」
次男がやってきたので、それに見せつけるようにまた本を投げる。放物線を描いた本が、身を縮こめる主人公の体をかするようにして落ちていった。
それを見ていい考えだと思ったのか、兄もまた本を使用人にとりに行かせて投げる。
更に僕たちに媚びを売りたい使用人たちもどこから持ってきたのかは分からないけど本を投げていく。
「……………おい。下民。ちゃんとお前にやったんだから掃除しとけよ?こんな地面について汚れた本を残してたら、屋敷の見栄えが悪くなるからなぁ」
「……………はい」